第6話 守りたい人
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「殿下、下ろしてください。」
エレノアが真っ赤な顔で言った。
「ああ、すまない。」
俺はエレノアをそっと地面に下ろした。
「殿下……申し訳ございません。」
「どうして謝るんだ?」
「殿下を、つまらないことで煩わせてしまいました。」
エレノアはしょんぼりと俯いた。
「そんなことはない。それより、君はいつもあんな理不尽な目にあっているのか?」
俺が尋ねると、エレノアは黙った。
しばらくして、悲しげに言う。
「それは……私がルシアン様の言ったように、気が強く可愛げがないからですわ。」
「そんなことはないじゃないか。」
俺はすぐに言った。
「確かにエレノア、君ははっきり物を言うかもしれない。でもそれは欠点じゃない。むしろ利点だと俺は思う。」
エレノアは明らかに戸惑っていた。
「それに今日だって、君は間違っていなかった。リリア嬢の方が礼節を欠いていた。
なのに、どうして周囲は……。」
「おやめください、殿下。」
エレノアが静かに首を振る。
「リリアさんは聖女様で、可憐で可愛らしくて、皆様から慕われております。私にも理解できますわ。
それに……殿下は今、正気ではございません。」
「正気じゃないって、どういう意味だ?」
エレノアの目に、うっすら涙が浮かんでいた。
「だって……今の殿下は、本当の殿下ではございません。」
「本当の私じゃない?」
「今の殿下は、まるで別人ですもの。」
エレノアは悲しそうに微笑んだ。
「私達は、親の決めた形ばかりの婚約者。本来、殿下は私などに興味はないはず。
きっと記憶を取り戻せば、また……。」
「エレノア?」
「また、可憐なリリア様を選ぶはずですわ。」
エレノアの瞳から涙が溢れた。
それは先ほど見た、リリアの嘘泣きとはまったく違う涙だった。
胸がきゅっと苦しくなる。
俺は思わず、エレノアを抱きしめた。
「ごめん……ごめん、エレノア。」
エレノアは声を上げて泣き出した。
きっと今まで、ずっと堪えてきたのだろう。
「でも、信じてほしい。」
俺は言った。
「確かに私には記憶がない。でも私は君を守りたいと思っている。誰よりも君を守りたい。それだけは信じてほしい。」
「信じたいですわ、殿下。でも……私は怖いのです。」
エレノアは涙声で言う。
「殿下が記憶を取り戻して、私の元を去ってしまうのが……。」
「それに、記憶を失う前の殿下は、リリア様のことをとても好いておりましたもの。」
「私が、リリア嬢を?」
俺自身、リリア嬢は好みではなかった。
むしろ梨香子と同じタイプで、嫌悪していると言ってもいい。
それに、ここ数日エレノアを見てきたが、彼女は決して冷たい人ではない。
一見そう見えるかもしれないが、純粋で、嘘のない優しい人だ。
俺はそう確信している。
だが――
本当のレオニスはどうだったのだろうか。
エレノアの言うように、リリアに惹かれていたのか。
それとも、色仕掛けにやられていたのか。
わからない。
俺にはレオニスの記憶がないからだ。
もっとゲームをちゃんと見ていればよかった。
だが、俺の気持ちははっきりしていた。
俺はエレノアに惹かれつつある。
そして何より――
彼女を不幸にしたくない。
守りたいんだ。
「ごめん、エレノア。」
俺は言った。
「君にそんな顔をさせていたのは、きっと私のせいだったのだな。」
「もう二度とそんな顔はさせない。君を絶望させない。
今度は私が君を追いかける。
だから……もう一度、私にチャンスをくれないか?」
「殿下……。」
エレノアは涙目で俺を見つめた。
俺もエレノアを見つめる。
二人の間に、甘い空気が流れる。
俺は吸い込まれるように、エレノアへ顔を近づけた。
その瞬間――
「レオニス殿下。」
護衛騎士カイルの声が響いた。
エレノアは真っ赤になり、
「で、殿下……申し訳ありません! 今日はし、し、失礼いたしますわ!」
そう言って慌てて立ち去った。
「カイル……。」
俺は恨めしそうにカイルを睨む。
「殿下、帰りの馬車が参りました。どうぞこちらへ。」
カイルはよくわからない表情で俺を見ていた。
ただ一つ、わかったことがある。
俺はエレノアを守りたい。
エレノアが破滅する運命にあるのなら――
俺が必ず阻止する。
俺はまだ、この世界のことを何も知らない。
だが一つだけ決めたことがある。
――エレノアは、俺が守る。
第1章完結です。




