表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東国西町ランデブー  作者: ぱるこμ
9/15

甘くて苦い、ホットレモンティ・2

読んでくださりありがとうございます

今日初めて。一回目の来店客が来る。

ロリーナだ。今日も一人でやって来ている。しばらくずっと一人。不思議に思った三月は尋ねてみる。


「最近ずっと一人ですね。アリスちゃんとイーディスちゃんは?」


お節介かもしれないが、心配だったのだ。


「アリスは累さんと歌の練習。廃墟の教会に出る花嫁の幽霊の正体がアリスだったなんて驚きよ!イーディスに関しては何をしにどこへ行ったのか…不思議ヶ丘村にいることは解っているんだけどね」


「そうだったんですね。あぁ、お飲み物は決まりましたか?」

「またホットレモンティを」

「かしこまりました」


茶葉にお湯を注ぐと、紅茶特有の色が滲んでいく。透明な硝子のポットだから、中身が見えるのだ。


「私も、アリスやイーディスの考えが解ればいいのに」

「なにかお悩みですか」


三月がそう尋ねると、ロリーナは言うか言わないか少々考え、相談してみることにした。


「私達、生まれた時から一緒で。幼稚園も、小学校も、中学も、高校も。きっと大学も同じだと思う。そう思っていたの。でも、アリスが累さんに片思いしているなんて知らなかったし、イーディスに関しては謎のまま。小さい頃はなんでも解ったのに…。だからこわいの。二人だけが成長して、大人になっちゃうのが」


話し終わると。ホットレモンティとシュガーポットを差し出される。

あと、美味しそうなホイップクリームとサクランボが乗ったプリン。


「あの、プリンは頼んでいないです」


申し訳なく間違いを指摘すると、三月は笑顔で答えた。


「試作品なんです。感想がほしくて」

「いいんですか、いただいても…」

「ぜひ」


一口プリンを食べると、触感は硬めで、たまごの甘みが口の中に広がる。クリームを着けて食べても美味しいし、最後にサクランボを食べると甘さの中に酸っぱさが入るのでくどくない。


「美味しかったです。ごちそうさまでした」

「よかった!見ていてもとても美味しそうに食べてくれていたので安心しました!」


カウンター席に座り、テーブル席に座っているロリーナを三月が笑顔で見つめる。


「でも、アリスちゃんが累君に片思いしているの、よく気付きましたね。ロリーナちゃんが心配するほど、妹ちゃん達のこと理解できていないってことはないのでは?」

「うん…。たぶん、私だけ置いて行かれるのが怖いのかも」


アリスは今、累に夢中だ。

イーディスはどこで何をやっているかも不明だ。


アリスはあんな性格だから累とどうなったかなんて絶対に話さないだろうし、イーディスは秘密にしろと言われたら口を割らないタイプだ。一つの魂が三つになり、自我を持ち、二つの魂は自分の道を歩き始めているのに。自分の魂だけが今のままを維持したいと願っている。置いていかないでと叫んでいる。長女なのに。ほんとうなら、妹たちの背中を押してあげないといけない立場なのに。


「ロリーナちゃんも成長しているのでは?」

「へ?」すっとんきょんな声が出た。

「だって、不安だから一人でここに来ているのでしょう?ほかの二人はそのこと、知っているんですか?」


柔和な声色で尋ねられ、「あ」と思わず声が出た。


「言って、いません…」

「ほら。ロリーナちゃんも秘密が出来た!僕達だけの秘密ですよ」


朗らかな笑顔で言う三月に、ロリーナはつい見蕩れてしまった。本当に同じ人間なのかと思うほど、とても綺麗に瞳に映ったからだ。

懐柔されている気分だ。三月にはなんでも話してしまいそうで怖くなった。でも、もっと掘り下げて、もっと話したいと思うのも事実で。


「そうだ。よかったら、チケットさしあげます。文化祭のチケット。三枚あるので、八田さんと治癒ちゃんとで遊びに来てください」

「いいんですか?!ありがとうございます!本州に行くのって久しぶりだなぁ」


年上なのに、子どもっぽく笑う顔に、思わずつられてしまう。

言ったら、迷惑になるだろうか。ダンスのパートナーになってほしいと頼んだら。優しいから、受け入れてくれるだろうか。


「あ、あの」

「三月、ちょっと頼み事が、っと。お客様がいたんだね。閉店したら私の部屋にきておくれ」


八田が母屋につながるドアから顔を覗かせ、用件だけいうとすぐ戻っていった。


「私、もう帰ります。遅くなると両親が心配するので」

「さっき何か話そうとしていませんでしたか?」

「いえ!ただの世間話しようと思っただけですよ。それじゃあ、プリンごちそうさまでした」


お会計を済ませると、ロリーナは足早に店から出ていった。

正直。八田が来たとき嫌だった。邪魔された気分になった。そして、折角三月が話を聞き出そうとしてくれたのに言わなかった自分にも後悔した。馬鹿だ、私。


(もう行くのやめよう…)


それから文化祭が開催される残りの半月、ロリーナが満月喫茶に行くことは無かった。




文化祭当日。

普段お目見えできない女学園とあってたくさんの来場者で溢れていた。


アリスが心配していた讃美歌の合唱も無事に成功した。とても美しい声を音色。歌い終わったときのアリスは今にも泣きだしそうで、累はそわそわハラハラで見守っていた。

讃美歌が終われば、今度は校内が活気づく。


王道のメイド喫茶や男装喫茶。お化け屋敷に迷路。部活動では運動部は飲食を売る部活が多く、文化部は作品発表の場となっていた。

累はアリスからチケットを貰っており、三月から一緒に行こうと誘われ、ただいま四人で回っている最中だった。


「アリスがメイド喫茶。ロリーナが男装喫茶。イーディスがお化け屋敷」


治癒子が興味津々でアリス達のクラスのプログラムを指さしていく。


「最初はどこに生きましょうか」


三月がパンフレットを見ていると、おーい!と聞き慣れた声が近づいてくる。


「待っていたのよ、貴方達がくるの」


クラシカルなメイド衣装を着たアリスと、スリーピースの燕尾服を着て髪の毛をポニーテールにしているロリーナと。かわいらしいゾンビに化けたイーディスが揃っていた。


「累達が一緒に来るって言っていたから私達も同じ休憩時間にしたの」


アリスが嬉しそうに累に話しかける。


「そうなんだ。その…似合うね、メイド服」

「でしょ?ミニスカかロングで揉めて勝ち取った衣装よ」

「女子同士でも論争とかあるのか…大変だね」


アリスは内心、お世辞でも褒めてくれたことに踊りだしたいくらい嬉しくて堪らなかった。最初はコスプレのようなミニスカメイド服もいいと思ったが、似合うのはロングだと思い絶対に譲らず多数決の結果、ロングが若干多かったことで決定したのだ。ちなみにミニスカでのメイドカフェは違う学年がやっていたはずだ。


「ロリーナさんはかっこいいですね」


元がかっこいい八田に言われてもあまり嬉しくないロリーナは「ありがとうございます」と少し拗ねてお礼を言う。


「あはは!真塔に言われても嫌味にしか聞こえませんよね!」


でも三月が笑ってくれたので許すことにした。


「ロリーナさん、お久しぶりですね。元気そうな顔なので、安心しました」

「えぇっと…心配かけてごめんなさい。悩みが解決したから、無意味に行っても迷惑かと思って」


申し訳なさそうに言い訳をいう。本当は三月といるとどんどん自分が変わっていって、柔らかくなって。八田や違う人が会話の間を邪魔されることが嫌で。本音をつらつら言えば、勘違いしたくなかった。

なにを?なんでしょう。


「そう言えば、ダンスのパートナーは決まったんですか?」

「え、なんで知っているんですか?」

「アリスちゃんと累君から聞いたんです。イーディスちゃんも決まっているようなので。ロリーナちゃんはどうなのかなって」


実は、まだ決まっていない。友達同士で組む子もいれば、憧れの先輩に思い切って声をかける子もいる。自分も何人かから声を掛けられたが断った。理由は三月。三月とダンスをしたかった。


「まぁ…一応」


また嘘を吐いた。

自分を守るように右手で左手首を掴む。


「ならよかったです」


自分の嘘を、本当に相手が見つかって安心している表情で胸の奥が苦しくなっていく。

今ここで、言えば、まだ間に合う。


「イーディス、可愛いゾンビ」

「ありがと、治癒ちゃん」

「喜びそう、地雷系が」

「そ、そうかなぁ…」


治癒子の発言にタジタジになりながら相手をするイーディスに、三月の注意が引かれる。

あぁ…また失敗した。

バカだ、私。

何期待しているの。これじゃあまるで、かまってちゃんみたいじゃない。

憂いた表情を、真塔が見逃すはずがなかった。



文化祭も終わり、ダンスパーティーが開催される。ワルツに合わせ同じ動きをするだけなので初心者でも出来る簡単なダンスだ。

着替え終わったアリス達は惹かれてしまうほど綺麗で、愛らしかった。自分に似合うドレスを着て、お洒落をして、少し高いヒールを履く彼女達は、どこか大人びても見えた。


「普段着で来ちゃったけど、大丈夫だった?一応、ワイシャツで来たんだけど…」


累が思わず口から零した。


「在校生がちゃんとしていればいいのよ。それより、言うのはそれだけ?」

「ぅっ…いつもと、雰囲気が変わって、その…」


女性を褒めることがなかった累にとってはかなりハードルが高い。しどろもどろになり、顔が真っ赤になっていく。可愛いし、綺麗だと思う。それがなかなか言えない。


「ふふ。冗談よ」

「アリスゥ…」


意地悪したことを許してと言わんばかりにアリスが手を差し出すと、累はそっとアリスの手を取り、会場内へと入っていく。


丁度入れ違うように、賑やかしい声の人物が走って来る。


「イーディスせんぱぁい♡お待たせしました!今日のためにパンツスタイルにしたんですよぉ?」


突然の来訪者にロリーナ達は一瞬固まった。それに気づいたイーディスが慌てて説明をする。


「あのね、この子はドロシーちゃんっていうの。中等部の子で、不思議ヶ丘で出会ったんだよ」

「ドロシー・ウィッカと申します。お初にかかります!お気軽にドロシーとお呼びください!イーディス先輩は私の事、スマートクッキーって呼んでもいいですよ」


よくわからない単語に首を傾げていると、ドロシーに手を引かれイーディスは半ば強引に中へ連れていかれた。


「それじゃあ、私も」


今回は端っこに居よう。皆が楽しそうに笑っているのを眺めていよう。アリスの恋を応援して、イーディスが後輩に振り回されているのを見て、私も笑おう。そう思った時だ。


「お嬢さん。よろしければダンス、ご一緒しませんか?」


三月だ。三月が手を差し出しているのだ。


「え…なんで」


「不思議ですね。居候の知笑君がロリーナちゃんは一相手が決まっていないんじゃないかって言っていたんです。どこで見ていたんでしょうね?摩訶不思議です。もし、いないなら最後のチャンスですよ。真塔の方がよければ代わりますけど」


「っふぅ」


折角メイクしなおしたのに。ロリーナは涙が決壊して止まらなかった。

だって、どうして八田が嫌だったのか。二人の会話を途切れさせたくなかったのか。気づいてしまったのだから。


恋をしていたのだ。三月に。


見て見ぬフリをしていた。気づいてしまったら、この心地よい関係が壊れると思っていた。でも、もう無視できない。


「ぜび、お願いじまず!」


差し出されたてに、そっと手を乗せた。


今回のダンスパーティーで誰が一番目立っていたかと聞けば、ロリーナだと皆口を揃えて言うだろう。

何せ、中性的な男性に、まるで王子様に出会ったお姫様のような眼差しを向けていたロリーナに、皆が見蕩れていたのだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ