第114話 シンデレラパニック②
会場を進んでいくと、空気が変わった。
そこには、一人手持ち無沙汰そうに立っているレオニスの姿があった。
金色の髪は照明を受けて眩く輝き、琥珀色の瞳はどこか憂いを帯びている。
その姿は、まるで物語に登場する王子様そのものだった。
周囲には、レオニスを一目見ようと令嬢達が群がっている。
「レオニス様、素敵……。
妃なんて贅沢は言わないから、一夜のお相手だけでもしていただけないかしら。」
「あなた、それを本人に言った令嬢がいたらしいわよ。」
「えっ、それで?」
「殿下、“相手には不自由していませんので”って笑顔で返されたそうよ。
レオンハルト様が慌ててフォローしてくださったらしいけど。」
「まあ……。」
「やっぱり、美しいものには棘があるのよ。
痛い目を見たくなかったら近づかないことね。
あれは鑑賞用だわ。」
「でも、ずっと眺めていたいわ。
氷の王子様……。」
令嬢達はうっとりとため息をついていた。
やはり殿下はおもてになる。
エレノアは少し複雑な気持ちになった。
クリストファーがレオニスへ歩み寄る。
「レオニス殿下、初めてお目にかかります。
クリストファー・スチュアート男爵と申します。」
レオニスはゆっくりと視線を向けた。
その目は、不思議なほど冷たかった。
エレノアは内心、首を傾げる。
――殿下、何かご機嫌が悪いのかしら?
「あなたが“双剣の騎士”と名高い、スチュアート大佐ですね。
あなたの噂は、よくカイルから聞いていますよ。」
レオニスは丁寧に挨拶を返した。
だが、その声にはどこか刺々しさが混じっている気がした。
「そちらのご令嬢は?」
レオニスの視線が、エレノアへ向けられる。
その瞬間、エレノアの胸がどきりと跳ねた。
「これは、私の妹です。」
クリストファーが自然に答える。
「エレナ・スチュアートと申します。」
エレノアは緊張しながら一礼した。
すると、レオニスは柔らかく微笑む。
「スチュアート大佐。
あなたの妹君は、とても美しいな。」
「そんな、殿下……。」
エレノアは思わず顔を赤くし、いつもの口調で返してしまった。
その瞬間、レオニスがくすりと笑う。
先ほどまでの不機嫌さが、嘘のように消えていた。
「レオニス殿下、私はアンネ・スフィフトと申します。」
そこへ、アメジスト色の髪と瞳を持つ令嬢が声をかけてきた。
絶世の美女というより、チャーミングという言葉が似合う少女だった。
「あなたは、スフィフト伯爵のご令嬢ですね。」
レオニスは愛想笑いを浮かべる。
「殿下、私と一曲踊っていただけませんか?」
アンネは期待に満ちた目で手を差し出した。
だが、レオニスは困ったように肩を竦める。
「アンネ嬢、申し訳ない。
私はダンスが苦手なのです。
だからこうして、壁の花になっているんですよ。」
そう言って、さらりと断った。
すると、後ろから苛立った声が飛んでくる。
「てめぇ、レオニス!
お前、足を痛めただの、ダンスが苦手だの言って、また誰とも踊らねぇつもりだな!」
レオンハルトだった。
「お前が断るたび、俺のところにその令嬢達が流れてくるんだよ!
おかげで、こっちは目が回りそうだ!」
レオニスは楽しそうに笑う。
「お前も断ればいいじゃないか。
レオンハルト、お前は本当に紳士だな。」
「ふざけんな!」
レオンハルトは完全にキレていた。
その時だった。
レオニスが、すっとエレノアの前へ歩み寄る。
そして優雅に手を差し出した。
「エレナ嬢――私と一曲踊っていただけませんか?」




