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第25話:海辺で豪華なプレゼント大作戦!〜ちょっぴり派手な魔法の演出に、お隣の殿様もびっくり仰天!〜その1

この作品は「零戦」さまの「戦国日本軍リメイク」および「戦国日本軍」の一部設定をお借りして執筆されています。

 

零戦様HP https://mypage.syosetu.com/26122/ 

戦国日本軍リメイク https://ncode.syosetu.com/n7441hl/

戦国日本軍 https://ncode.syosetu.com/n2674cj/

永禄四年(一五六一年)四月十二日。


 相良本部の作戦会議室には、城ヶ島に設営された無線中継所を経由し、特設艦隊からの暗号通信が連日のように届いていた。


 真空管が微かな熱気を放つ通信機の前で、通信士が受信した電文を清書したものを差し出してくる。私は冷めかけたコーヒーを啜りながら、そこに並んだ文字列を黙読した。


『現在、城ヶ島拠点の設営は予定通り進行中。ただし、工兵隊のブルドーザーに対し、現地の島民が海神わたつみの使い、あるいは鉄の荒神と勘違いし、排気管の前にその日獲れた魚や濁り酒を供えようとする事案が多発。工兵が火傷の危険を説明するのに難儀している。また、陸戦隊の連中はすっかり漁師気取りで、観洋丸のコックに「これで刺身を引け」と無理難題を押し付けている模様』


 私は思わず口元を緩め、短く息を吐いた。


 海堂中尉という男は、一見すると斜に構えた皮肉屋だが、こういう公式報告の端々に、部隊の士気や現地の空気を的確に忍ばせてくる。艦隊指揮は未経験という不安要素はあったが、彼に現場を任せたのは正解だったようだ。慣れない海風に晒されている国民軍の素人兵たちも、陸戦隊の図太さに呆れながらも、どうやら平穏に島での生活に順応しつつあるらしい。


 とはいえ、彼らの本題は城ヶ島でのバカンスではない。三浦半島の先端に打ち込んだこの「楔」は、あくまでその先へ向かうための跳躍台に過ぎないのだ。


 我々の視線と兵站線は、すでに相模湾を越え、はるか北、常磐じょうばん、そして三陸海岸へと向けられていた。


 作戦の最終到達点は、東北の峻険な山々に抱かれた釜石の鉄山である。しかし、良質な鉄鉱石を手に入れたところで、それを溶かし、相良の工廠を重工業レベルへと引き上げるための莫大な熱量と還元剤がなければ、ただの重い石の山に過ぎない。


 誤解してはならないが、現在の相良が深刻なエネルギー枯渇に瀕しているわけではない。谷の最深部に構築された相良油田製油複合体は、外部からの補給が絶たれた完全孤立状態においても、守備隊の機動力を維持し最低10年間は稼働し続けるよう設計された要塞型の生産施設である 。

 そこでは昭和17年に削井された1号井のポンピングジャックが重低音を響かせて稼働し、昭和20年4月に掘られた2号井からは今も絶え間なく原油が自噴し続けている 。


 月産225キロリットルに達する原油精製量は、現存するトラックや航空機、艦艇といった近代兵器を運用するには十分な量だ 。巨大な地下施設には、3000キロリットル分ものタンク群が戦略備蓄として確保されているという安心材料もある 。

 だが、それはあくまで「現有の部隊と兵器を延命させるため」の血液でしかない。


 我々の目的は、この戦国時代に単なる軍事拠点を持ちこたえることではなく、「機械・化学産業文明」そのものを根底から再構築することにある。製鉄用の溶鉱炉を稼働させ、無数の工場で蒸気機関を回し、大規模な化学プラントを拡張していくためには、相良の油田がもたらす現在の生産規模では絶対的に不足するのだ。だからこそ、石油という液体の血とは別に、産業の巨大な胃袋を満たし、鉄から酸素を奪い取るための強靭な黒い骨格、すなわち莫大な量の「石炭」が、今どうしても必要となるのである。


 もちろん、未来永劫にわたって国内で石炭を掘り続ける必要はない。いずれは外洋へ進出し、より大規模で上質な資源地帯へ手を伸ばす日も来るだろう。だが、現時点で我々が生き延びるためには、すぐ手の届く場所にある確実なエネルギー源を確保しなければならない。


 そのための最も現実的な選択が、福島から茨城にかけて広がる「常磐炭田」だった。


 昭和の地質データによれば、常磐の石炭は決して最上質の石炭というわけではない。カロリーや燃焼効率の面では、九州や北海道の炭田に一歩も二歩も譲る部分があるのは事実だ。だが、それを補って余りある利点があった。それは、地表近くに炭脈が走っており、近代的な巨大坑道を掘らずとも、現在の我々の技術と労力による「露天掘り」に近い形で、大量かつ急速に採掘が可能だということだ。

 質より量、そして何よりも「速度」である。中世の停滞した時間軸の中で、我々だけが猛烈な速度で文明の歯車を回し続けなければ、たちまち周囲の野蛮に飲み込まれてしまう。


 常磐沿岸は現在、いくつかの在地勢力によって分割統治されていると聞く。

 彼らに対し、我々は相良の外交ドクトリンである「圧倒的暴力による事前粉砕」と「技術的恩恵による懐柔」を同時に適用することを決定していた。これは、中世の武将たちが好むような名誉や領土を巡る野蛮ないくさではない。我々の文明を生存させるための、必要最小限の外科手術である。


 彼らが「燃える石」の価値を理解していようがいまいが関係ない。我々は必要なものを切り取り、代わりに彼らが喉から手が出るほど欲しい「豊穣」と「恐怖」をセットで提供するだけだ。


 すでに特設運貨船「第七大黒丸」や「観洋丸」の船底には、相良の兵器補給廠で昼夜を問わず生産された数千本のツルハシ、タガネ、そして分解された手押しトロッコが山積みになり、暗闇の中で出番を待っている。


「さて、海堂中尉。そろそろ次の海図を開く時間だ」


 私は灰皿に煙草を揉み消し、壁に掛けられた巨大な日本地図の、常磐の沿岸部に赤いピンを突き刺した。





四月十四日、午前。


 春特有のねっとりとした海霧が晴れ始めた福島県・小名浜おなはま沖に、鋼鉄の旗艦・第二十三号艇を先頭とする相良の船団が、重油の黒煙を長く引きながらその威容を現した。


 この時代の常磐沿岸部は、二つの有力な大名によって分割支配されている。小名浜周辺の広大な炭田地帯を治める岩城いわき氏と、その北方に領地を構える相馬そうま氏である。彼らは長年、国境を巡って小競り合いを繰り返しており、互いに強い警戒心を抱きながら戦国の世を生き抜いていた。


 相良は、事前にこの両家に対して、情報を収集しつつ「交渉の余地」を探るための接触を試みていた。しかし、ここで相良の民政部は、中世の気風というものを甘く見積もるという失態を演じていた。


 事前の接触といっても、正体を明かして使者を送ったわけではない。堺の商人や、寝返った旧今川方の素破すっぱを使い、あくまで噂話の延長として「南から強大な武力を持つ船団が交易を求めて北上してくる」という情報を流し、彼らの反応を探ろうとしたのだ。


 岩城氏の当主・岩城重隆いわき しげたかは、これに極めて慎重な反応を示した。

 彼はすでに独自の商人網を通じて、小田原の北条水軍が三浦沖で「天狗の雷」によって海の藻屑と消えたという恐るべき情報を掴んでいたのだ。それが得体の知れない船団の仕業であると直感した重隆は、沿岸の防備兵をあえて内陸へと退かせ、一切の挑発を行わずに事態を静観する道を選んだ。小名浜の海岸には、漁船一隻すら残されていなかった。


 一方、北に位置する相馬氏は違った。

 相馬の陣営に潜り込ませた商人は、相良の武力をほのめかした途端に間者として捕らえられ、鼻と耳を削がれて追い返されてきたのだ。当主の相馬盛胤そうま もりたねは、代々続く勇猛な武断派であり、北条敗北の噂も「海戦に不慣れな坂東武者が、南蛮の奇術に惑わされて逃げ帰っただけの作り話」と一蹴していた。


 さらに不運なことに、如月大尉の九八直協が数日前に常磐上空で行った事前偵察は、春特有の濃霧 -やませに阻まれ、相馬の沿岸部にある入り江の詳細を捉えきれていなかった。結果として相良の司令部は、相馬水軍の関船の集結数と、海岸砦に配置された兵力を過小評価してしまっていたのだ。



「なるほど、こいつは少しばかり偵察機を過信しすぎたな。入り江の裏側に、うじゃうじゃと小舟が隠れてやがる」


 第二十三号艇の艦橋で、海堂中尉は双眼鏡から目を離し、忌々しそうに舌打ちをした。

 目の前に広がる小名浜の海岸は不気味なほど静まり返っているが、北方の相馬領との境界付近の岬には、相馬の軍旗が林立し、入り江からは数十隻の関船や小早が、獲物を狙うようにこちらを窺っているのがはっきりと見えた。


 その傍らで、元康の代行として乗船している石川一正が、額に冷汗を浮かべながら口を開いた。


「海堂殿……。岩城の海岸は静かですが、あの北の岬の陣立ては明確ないくさの構え。相馬の者たちは、我々を海の藻屑にする気で待ち構えておりますぞ。……ここは一旦船を停め、改めて正式な使者を立ててこちらの素性を明かすべきではありませぬか?」


 一正の言葉は、武士としての常識に照らし合わせれば極めて真っ当なものだった。得体の知れない相手だからこそ、まずは名乗りを上げ、交渉の糸口を探るのが筋である。


 しかし、海堂は短くなった煙草を灰皿に押し付けながら、呆れたように肩をすくめた。


「使者? 石川殿、民政部が雇った商人がどういう目に遭って帰ってきたか、報告書を読んでないんですか? 言葉の通じない相手に、こちらの要求を百回説明するより、一回だけ『地獄』を見せてやる方が話が早いんですよ」


「しかし、それでは無用な血が……!」


「無用じゃありませんよ。相馬の排除は、最初からこの作戦の工程表に組み込まれている。これは既定路線です」


 海堂は、海図台の上に広げられた常磐沿岸の地図を指先でトントンと叩いた。


「俺たちの最終目的地は釜石です。航路の安全を考えれば、あんな好戦的な連中を背後に残したまま北上するわけにはいかない。どのみち、相馬のあの要塞は潰す予定だったんです。……それに、ちょうどいいじゃないですか」


 海堂は艦橋の窓越しに、沈黙を守っている岩城の小名浜海岸へ視線を向け、ニヤリと皮肉な笑みを浮かべた。


「岩城を大人しく交渉の席に着かせるためには、最高の威力披露になります。……あの血の気の多い相馬の連中が、俺たちの火力の前でどうやって挽き肉に変わるか。岩城の殿様には、特等席で見物してもらいましょう」


 海堂のその言葉には、中世の武士が持つような熱い闘志や名誉欲は欠片もなかった。あるのはただ、工程表通りに障害物を排除し、最も効率的な結果を引き出そうとする、近代将校特有の冷徹な合理性だけだった。一正は、隣に立つこの若い青年将校が、底知れぬ怪物のように思えてならなかった。


「……通信士、城ヶ島基地へ打電しろ。航空隊の出番だ。予定通り上空から相馬の砦の解体を依頼しろ」


 海堂の静かな命令が、艦橋の空気を見えない刃のように引き締めた。

 外科手術の時間は、目前に迫っていた。





 城ヶ島を経由して相良の本部に届いた「解体の依頼」を精査した作戦会議室からの指令は、極めて冷徹かつ合理的なものだった。


『相馬領における敵対勢力に対し、九八式直協機一機のみの攻撃では、心理的・物理的打撃において不十分と判断す。相良航空隊(四月から三方原教導飛行団 相良分遣隊より改称)は、稼働機二機を用いた全力出撃をもって、敵水軍、沿岸砦、および本拠地を完全に無力化せよ』



四月十五日、早朝。

 城ヶ島の敷鉄板滑走路に、ハ一三甲ハじゅうさんこう星型九気筒エンジンの猛烈な爆音が重なり合って響き渡っていた。


 出撃線に並んだ二機の九八直協は、重武装を施され、脚部の緩衝器ショックアブソーバーが深く沈み込んでいる。

 操縦席に座る航空隊長の如月大尉は、愛機である一番機の計器盤を素早く確認した。今回は釜石偵察用の巨大な二〇〇リットル床下増槽は既に取り外され、機体下部は身軽になっている。だが、その代わりに両主翼の最内側パイロンには小型の落下増槽が吊り下げられ、さらに翼下には九二式十五キロ爆弾が片翼に四発ずつ、計八発という最大搭載数が懸吊されていた。


「……二番機、風間。無線の調子はどうだ」


 如月が喉元の送話器スロートマイクに語りかけると、耳当てに多少のノイズが混じりながらも、明瞭な音声が返ってきた。


『こちら二番機。感度良好です、隊長。……いやはや、機体が重くてまともに浮く気がしませんよ』


 後方を陣取る二番機の操縦員そうじゅういん風間かざま勇中尉の機体は、さらに異様な姿と化していた。

 主翼内側の増槽に加え、翼下には十五キロ爆弾が左右合計四発。さらに胴体下部には、かつての今川戦で猛威を振るった特製焼夷兵器、ガソリンとゼリー状の増粘剤をたっぷりと詰め込んだ『一斗缶』が計四つ、武骨なワイヤーで括り付けられている。


 現在二番機も長距離仕様への改修を終え、機首の武装である。七・七ミリ機銃を取り外し、相良の工廠が不眠不休で一式戦闘機「隼」の残骸から移植・調整を間に合わせた『ホ一〇三・一二・七粍ミリ固定機関砲』の黒光りする銃身を突き出していた。


『贅沢を言うな、風間。一斗缶のプレゼントは相馬の殿様への手土産だ。落とすまでは大事に運べ』


『了解。……血の匂いが恋しかったところです。さあ、行きましょうか』


 スロットルが全開に押し込まれる。

 二機の九八直協は、エンジンを悲鳴のように唸らせながら滑走路を通常よりも少し長く滑走し、ふわりと、だがひどく重々しく相模の空へと舞い上がった。重武装と空気抵抗ゆえに巡航速度は大きく落ちる。彼らは相模湾から常磐の空へと、鈍重な猟犬のようにゆっくりと、しかし確実な死を運んでいった。





午前九時。

小名浜の北方、相馬領の沿岸部。


 空の死神たちが到着する少し前、海上の特設艦隊ではすでに「外科手術」の第一段階が始まっていた。


「相馬の小舟どもが、入り江から湧いて出ましたぜ。数はおよそ四十隻」


 旗艦・第二十三号艇の艦橋で、見張員の報告を受けた海堂中尉は、退屈そうに首の骨を鳴らした。


 相馬水軍の関船せきぶね小早こはやが、法螺貝を吹き鳴らしながら一斉に海へ躍り出てきている。北条の水軍同様に、彼らは黒煙を吐く相良の船団を船内火災で動けなくなったと勘違いし、移乗攻撃を仕掛ける気で満々だった。



 届きもしない距離から火縄銃が放たれ、白い煙がポツポツと上がる。


「……馬鹿の一つ覚えだな。海東丸を前に出せ。まずは海の掃除だ」


 海堂の発光信号を受け、船団一の速力を誇る特設駆潜艇「第一海東丸」が、ディーゼル機関を唸らせて単艦で突出した。カツオ漁船を改装した海東丸の広い甲板では、作戦前に七.七ミリの豆鉄砲から換装された二十五ミリ機銃の銃座に砲員たちが張り付いていた。


艇長が命じる。

「距離八〇〇! 機銃、撃てッ!」

 

 放たれた二十五ミリ機関砲弾は、海面スレスレを飛び、先頭の関船に殺到した。弾丸は数センチの厚さしかない楯板たていたを紙切れのように貫通し、内部に密集していた漕ぎ手や足軽たちを、砕け散った鋭利な木片の嵐とともにミンチに変えていく。血に染まった木屑が海面に撒き散らされた。


「さて、とどめだ。……三式投射機、用意! 二式爆雷、ェッ!」


 海東丸の艦尾から、火薬の圧力によってドラム缶のような巨大な黒い塊が空中に放物線を描き、相馬水軍の密集陣形の中央部、海面へとポチャンと落下した。


 数秒の静寂の後。


 轟音と共に海面が突如として巨大な白いドーム状に隆起し、次いで数十メートルに及ぶ巨大な水柱が天を突いた。一六〇キログラムもの炸薬を充填した「対潜用」二式爆雷の水中爆発である。


 水中で発生した凄まじい衝撃波バブルパルスは、竜骨キールを持たない和船の脆い構造を根底からへし折った。直接直撃を受けていない周囲の関船までもが、船底を内側から叩き割られ、一瞬にして真っ二つに裂けて海へと沈んでいく。


 わずか五分。相馬水軍と呼ばれた集団のいた海は、木屑と肉片の漂う海域へと変わっていた。




この項つづく


最後までお付き合いいただき感謝します。

気に入っていただけたら、ページ下部よりブックマークとポイント評価をお願いします。


別シリーズの短編をアップしました。

「異聞 五稜郭」

https://ncode.syosetu.com/n4984mc/


宜しければこちらもどうぞ

「南山共和国建国史シリーズ」

https://ncode.syosetu.com/s0124k/


ご興味がある方はご一読くださいませ。


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