第44章 聖女の光と、それぞれの想い
湖畔から戻った俺達は、今度は神殿の式典に出席することになった。
目的は、親善外交。
そこで、聖女の輝き、オーラを披露する予定となっている。
リリアも、あの“闇落ち未遂”以来、自身の感情を安定させるため、鍛錬を積んでいた。
実のところ、俺も、以前ほどリリアを嫌ってはいなかった。
リリアの嫌がらせなど、今となっては可愛いものだ。
女王やクラリッサ、そしてカミラ。
あの女狐たちに比べれば、子供が地団駄を踏んでいるようなものに過ぎない。
……俺は、エレノアしか見えていなかったから、気付かなかったのだろう。
最初から、ムキにならずに受け流していればよかった、と。
それに、リリアとセレナは、妙に馬が合うらしい。
二人で話している姿は、まるで普通の女子生徒が戯れているようにしか見えなかった。
リリアにとって、セレナは“いい友達”なのだろう。
だからといって、俺がリリアの想いに応えることはない。
リリアはあくまで、“出来の悪い妹”のような存在だ。
案の定、リリアは緊張していた。
眉間に皺を寄せ、唇をぎゅっと噛み締めている。
今回は、絶対に失敗できない。
そう言われているのだろう。
付き添いのセレナも、心配そうに様子を見ていた。
俺は、リリアに声をかける。
「リリア、そんなに思いつめた顔していたら、可愛い顔が台無しだぞ。」
リリアは、ゆっくりと俺を見上げる。
その瞳は、今にも、恐怖で涙が溢れそうだった。
「深呼吸だ。」
そう言うと、リリアは小さく頷き、
ゆっくりと息を吸い、そして吐き出した。
俺は、そっと背中を押す。
「失敗しても大丈夫だ。絶対に私が何とかしてやる。だから、思い切りやってみろ。」
リリアは、わずかに目を見開き、そして、柔らかく微笑んだ。
「では、無事にやり遂げたら、殿下は何をしてくださいますか?」
「そうだな、何かご褒美をやるよ。」
俺も、軽く笑って答える。
すると、それを聞いていたクラリッサが口を挟んだ。
「レオニス殿、リリアだけずるいのではないか?私にも褒美を?」
「却下だ。」
即答した。
クラリッサは、不満げにこちらを睨む。
「クラリッサ姫は、私に何も貢献していない。
しかも、セドリック王子にエレノアを焚き付けたのは、姫なのでしょ?」
「それもお見通しでしたか?レオニス殿には叶わないな。」
あっさりと認めるクラリッサ。
その様子を、不遜な顔で、しっかりと記憶しているセレナの姿があった。
そして、その日の式典。
純粋な聖女の純白の魔力。
それは、集まった人々すべてに感銘を与えた。
式典を終え、セレナが宮殿へ戻ると、
そこには、出席できなかったエレノア、カイル、アルベルトの姿があった。
真っ先に動いたのは、カイルだった。
「どうでしたか?」
セレナへと駆け寄る。
セレナは、すました顔で答えた。
「宮殿で見聞きしたこと、軽率に言えませんよ。」
これぞとばかりの正論。
カイルは、一瞬たじろぐ。
アルベルトが苦笑しながら口を挟む。
「セレナ、私にはいいだろ?私はカイルと違って、いつも聞き役なんだから。」
セレナは、ため息をついた。
「カイル様は、なんでこんなに朴念仁なんでしょう?エレノアもいつもぐちぐちと……二人はまるで小姑です。」
容赦がない。
「それは、セレナ、あなたが――」
エレノアが言いかけた言葉を遮るように、セレナは鼻で笑った。
「そんなに口うるさいことばっかり言っていると、リリアにレオニス取られちゃいますよ。」
「・・・・・。」
エレノアは、言葉を失う。
「ほら、目の下に小皺が。女王より老けてるって思われるかも。」
はっとして、鏡を覗き込むエレノア。
呆然とするカイルに、さらに追撃。
「カイル様、せめてレオニスの爪の垢でも煎じて飲んではいかがです?
私の失敗くらい、海のように大きな心で受け止めるべきです。
小言ではなく、言ってください――『何があっても、絶対に私が何とかしてやる』と。
そして、ご褒美をください。」
その後。
セレナに、カイルの雷が落ちたという。
一方、エレノアは、入念にスキンケアを怠らなかった。




