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元ホストの俺、乙女ゲームの王太子に転生。婚約者(悪役令嬢)だけは絶対に守ります  作者: ふうこ0701
第二章 婚約者の本当の姿

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第7話変わった王太子

毎週土曜日の21時に更新します。

翌日、俺はエレノアやカイルと共に学院へ登校した。


学院は妙な空気に包まれていた。


誰もが好奇の視線を向け、ひそひそと囁き合っている。


「昨日の見たか?」

「見た見た。殿下がエレノア嬢を抱き上げて連れて行ったやつだろ?」

「あれはさすがにやりすぎだろ……」


別の声が続く。


「聖女様、あんなに泣いてたのに。」

「エレノア嬢がまた聖女様をいじめたって話だぞ。」

「殿下が聖女様ばかり構うから、嫉妬してるんじゃないのか?」


廊下のあちこちで、同じような話が囁かれている。


「聖女様、可哀想だったよな……」

「エレノア嬢って本当に可愛げがない。」

「聖女様はあんなに儚げなのに。」


どうやら昨日の出来事は、完全に噂になってしまったようだ。


だが、やはりエレノアは悪役令嬢扱いなのか。


噂の多くはリリアを擁護し、エレノアを批判するものばかりだった。

事実が、事実のまま伝わってはいないらしい。


しかも、小声で話しているとはいえ、しっかり聞こえている。


エレノアにだって、聞こえているはずだった。


俺が心配そうにエレノアを見ると、彼女はいつものように背筋を伸ばし、静かに微笑んだ。


「私なら大丈夫ですわ、殿下。私、少し授業の準備がありますので、失礼しますわ」


そう言って、エレノアは先に教室へ向かっていく。


その背中は凛としていて、弱さなんて少しも見せない。

けれど、だからこそ胸がざわついた。


大丈夫なわけがない。


あれだけ好き勝手に言われて、平気なはずがないだろう。


それでも彼女は、笑うのか。


俺はエレノアの背中を見送りながら、胸の奥に小さな引っかかりを覚えた。


さらに廊下を歩くと、周囲の視線が一斉に集まった。

すぐに逸らされるが、ひそひそ声は止まらない。


「殿下、どうしちゃったんだろうな」

「聖女様よりエレノア嬢を庇うなんて」

「やっぱり婚約者だからか?」


周囲の反応が、明らかにおかしい。


まるで、以前の俺とは別人でも見るかのような視線だ。


俺が転生する前のレオニス。

一体、どんな男だったんだろう?


気がついたことがある。


俺はレオニスの知識や身につけたものは、ある程度自然に使える。

礼儀作法も、魔法の扱いも、身体に染みついた感覚のようにわかる。


だが、どうしてなのだろうか。

記憶だけはまったく無いんだ。


人間関係。

過去に何があったのか。

誰をどう思っていたのか。


そこだけが、ぽっかり抜け落ちている。


俺がぼんやりと考え込んでいると、


「レオニス、どうやら学院は大騒ぎのようですね」


軽い声と共に、アルベルトがやってきた。


「ああ。見ればわかる」


「随分と注目されていますよ。昨日、あれだけ派手なことをしたのですから当然ですが」


口元に笑みを浮かべながら、アルベルトは周囲を見回す。

相変わらず余裕のある男だ。


「アルベルト、私はそんなにおかしいか?」


俺が率直に尋ねると、アルベルトは少しだけ目を丸くしてから肩をすくめた。


「おかしいというより、人が変わったという方が近いかもしれません」


「人が変わった?」


「ええ。レオニスがエレノアをあんな風に庇うなんて、ありえませんでしたし。一体、どういう風の吹き回しなんですか?」


アルベルトは、おどけたように言う。

だが、その目はしっかり俺を観察していた。


こいつも、俺の変化に気づいている。


「以前の私は、エレノアとどんな感じだった?」


そう聞くと、アルベルトは少し考えてから答えた。


「一言で言えば、無関心でしょうか。婚約者ではあっても、積極的に関わろうとはしませんでしたから。」


無関心。


その一言が妙に胸に引っかかった。


あんなに真面目で、気丈で、誰よりも礼儀正しい婚約者に対して。

無関心、か。


「それに」


アルベルトは続ける。


「レオニスはリリア嬢にかなりご執心のように見えましたけど」


俺は思わず眉をひそめた。


「……やっぱりそう見えていたのか」


「そう見えていた、というより、そうでしたよ。少なくとも周囲は皆そう思っていました」


アルベルトは不思議そうに俺を見る。


そうか。

やはり元のレオニスは、かなりリリアに肩入れしていたらしい。


俺は、そばに控えているカイルにも視線を向けた。


「カイルから見ても、俺はそんなふうだったか?」


カイルはしばらく黙った。


護衛騎士らしく、軽々しく口を挟まない男だ。

だが、やがて低い声で答える。


「……はい」


短い肯定。


だが、それだけでは終わらなかった。


「エレノア様がおかわいそうでした」


俺は息を呑む。


カイルの表情はいつも通りほとんど動かない。

けれど、その声には抑えた怒りのようなものが滲んでいた。


「エレノア様は常に、殿下に相応しくあろうと努力しておられました。立ち居振る舞いも、成績も、礼儀も、何一つ手を抜かずに。それなのに、報われませんでしたから」


そうか。


やっぱり、俺――いや、レオニスのせいか。


エレノアが傷ついていたのも。

学院で妙な噂が広がっているのも。

リリアばかりが守られ、エレノアばかりが悪者にされているのも。


全部、レオニスの態度が関係しているのかもしれない。


だが、俺はレオニスのことも、この世界のことも、まだよく知らない。


知識はある。

けれど、それだけだ。


中身がわからない。


レオニスは何を見て、何を信じていたのか。

リリアはどんなふうに周囲を取り込んでいたのか。

エレノアは、これまでどんな思いで耐えてきたのか。


ちゃんと知らなくてはならない。


いや――知るべきだ。


知らないままでは、何も守れない。


「アルベルト」


「はい?」


「ちょっと授業が終わったら付き合ってくれ」


アルベルトが面白そうに目を細める。


「何をするおつもりで?」


「少し調べたいことがある」


「調べたいこと、ですか」


「そうだ。昨日のこともそうだが、それ以前のことも含めてな。今のままじゃ、何が本当で何が噂なのかもわからない」


俺がそう言うと、アルベルトはくすりと笑った。


「なるほど。ようやくご自分で動く気になられましたか」


「悪いか?」


「いいえ。むしろ、その方が面白い」


相変わらず食えない男だ。


だが、情報を集めるなら、こういう社交的なやつが一人いるのは助かる。


「カイル、お前も来るか?」


俺が問うと、カイルは即座に頷いた。


「殿下の御身を守るのが私の役目です」


「……そうか」


それは建前だろう。


本音では、エレノアのことが気がかりなのだ。


だが、それを口にしないのがこいつらしい。


教室へ向かいながら、俺は小さく息を吐いた。


噂。

聖女。

悪役令嬢。

無関心だったレオニス。


わからないことばかりだ。


けれど、昨日はっきりしたことが一つだけある。


リリアは、やはり純真無垢な聖女なんかじゃない。


そしてエレノアもまた、周囲が言うような女ではないはずだ。


ならば、自分の目で確かめるしかない。


俺は休み時間に、それとなく聞き込みをすることにした。

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