第23話:女の子がいっぱいの新しい街!〜ピカピカの学校と夜のお勉強会で、みんなで楽しく『あいうえお』!その2
この作品は「零戦」さまの「戦国日本軍リメイク」および「戦国日本軍」の一部設定をお借りして執筆されています。
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新相良を一歩出ると、そこにはかつての「どんよりとした戦国の停滞」を強引に引き剥がし、近代の皮膚を移植されたかのような、歪で猛烈な変貌の景色が広がっていた。
まず目を引くのは、大井川の両岸に位置する島田と金谷の変貌ぶりだ。
この川には今、全長千メートルに及ぶ、巨大な「自然の造形」による路幅八メートルの大橋が架かっている。邪神がもたらした因果の捻じ曲げにより、戦国の民たちは「この橋は昔からあったが、何故かあまり使っていなかっただけだ」と記憶を改変され、この物理的矛盾を受け入れている。だが、理屈はどうあれ、橋というインフラがもたらす物流の爆発は本物だった。
東岸の島田は、相良へと向かうあらゆる物資、近江の鉄、堺の硝石、信濃の材木が集結する「相良の喉元」と化していた。かつての宿場町は今や巨大な荷受場に姿を変え、数千の荷役たちが、工廠で造られた頑丈な手押しトロッコを転がして、船から橋へ、橋から相良へと物資を送り出している。
対する西岸の金谷は、相良から吐き出される「文明の欠片」を領外へ分配する、いわば「近代のショーケース」だ。工場の余剰品である鋼鉄の鍬や包丁、石油ランプ、そして肥料の硫安。これらを求める商人が、相良圓と金銀の双方を懐に忍ばせて列をなしている。
かつては大井川の川止めに怯えていたこの地が、今や日本で最も「時間」が正確に、そして激しく流れる物流の心臓部として拍動していた。
領域内においては、不換紙幣である「相良圓」の流通を絶対のルールとして強いているが、外部との交易に限っては、金や銀といった正貨による決済を柔軟に容認するよう舵を切った。理屈倒れの経済学を捨て、中世の「重み」を認めたことで、モノとカネの血流は劇的に改善した。相良を中心とする経済圏の規模は、転移直後の混乱期とは比較にならないほど肥大化し、今や駿河・遠江全域を飲み込もうとしている。
だが、この繁栄の影には、凄まじい「死」と「交代」の現実があった。
昨年、私たちは今川軍を文字通り殲滅した。その代償として、かつての政治的中心地であった掛川や駿府は、修羅の巷と化した。
これらの都市は武家社会の象徴であり、人口の相当数が武士階級であったが、その成人男性の実に八割が、近代兵器の理不尽な火力の前に肉切れとなって消えた。
今川軍全滅の報が届いた直後の駿府は、まさに地獄だったという。指導者を失い、夫や息子を奪われた狂乱と絶望。今川家や重臣たちの遺族、華やかな屋敷に残されていた女子供や、戦に出られぬ老いた留守居役たちは、二度にわたる皆殺しの報を聞き、選択を迫られた。
誇りを重んじる名門の多くは、相模の北条や甲斐の武田を頼って夜陰に乗じて逃亡した。だが、逃げる力すら持たぬ者や、現実を直視した賢明な一族は、相良の軍門に降った。
現在、これらの主要都市には、民政部の紐付きである「統治者代行」という名の行政官たちが派遣されている。彼らは旧領民に対して相良圓の使用を徹底させつつ、いくつかの実験的な政策を強行していた。
統治者代行たちが最初に行ったのは、農業支援以上に徹底した「治安の回復」と「法のすり替え」だった。
戦国特有の復讐心による私闘を一切禁じ、すべての紛争を民政部の裁定に委ねる法度を布告。違反者には、インフラ工事への強制労働が課された。
また、元康が進めた戸籍調査と並行し、憲兵隊による指導の元、保安隊(現国民軍)による巡回警備を開始。山賊や落ち武者狩りを物理的に駆逐し、都市の入り口には検問所を設けて、物流と人の流れを完全に捕捉した。
さらに、衛生面での「実験」も強行した。
街路の糞尿を片付けさせ、全ての井戸を検査し、「生水の飲用禁止と煮沸の義務化」を厳命。当初は「相良の嫌がらせ」と笑われたが、例年猛威を振るっていた赤痢やコレラが、代行たちの管轄区で劇的に減少したことで、民衆の態度は一変した。
「相良の役人の言うことは、冷たいが命を助けてくれる」
その実感が、憎悪を消し去ることはなくとも、確実に「服従」へと変えていった。
筆頭に挙げられるのが、農業生産の劇的な改革である。以前から民政部が派遣していた、佐々木軍曹をリーダーとする「巡回農業指導員」のチームが、各村で凄まじい成果を上げていたのだ。彼らは相良から支給される「硫安(化学肥料)」と石灰石を土壌に投入し、村ごとの境界を取り払った上で、残された女手による計画的な共同耕作を指導した。
結果として、それまでの何倍もの収量をあっさりと叩き出した。万年、飢えと間引きの恐怖に怯えていた農民たちは、佐々木たちを本気で「神仏の使い」と勘違いし、泥に額を擦りつけて崇め奉っているという。私がもたらしたのはただの窒素化合物と近代農法にすぎないのだが、中世の民にとっては文字通り天地をひっくり返す奇跡だったのだろう。
その他にも、取引における尺や升を禁じ、メートルとキログラムに統一させる度量衡の近代化。さらには、街路の衛生区画の制定と「生水飲用の禁止・煮沸の義務化」といった公衆衛生法度の布告など、中世の常識を根本から否定するような干渉ばかりを推し進めた。
だが、意外なことにこれらの政策は、反発よりもむしろ確固たる秩序をもたらし、概ね順調に機能していた。圧倒的な喪失を経験し、明日の命すら保証されなかった彼らにとって、相良が持ち込んだシステムは、冷酷ではあるが神仏よりも確実に腹を満たし、病を遠ざけてくれる「新しい理」として受け入れられつつあるのだ。
かつて絹の小袖を纏っていた重臣の妻たちが、今では相良の紡績工場で糸を紡ぎ、あるいは国民学校の寮で幼い孤児たちの世話をしている。中世の貴族階級は、相良の合理的なシステムの中に、単なる「労働力」として強制的に再配置されている。
もはやこの新相良は、周囲を拒絶して孤立するだけの「昭和の孤島」ではない。この街から発せられる近代という名の巨大な重力が、周囲の戦国の停滞を強引に巻き込みながら、領域全体を猛烈な速度で未来へと牽引し始めていた。
作戦に向けての物資の準備は終盤に入り、凄まじい規模で集積が進んでいた。
兵器補給廠の真田廠長が、兵器補給廠の職員を伴って、最終的な検品に当たっている。
倉庫には、三ヶ月分の遠征を支えるための「血」と「骨」が積み上げられていた。
私は軍衣の襟を正し、岸壁に並ぶ倉庫群を見据えた。そこから漂ってくるのは、潮の香りを塗りつぶすような、重油とグリス、そして防湿梱包に使われたワックスの混じり合った独特の匂いだ。かつて衛戍地を埋め尽くしていた原生林の香りは、今や赤煉瓦の工場が吐き出す石炭の煙によって完全に駆逐されている。
傍らに控える副官の乾中尉に、私は短く問いかけた。
「はっ。各船、規定の弾薬と燃料の搭載をほぼ完了しております。真田廠長の報告によれば、目白丸の備蓄から移載した二十五ミリ機銃弾は各銃につき二〇〇〇発。旗艦(第二十三号艇)の短十二糎砲弾は搭載分のものに追加して更に一〇〇発。今回の作戦を遂行するには、十二分な火力かと存じます」
「十二分、か」
私は心の中で短く反芻した。確かに、木造の安宅船や中世の陣屋を粉砕するには、それだけの量があればお釣りがくるだろう。
海軍の艦艇が用いる弾薬の備蓄は、陸軍の基地側にはほとんど存在しなかった。幸いにも、転移の瞬間に本土決戦用の輸送を担っていた油槽船『目白丸』が、二十万発もの機銃弾と数百発の砲弾を船倉に「持参」してくれていたおかげで、今回のような長距離遠征という博打が可能になったのだ。
目白丸の奥底に眠る二十万発というストック。その数字は心強いが、同時に私たちの限界を示す「砂時計の砂」でもある。
いくら節約しようとも、この世界で近代の雷管と装薬を完全再現できない現状では、撃てば確実に減る。その備蓄を使い果たした時、相良が誇る「物理法則の優位」は、ただの鉄の塊へと成り下がる。一九六一年の技術と一五六一年の現実が、細い糸一本で繋がっているような危ういバランスだった。
背後で、砂利を踏む規則正しい足音が聞こえた。
「大佐殿、行政側、並びに民政室の最終調整、すべて完了いたしました」
歩み寄ってきたのは、松平元康だった。
かつての三河の若き主は、今や民生部民政室の課長格という、組織の実務を支える重職に就いている。腰には刀の代わりに木製の算盤を提げ、その表情からは、かつての武将としての激情が消え、冷徹な官僚としての落ち着きが宿っていた。
彼の学習能力は、私たちの想像を超えていた。
相良が提供した楷書の教科書と算術を、彼はわずか数ヶ月で「旧制中学一年生」レベルまで修得してしまった。今や彼は、戸籍調査の結果を分析し、相良圓の流通量と米の備蓄を相関させて考えることができる、この時代で唯一の「近代官僚」と言っても過言ではない。
「元康、街の様子はどうだ」
「はっ。相良圓による配給制は、旧今川領の民たちの間でも完全に定着しております。彼らにとって、もはや仏の慈悲よりも、民政室が発行する『受領証』一枚の方が、確実に腹を満たす手段となっておりますから。……男たちを失った街の女たちも、最近では紡績工場での労働を、生きるための『勤め』として受け入れ始めております」
街の人口の六割以上、軍人を除いた九割を女性が占めるという、歪んだ都市、新相良。
元康は、その街を統治するために、あえて過度な温情を排した。一人一人の存在を「数字」として登録し、労働の対価として「紙(相良圓)」を与え、その紙でしか手に入らない近代の品々で彼女たちの生活を縛る。元康が主導したこの「戸籍と配給による統治」こそが、相良の背後を支える真の要塞だった。
「よろしい。元康、貴様も同行しろ。ある意味、お前が育てた『兵たち』の仕上がりを一緒に見ておく必要がある」
私は元康と乾を伴い、くろがね四起に乗り込んだ。
乾がハンドルを握り、車は港を離れ、工業区画の向こう側に広がる練兵場へと滑り出した。
新相良の街外れに開かれた広大な練兵場には、春の乾いた風が吹き抜けていた。
踏み固められた赤茶けた土の上で、もうもうと砂埃を上げながら、八〇〇名からなる国民軍第一大隊が展開している。彼らが身に纏っているのは、相良の紡績工場で均一に織られ、合成染料で黒に染め抜かれた簡素だが丈夫な軍服だ。
特筆すべきは、ここに並ぶ八〇〇名が、無理矢理に集められた徴用兵ではなく、全員が自らの意志で相良の門を叩いた「志願兵」であるという事実だ。
彼らの素性は驚くほど多様である。昨年の殲滅戦で主君を失い、村へ戻ることもできず流浪していた今川の足軽や三河の農兵。役目を失い、無用なプライドよりも明日の握り飯を選んだ上・中・下級の元武士たち。山を下りた樵、網を捨てた漁民。さらには戒律を捨てた僧侶や、中世の身分制度からすら弾き出されていた「不可触民」までもが混在している。
彼らが志願した最大の理由は、その圧倒的な「待遇」にある。
軍に身を投じれば、彼らの家族には安全と富が約束された新相良の街での居住権が与えられる。清潔な水、確実な三度の食事、そして最新の医療。さらには、軍内部での完全なる「能力主義」だ。
相良の軍服を着た瞬間から、中世の血筋も身分も一切がリセットされる。彼らはみな等しく「相良の兵士」となる。楷書の読み書き、四則演算、そして射撃の腕と規律のみで評価され、「見習い」から始まり、「兵卒」、「上等兵」、そして最高位たる「伍長」までの階級が与えられる。
これらの階級は、我々相良連隊の将兵からも軍の正規の階級として尊重される。だが、そこに越えられない明確な壁はある。彼らがどれほど優秀で、国民軍の「伍長」に昇り詰めたとしても、我が連隊の『皇軍の兵士』に対して命令を下す権限は一切与えられていない。彼らはあくまで相良の「手足」であり、頭脳ではないのだ。
「遊底、開けッ!」
連隊から出向している下士官の野太い号令が響く。
かつての足軽も、元上級武士も、元不可触民も、ここでは全く同じ動作を強いられる。彼らは一糸乱れぬ動きで、手にした十八年式村田銃のボルトを跳ね上げた。八〇〇の金属部品が擦れ合う『チャキッ』という硬質な音が、一つの巨大な機械の駆動音のように響き渡る。
「弾薬、装填ッ!」
彼らは腰の弾薬盒から、真鍮製の鈍く光る薬莢を取り出し、薬室へと押し込む。
最前列に立つ若い兵士の横顔が見えた。額には汗が浮かんでいるが、その目はただ真っ直ぐに、教えられた百メートル先の標的の板だけを見据えていた。戦の恐怖で足がすくむことも、手柄を立てようと猛ることもない。ただ、反復練習によって身体に叩き込まれた「手順」を、息を殺して遂行している。
「構えッ……撃てッ!」
轟音。
八〇〇丁の村田銃が一斉に火を噴き、練兵場は一瞬にして黒色火薬の分厚い白煙に包まれた。
火縄銃のバラバラとした発射音ではない。完全に統制された「斉射」は、大気を物理的に震わせ、標的の板を木端微塵に粉砕した。
さらに、彼らの側面からは、支援の砲兵隊が扱う数門の「鋼鉄製・四斤山砲改」が咆哮を上げた。
砲兵たちが、硝煙で黒く汚れた顔のまま、流れるような動作でスポンジのついた洗桿を砲身に突っ込み、残滓を拭い去る。次弾を装填し、照準手の手が上がり、撃発の紐が引かれる。
耳をつんざく爆音とともに放たれた演習用の砲弾が、遠くの小高い丘の斜面をえぐり取り、土煙の柱を何本も立ち昇らせた。
助手席の元康が、硝煙の匂いが入り込んできた窓枠に手をかけ、目を細めてその光景を見つめていた。
「……見事なものにございますな」
元康の呟きには、大げさな感嘆も、武将としての怯えもなかった。ただ、目の前の事象を正確に測りきった、静かな納得があった。
「某が民政室の帳簿に書き込んだ『数字』が、こうして血肉を持ち、陣形を組んでいる。……彼らの顔には、敵への憎しみも、手柄への執着もありません。ただ、与えられた役割を確実に果たすことだけを考えている。大佐殿は、戦から『侍の心』を抜き取ってしまわれたのですね」
「勇気や士気は、腹が減れば尽きる。だが、訓練された技術と補給は、我々が兵站線を維持し続ける限り裏切らない」
私は、くろがねの車窓から兵士たちの背中を見つめた。
「私が彼らに与えたのは、武士としての名誉ではない。確実に明日を生き延び、相良の市民として家族の元へ帰るための『生存の手段』だ」
元康は黙って頷き、腰の算盤に軽く手を添えた。彼もまた、この理性のシステムを支えるため、自分の職務を全うする決意を新たにしているようだった。
その時だった。
――ヴォォォォォォォッ!!
遠く、相良港の方角から、空気を振るわせるような重低音が響き渡った。
旗艦である第二十三号艇の、ディーゼル機関の力強い汽笛だ。それに呼応するように、特務艇や運貨船が、次々と甲高い汽笛を鳴らし始める。
午前九時三〇分。予定されていた抜錨30分前の合図だった。
汽笛の音は、海風に乗って新相良の街全体へと広がっていった。
工場で布を織っていた女たちが、手を止めて窓から港の方角を見遣る。
国民学校の校庭で駆け回っていた子供たちが、歓声を上げて海を指差す。
そして練兵場でも、下士官が刀を抜き放ち、号令をかけた。
「全軍、海へ向かって……捧げェ、銃ッ!!」
八〇〇の国民軍の兵士たちが、一斉に港の方向へ向き直り、手にした村田銃を胸の前に立てた。遠く見えない太平洋へ向け出港していく「同胞」たちへの、彼らなりの最大級の敬意と、無事の帰還を祈る敬礼だった。
私は車のドアを開けて外に出た。
頭上を、重々しい爆音を立てて巨大な影が横切っていく。徹底的な改装を受け、腹と翼の下に燃料タンクを抱え込んだ九八直協の長距離型・一番機だ。
如月大尉の乗るその機体は、船団の侵攻作戦に先行して、先日から空から沿岸の勢力の状況や、目的地の詳細地形や砦等の配置を偵察するため、一足先に東北の空を目指して真っ直ぐに飛んでいく。
「……抜錨だ」
私が誰に言うともなく呟くと、乾と元康が私の背後に立ち、同じように飛び去る翼を見上げていた。
昭和の技術と、それを支える人々の泥臭い意志が、今、戦国の海へ漕ぎ出していく。
彼らがこれから直面するのは、過酷な自然と、未知の敵対勢力だ。だが、不思議と不安はなかった。街に響き渡る工場の機械音と、海を行くエンジン音が、私たちの一歩が確かなものであることを証明してくれている。
相良の命運を懸けた、小さな大航海。
一〇時の船出まであと三〇分。
くろがね四起のドアを閉めて、港へまで車を走らせた。
第23話 了
最後までお付き合いいただき感謝します。
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次回には戦闘シーンに入りたいなぁ
どうだろうかなぁ
別シリーズの短編をアップしました。
「異聞 五稜郭」
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