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修行ー1

 継承式を無事に乗り越え聖女になった私だけど、すぐさまアリアさんの後を継がせられるということはなかった。

 私が田舎者なのを考慮しているのか、聖女としての心得とか礼儀作法とか、そういう聖女として生きていく上で知っておいた方がいいことを学ぶ機会を、アリアさんが作ってくれたのだ。


 「ワタシもサイショハ苦労したのですよ? 本当に手のつけられないお転婆で」


 と静かに微笑んだアリアさんはどこからどう見ても淑女って感じだったけど、聞くところによると本当にやんちゃだったらしい。

 そのアリアさんをこんな風に変えてしまった教育プログラム……私の人格も変えられたらどうしよう、なんて思っていたんだけど


 「ただの勉強会だ、コレ」


 いざ講義を受けてみると、なんのことはない。ただの勉強会だった。

 緊張して損した気分だ。

 多分、やんちゃだったとはいえアリアさんには元々淑女になれる才能があったに違いない。それが聖女になって開花したに過ぎないんだろう。


 「なにか? 聖女様」

 「あ、なんでもないです」

 「そうですか。それでは気を散らさないできちんと聞いていてくださいね」

 「はあ」


 顔を合わせるなり自己紹介もなく、いきなり魔物のことについて熱く語りだしたこの人は、魔物の研究をしているらしい。 

 なぜ魔物は人間を襲うのか。あんな体の構造でどうやって生命を維持しているのか。魔物の発生原因は? そもそも魔物は生き物として認識してよいのだろうか。etc.etc.そういうことを調べているんだとか。

 いちいち言うことが小難しくて理解しけれないけど、多分魔物マニアってことで間違いないと思う。


 「では基本的なことからお教えしますね。これは私の持論なのですがね、魔物は生物とはいえないと思っているのです」


 センセイの目がどこから明後日の方を向く。

 語りかける口調ではあるけれど、私を認識しているかは怪しいところだ。

 たまにいるんだよね。こういう、熱くなると自分の世界に没頭しちゃう人って。


 「魔物が最初に確認されたのは大体三百年ほど前だと言われています。場所は東の国境付近にあった小さな村。第一発見者は村に住む老人。しかしここで現れたのは、魔物を引き連れた一人の青年だったといいます。魔物も少し変わった犬にしか見えなかったと老人が供述したと記録にあります。村は当時村にいなかった村人と、七十歳以上の老人たちを残して皆死んでいます。なぜ老人が狙われなかったのかは分かりませんが、今重要なのはそこではないのです。いえ、それも充分に重要なことなのですが、今は魔物を従える存在がいる、ということに重きを置きたいと思います。魔物を従える! つまりそれは我々に明確な悪意を持って魔物をしかけている存在がいるということです。仮にこれを魔族としましょう。魔族は初期は頻繁に姿を見せていましたが、徐々に減少。つい百年ほど前に出現の記録は途絶えています。ここで話は変わるのですが、聖女様は継承式で魔物に襲われた際に魔物の死体をご覧になり、あまつさえその死体を観察してみせたとか。ーー素晴らしい! あなたが聖女様でなかったら、ぜひ私の助手をお願いしたかったくらいです」

 「え、あ、ありがとうございます」


 いきなり私に話題がふられて、正直眠りそうだった私は慌てて居住まいを正した。

 けどやっぱりセンセイは私に注意を払うことなく、憑かれたように喋り続けている。


 「お気づきになったと思いますが、魔物の中身はなにもありません。生命活動に必要な臓器は何一つ備わっていないのです。だからといって空洞ではなく、黒い肉のようなものが詰まっています。血管すらも見当たらないというのに、血液とおぼしきものは存在している。なんと骨すら存在していません! しかし実際に魔物は動いている。そこで私はある仮説を立てました。もしや、魔物は魔法で作られたものではないか、と。現在この世界で最もその類いにお詳しいエリオナイト様に確認をとったところ、奇跡の類いを用いて生物を作り出すことは可能だと! ーーつまり!! 魔物は魔族が作り出した生物なのではないか!? そう考えれば、倒された魔物が時間をおいて溶けるように消えてしまう理屈も証明できます。ああいったものは溶性ですから、留めるものがなければ霧散してしまうのです。そして内臓がなくても動けるのは、真実生き物ではないからでしょう。魔法で作り出す生物を本物に近づけるには、とんでもない労力が必要だとエリオナイト様はおっしゃいました。魔物は我々を害することのできるキバト爪さえあればいいのですから、中身にまで気を使う必要はあ

りませんしね。この仮説はエリオナイト様も認めてくださっているんですよ」

 「な、なるほど……?」


 早口すぎて時々聞き取れなかった所があって完璧に理解はできなかったけど、エリオナイト達が認めてくれているっていうなら、そうなんだろう。

 これは別に理解を放棄してるとかそういうんじゃなくて、適材適所ってやつだ。私は頭を働かせるには向いていないのだ。


 「ーーと、いう訳でですね、私は魔族さえ倒すことができれば我々はもう怯えて暮らさなくても良くなると考えているのですよ!」

 「へぇ! すっごい!」


 私の頭でもそれだけは理解できた。

 魔族さえどうにかすることができたら、私は聖女の役目から解放されるかもしれないってこと!?

 だってせが必要とされているのは、魔物の驚異から人を守るためだもんね!


 「センセイ! すっごく為になりました! ありがとうございました!!」

 「とんでもないことです。聖女様には頑張って魔族を倒していただいて、私の仮説が正しかったと証明してくださればそれだけで」

 「頑張ります!」


 私とセンセイは硬く手を握り合ったのだった。



センセイ大暴走

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