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東国西町ランデブー  作者: ぱるこμ
4/15

アリス1/1

読んでくださりありがとうございます。

幼い頃夢を見た。


あれはきっと夢だわ。

私は公園を散歩していたの。たぶん一人きりでね。そしたら誰かが声をかけてきたの。


『お話しませんか?』って。


私は承諾したわ。その人は母国語と違う国の言葉を話していたの。

きっと東国のアニメを観始めた影響で夢にまで出てきたのかも。

私はその時、まだ東国の言葉を理解できていなかったから。『はい』や『こんにちは』しか言えなかった。


その人と歩いていると、プールだか海だかで優雅に泳ぐウサギの大群に出会ったの。

何を思ったのか、私はその水の中に飛び込んで、ウサギに掛け合ったわ。


『私、ちゃんと東国の言葉が解るようになりたいの!歌詞の意味を理解したいの!好きな人達の言葉を、字幕とかじゃなくて、自分で理解したいの!』


だけどウサギは笑うの。


『君はもう出来ているじゃないか!』

『それは違うわよ。私がそう思い込みたいだけ。喋れないし、聞き取れたとしても意味が解らないんだもの…。その人の言葉を、ちゃんとくみ取りたいの…』

『じゃあ簡単さ。喋るしかないね!』

『喋る相手なんていないわよ!』

『いるじゃないか。君の姉妹たちがさ。それに君のパパはどこ出身だい?』


私はここで目が覚めた。


***



照山アリス。英国人の母と東国人の父を持つ。三つ子の真ん中。姉の名はロリーナ。妹の名はイーディス。飼い猫の名はダイナ。

これがアリスの家族だった。


ロリーナの左目下には黒子。イーディスの右頬に黒子。

アリスには特に目立つ黒子は無い。

しかも、独りだけ眼鏡を掛けないといけないほど視力が悪い。二人は視力が良いのに。


視力低下の原因になった理由は思い当る。

本を読むのが好きではあった。気が向いたら読んでいた。小説も漫画も絵本も。だからと言ってこれが原因だとは思わない。

敗因は親に内緒で夜中、ばれないように暗い部屋の中でテレビ画面に齧りついて視聴していたことだろうか。そしてネットで動画や配信されている各国のアニメを観ていた。もちろん時間が許す限り。昼も夜も関係無く。寝る時間を惜しみ寝落ちするまで。


とりあえず『目に悪い』と言われたことはやっていた。

他の二人はそこまでテレビや動画に興味を持っていた訳ではなかった。

英国住まいの時はがり勉と呼ばれていた。成績は中の下くらいだったのに、眼鏡というだけでだ。

最悪だ。

その仇名が嫌で、男子生徒全員と、女子生徒の半分と仲が悪かった。これはアリスの性格も災いしているし、周りも悪いと思う。

兎に角アリスはがり勉という仇名を嫌った。嫌いが故にキツイ口調で相手を捲し立てた。

これが原因。

兎に角気が強いと言うか、売り言葉に買い言葉。


いつの日かアリスは自分の心を守るために鉄板で溶接した。酷い言葉の槍が刺さっても、矢が飛んできても跳ね返せるように。

ロリーナは口には出さなかったが、アリスは東国語に関しては以上に上達が早かったと思う。父は勿論、アニメを観て口調を真似し、台詞を真似していた。

それくらい勉強にも情熱を注いでくれればいいのにと思ったのは内緒だ。


そして運命の七年前。東国から太陽が消えた。

父は勤め先から現地調査を命じられ、故郷の東国への出向となった。この時、家族は英国に残ると言う選択肢もあったが、アリスが小学校に馴染めていないことから新天地も兼ねて家族全員での移住となった。


アリスは期待していた。


首都トーキョーに住み、アニメや東国の小説、漫画、ネット、音楽をめちゃくちゃ楽しみにしていた。グッズだって不自由なくゲットできる。そう思っていた。


しかし新たな住居は首都から離れた…しかも本州どころではない、田舎町。田舎というと口が悪いが、ベッドタウンで、本州に通じるのは一本の橋のみ。町に高校は無い。利便性は確実に本州なのに、何故かこの不思議町という場所に住むことになった。

小学校に通う児童やその保護者の間では、英国から来た可愛い三つ子は話題となった。



「アリスのお蔭で、東国にきても言葉に不自由しなくて済んだわね」


ロリーナが笑う。


「別に。私の趣味に付き合ってもらっただけじゃない。まさか本当に東国に引っ越すことになるとは思わなかったし」

「でも、アリスが東国の言葉を勉強したいってパパに言わなかったら、私達今頃仲間外れにされていたかも」


イーディスがマイナスな発言をする。


アリスの過去からの努力と勉強に付き合っていたお蔭で、三つ子はバイリンガルで言葉の壁は心配なかった。寧ろ、東国ではアリスの口が回った。東国作品のアニメをアホみたいに観てきた結果だ。

最初こそ、西洋の風貌に好奇な目で見られたが、言葉が通じると解れば友達も自然と増えていった。

引っ越しの荷物の片づけの最中。まだ終わっていない。十歳を迎えても未だ同じ部屋に詰め込まれるのだ。そろそろ一人部屋が欲しいと思うのは必然だろう。


「なんで私達、まだ一緒の部屋なのかしら」

「三つ子だからよ。ママはロマンチックで夢見がちだから。きっと大学に行くか結婚するかしない限り永遠に私達は同じ部屋よ」

「やめてよロリーナ!もう少ししたら、ママに交渉しようよ!」

「諦めなさい、イーディス。このマンションの部屋数は知っているでしょう?ここに住んでいる限り、私達はずっと同じ牢獄よ」


アリスに止めを刺されたイーディスは深く落ちこんだ。

両親の寝室、子供部屋。そしてパパの書斎。リビング。これで照山家の部屋は埋まってしまっていた。



これが私。私の最初。



照山アリス。彼女は自分が嫌いだった。

がり勉って仇名。母国で同級生の大半と仲が悪かったこと。アニメオタクであることを馬鹿にされたこと。そして素直になれず口が悪くなるところ。

大好きなアニメの世界と同じ言葉を話せるようになっても、東国に来て友達が出来ても、自信が持てなかった。

その自信の無さを隠すように余計に言葉がキツクなる。

特に男子には当たりが強くなった。負けたくないと思ったのかも。

いつの日か、アリスの気の強さは勘違いされ、気高さとか、ツンデレとかに変っていき、高嶺の花として三つ子は遠巻きされるようになっていった。


魅惑のトリプレット。


新天地で付いた仇名は、今度はアリスのみではなく三つ子として付けられた。

皆優しいけど、踏み込んで友達になってくれる子はいなかった。三つ子で固まってしまったせいもあるかもしれないけど、アリスは重々承知していた。

自分の性格が招いていることを。



高校生になったある日だ。三人でブラブラと不思議町を歩いていると、とある喫茶店の前を通った。昔の洋風な建物で、なんか故郷を思い出した。

窓を通して、見えた人…


(え、私あの人と結婚する)


一目惚れとはまさにこういう現象なのだろう。

アリスは名前も知らない相手に、衝撃を受けたのだ。頭上から雷を打たれ、全身を駆け巡る。一目見ただけで結婚まで想定するか、普通。

それでもアリスは想ってしまったのだ。

だけどどうだ。

アリスは自信が持てなかった。眼鏡で、口が悪くて。アニメが好きで他の話題の引き出しが少なさすぎる。


彼は何が好きで、どんな話を好む?


考えた結果、アリスが出た行動は‘ロリーナ’に成りすます。だった。

ロリーナはモテた。兎に角モテた。

本州に出たらそこら中の男子学生から告白されていた。三つ子の中で一番女の子らしくて、穏やかで優しいから。

だから、そんなロリーナみたいになれば…ロリーナに化ければ彼に近付けるかも知れない。

アリスの恋心は彼女を暴走させた。


その結果が


「え…あの店員さん、辞めたんですか?」


書店ですれ違った後日。アリスは嫌な予感がしたので喫茶店に赴いていた。

満月喫茶二号店に行くと、店長が残念そうな顔をする。


「そうなんです。詳しくは言えないんですが…辞めたんです。折角常連さんともお話しできるようにまで慣れてきたのに…」

「話すのに慣れた…?」

「あぁ…まぁ。あの子、人と話すのが苦手な子だったんですよね。でも、一年かけて少しずつ慣れてきて」


店長が嬉しそうに微笑んだ。


「そうですか…教えてくださり、ありがとうございます」

(あぁ…私はまた人を傷つけた)


自分に自信が無いせいで、他人になりすました。そのせいで。

すれ違った時、私が常連ですって言えばよかった。

もうあの人に会えないのだろうか。


『じゃあ簡単さ。喋るしかないね!』


ふと、昔見た夢を思い出す。

懐かしい夢。好きなキャラクター達の言葉を自分でちゃんと理解したかったあの日。

今度はキャラクターじゃなくて、生身の人間相手だけれど。


(友達になりたい…あの人とちゃんと話したい)

「あの、その店員さん、次はどこで働くとか知りませんか?」

「え?!そこまでは…流石に解らないです」


ここからアリスの奮闘が始まった。

満月喫茶の常連さんから累に繋がり、累の同級生が孫だというおじいさんに出会い、そこから同級生を紹介してもらった。ナンパされたが無視して累を尋ねたが、累のことは覚えていなかった。他の同級生も紹介してもらい、やっと累を知る人物を見つけた。


「あぁ。累ね。アイツには散々な目に合されたよ」

「散々…?」

「アイツの両親事故で死んでてさぁ。その責任は俺にあるとか言われちゃって。マジ参るよね。可哀想だと思わない?」


礼音と名乗る男性だった。

なんだかチャラチャラヘラヘラしていて、可哀想だとは塵にも思わなかった。


「…事故の責任、貴方にあったんですか?その件について責め立てられたんですか?彼から」

「無ぇよ!でもさぁ、冗談でも責任はお前にあるって言われたらショック受けちゃうじゃん?だから三日間くらい学校行けなくなっちゃったんだよなぁ」

「もしかして、責任取れよって言われるようなこと、言ったんじゃないんですか?」


そう問うと、礼音は首を傾げ悩む素振りを見せた。


「どうだったかな。覚えてないや」

「そうですか…とりあえず過去に関しては災難ですね。じゃあ、もう彼に関して何も知らないなら失礼します」

「え、せめて連絡先…」


礼音が行き場の無い手を彷徨わせているうちに、アリスはさっさと次へ進む。


(事故の責任って何よ。話せなくなった理由と何か関係あるの?)


そもそも。事故が起きる前提で『事故が起きたらお前責任取れよな!』なんて言う奴がいるのだろうか。あるとすれば、相手が『事故れ』と冗談で言い、それを『そうなったら責任はお前に取ってもらう』というのが自然な流れではないだろうか。

少なくとも、アリスの周りでは売り言葉に買い言葉がほぼほぼだ。

それに、累という人物が一方的に何か不利な条件を押し付けるようには思えなかった。

頭の中がこんがらがったアリスは、公園のベンチで休憩する。


「一体どこにいるのよ…謝りたいだけなのに…」


頭を抱えていると、小学生くらいの子供達が遊びに駆け込んでくる。保護者も一緒だ。学校で何か行事か、面談でもあったのだろうか。


「なぁ!あそこの幽霊屋敷だけどさぁ!」

「こら!幽霊屋敷とか言わないの!」


母が子供を叱咤する。


「幽霊屋敷って…もしかして雲母坂さん所?」

「そうそう。うちの子、最近その美容室の中を覗くのにハマってるみたいで…叱ってるんだけど止めなくて…」


母親は困ったように手を頬に添えた。


「そう言えば昨日、息子さんが車に乗って不思議ヶ丘村へ向かって行ったのを見たわよ。誰か迎えに来たのかしら」

「不思議ヶ丘に?引っ越しかしら」

「詳しいことは解らないけどさ、良い事なんじゃない?だって、お家から出て新しい場所で生活するってことでしょ?引きこもっていたんだから、大きな一歩よ」


この狭い町では、引きこもりとなると瞬く間に有名にでもなるのだろうか。

というか、満月喫茶でバイトをしていたのに知らないのか。喫茶店に行かなきゃ会わないか。

ママ友同士で集まるなら喫茶店より一店舗だけあるファミレスに行った方が席も広いしお喋りも遠慮なくできるだろうし。


(待ってよ。不思議ヶ丘ですって?)アリスは青ざめた。


両親からも、学校からも、行くなと言われている村。

だけど。


(あの人は引きこもりなんかじゃないわ。バイトだってしていたし、本州の本屋で会ったもの)


そうだ。知らない人は知らないのだ。

アリスも、彼がどんな人物だか知らない。

だから…



アリスは不思議ヶ丘へ通じる坂の前まで辿り着く。

バリケードで塞がれた不気味な道路。


「この先にいるんだ…、多分」


満月が輝く夜。

ずっと夜の国。

そこにやって来たアリスは、初めて立ち入り禁止の土地へと入ろうとしていた。

バリケードを一つ退かすたびに、自分の心に貼り付けていた鉄板のガードを剥がしていくようで。


「謝るのよ、アリス。そうじゃないと、何も始まらないわ」


喋らないと始まらない。

本当にそうだと思った。

本当の想いを伝えないと、何も始まらない。

あのウサギは夢の産物だったけど。とても良いことを教えてくれたと思う。

バリケードを退かしたアリスは、深く呼吸をし、気持ちを落ち着かせる。


「あの人も、きっと一歩踏み出したはずよ。私も真似するのよ、アリス。昔みたいに」


アリスは、家族や学校の言いつけを破って不思議ヶ丘へ続く道へ踏み出した。

永遠に夜の国。

時計を見ない限り時刻は解らない。朝か夜かも解らない。昨日なのか、日付を超えているのかも解らない。

そんな中を、アリスは丘の上にぼんやりと見える灯りを頼りに昇って行った。

そして、満月喫茶一号店の前に立つ。

中から穏やかで温かい会話が零れてくる。

意を決し、ドアノブに手をかけた。

カランカラーン!



「やっと見つけたわよ」



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