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東国西町ランデブー  作者: ぱるこμ
3/15

ムーンリバー/2

読んでいただきありがとうございます。

「最初に言っておきましょう。この国は、太陽が消えてから不思議なことが良く起きます。特にこの不思議町や不思議ヶ丘村ではとくに。


呪われているのかってくらい。

でも、あながち累くんのお姉さんの言っていた言葉は間違いではありませんよ?


自分で自分を呪う。


そいう子を何人も見てきました。


解放された子もいれば、まだ自分を許せなくて呪い続けている子もいます。

中には、他者からの呪いで悩んでいる人もいますけどね」



真塔さんが言う事は、少し信じられないことだった。

でも。僕も自分の発信する言葉が怖くて無暗に喋れない。

自分を許すって、何。


「君も何となく気づいているのでは?君が心を閉ざしたから、家中の鍵が全部施錠されて雲母坂さんが入れなくなったって」

「僕の気持ちの問題も、影響されるってことですか…?」

「たぶん。もしかしたら。かもしれない。見ていた訳じゃないので。でも気にしないのが一番なのでは?最初は難しいでしょうが、いつか気にせずいられるようになりますよ。あぁ、それと。私達が住む家では自由にお喋りして大丈夫ですよ。誰も呪いに掛かったりしませんから。皆呪い持ちみたいなものなので」


それを聞いて、僕は焦る。


「呪い持ち?!え、あ、でも。でも、もし、酷いことを言っちゃったとしたら。それが現実になるかもしれない、です…。さっきだって、誰にも会いたくないって、思っただけで…」

「仮に言っても簡単にくたばったりはしませんよ。ふむ…まずは気にし過ぎをどうにかする方法を考えましょう」

「…あの、そう言えばどうやって家に入れたんですか?」

「簡単です。雲母坂さんが必死に外から呼びかけたら開きました。姉弟愛ですかねぇ」

「あぁ、なるほど」


ぼんやりとだが、夢の中で姉ちゃんが出てきた気がするのは、そのせいか。

真塔さんはご機嫌なのか鼻歌を歌いながら運転する。


「あ、バリケードだ。退かすの手伝ってもらってもいいですか?」

「は、はい」


七年前から近づかないようにと言われていた不思議ヶ丘に、僕はこれから住もうとしている。

近寄らないでと言われている理由は簡単。不思議町との合併に反対でこのバリケードやプラカードが怖さを助長しているから。他者の侵入を拒んでいるから。


それに、丘にある観光スポットが自殺の名所だと有名だから。



「不気味だな…お化けとか出そ、あっ」


咄嗟に口を閉ざす。

真塔はクスクスと笑う。


「大丈夫ですよ。不気味なのは皆承知です。口に出したからと言って幽霊や怪奇現象が起こるわけじゃないし。ここは街灯が無いんで一人で歩くには懐中電灯は必須になりますよ」

「…解りました」


車は穏やかに発進し、目的の家まで走行していく。


「ここだよ」

「ほぁ…」


到着した家は、お屋敷のようだった。

ハマる人にはハマる、素敵な木造洋館だ。


周りは雑木林や道しかない。お隣さんがいない。もしかしたら、ずっと先に建っているお家がお隣さんに値するレベルで周辺に家が無い。


「もう累君の部屋は決まっているんだ。パソコンを運ばせよう。おい、知笑」


知笑と呼ぶと、何処からともなく猫がたくさん現れて。そして家の中から同い年くらいの男性が面倒臭そうに出てくる。


「呼んだ?」


紫色の髪の毛に、自然に生えている『猫耳』


僕は目をぱちくりとする。

集まった猫達は彼の周りをチョロチョロとする。もう何匹いるか数えられない。


「パソコンを運ぶのを手伝ってくれ。あと接続とか得意だろ。やっといてくれ」


知笑はトランクに乗せてあるパソコンを確認する。


「これくらいなら自分でも出来るでしょ。ねぇ?」

「あ、はい。出来ます」

「ほら」


しかし真塔は許さない。


「普段なんもしないんだからやれ。居候。追い出すぞ」

「わかりました~」


荷物を全部屋敷の中へ運び終わると、知笑が不服そうに訂正してくる。


「俺、ニートとかじゃないからね?在宅ってやつね。自由業。そこらへん勘違いしないでね」

「はい…」


仕事よりも。それよりも。あの猫耳が気になってしょうがない。

ガン見していたら、知笑が気づく。


「気になる?触る?」


何も言っていないのに、察してくれた。触りたいって。

僕は頷くと、おずおずと手を伸ばすと、知笑が頭を下げる。


「本物の猫の耳…だ」

「そうだよ。不思議だよね。随分前から生えてるの。おまけに猫も寄ってくるようになった。猫の言

葉も解るんだよ。でも町に降りると、町人は俺の猫耳は見えないみたいなんだよね」


「そうなんですか…」


知笑は口角を上げ三日月のように笑う。


「俺は猫田知笑。よろしくね」名前のどおりの人。

「雲母坂累です。よろしくお願いします」


二階から早く来いと真塔の声が響く。僕達は荷物を持つと二階へと上がっていった。



今日から使用する部屋には、ベッドとテーブルだけというシンプルな部屋だった。

曰く、あとは好きにカスタマイズしてくれとのこと。


「パソコンやっとくから、三月と治癒子に挨拶してきたら?」

「三月さんと治癒子さん…」

「喫茶店にいるよ。この時間帯…ていうか、ほぼ客なんか来ないから大丈夫だよ」


知笑に言われ、隣に追加で増築されたような外観のこじんまりとした喫茶店へ足を運ぶ。


『満月喫茶一号店』


看板にそう書かれている。


「僕が働いてた店の一号店だったんだ…」


僕は家側からの仕切りドアを開け、店へ顔を覗かせる。


「どうしましたって、おや。新顔君ですね!」


眼鏡をかけた…男性、がにこやかに笑顔を見せる。カウンター席には凄く眠そうな、髪の真っ白な女の子がココアを飲みながら睡魔と戦っている。


「はじめまして。今日からお世話になります、雲母坂累です。よろしくお願いします」


男性は朗らかな笑みを向け、僕を見る。花びらが舞ってそうなくらい、明るいと言うか、優しい空間を作り出しているというか。


「はじめまして。僕は野兎三月と申します。ほら、ちゆちゃん」


ちゆちゃん、と呼ばれた女の子は僕を見つめるとその眠そうな顔がどんどんと輝いて行き、ぱっちりと瞼を開けた。


「根津治癒子です。よろしくおねがいします」

「よろしくお願いします」


治癒子の瞳は赤かった。真塔と同じ。


「ちゆちゃんは真塔さんの姪っ子さんなんですよ」

「あ、姪っ子さん」


よかった、複雑な大人の事情が絡んでいなくて。


(白い髪と赤い瞳でウサギみたい…)


「治癒子…ちゃん、髪の毛綺麗だね」

「うん。ちゆも好き。キラキラしてて好き」


治癒子はどこかおませに髪を両手で撫でる。ちょっとその行動に狼狽える。

だってそうだろう。姉でさえこんな仕草しないのに、六、七才の子が大人顔負けな表情で髪をうっとりと撫でるんだぞ。

どう反応していいか解らず停止していると三月が声をかけてくる。


「よかったらコーヒーでもいかがですか?」

「あ、ありがとうございます。あの、ブラック飲めないのでカフェオレでお願いします…砂糖二個の」

「かしこまりました」


嫌な顔一つせず、三月はコーヒーに牛乳を入れ、角砂糖を二個入れる。

食器の音とか、コーヒーを淹れる音とか、三月の足音とかしかない空間がとても心地良い。


(落ち着く…)


「どうぞ」

「ありがとうございます」

「ちゆちゃん珍しいですね。久しぶりに目が冴えてるじゃないですか」

「うん。眠くないの、今は」

「それはよかった」


「あの」思わず会話に入ってしまった。


「普段は、その…」


『眠たいんですか?』なんて聞いて、治癒子がまた眠くなったらどうしようと焦りが出る。

でもそれもお見通しかのように、三月は優しく誘導してくる。


「言ってください。自分の言葉を最後まで。大丈夫」

「…治癒子ちゃんは、普段、眠いことが多いんですか?」


昔を思い出す。

小学校を卒業する直前だ。

不登校になり始めていた僕を先生が説得しに来たことがあった。でも、当時の僕にとっては余計なお節介だったから。『二度と来ないで』そう言った。そうしたら、先生は来年度ホッカイドウに赴任になった。噂だと道民の人と結婚して教師を辞め、お相手のご実家の稼業を継いでいるらしい。

当たり前だが、先生は二度と来なかった。

これはいい方向に転んだ場合だ。

急に怖くなり喉の奥が震える。呼吸が深くなっていく。

だけど。


「ちゆ、累お兄ちゃんといると冴えるの、目が」

「あ…それはよかった、です」


嬉しそうに笑う治癒子。

僕は緊張を和らげようとカフェオレを口に含む。

よかった。よかった。

よかった…!


「そうだ。後で真塔に相談しようと思うんですけど、明日から累君、ここの喫茶店で働きませんか?お姉さんから二号店でバイトをしていたと聞きましたよ」

「はい。偶然ですけど、働いてました。似た環境で働けるなら、とても嬉しいです」

「僕も人手が欲しかったので嬉しいです!知笑君は当てになりませんからねぇ」


なんだか、落ち着く時間だと思った。

姉ちゃんといるときも安心していたけれど、それは家族っていうのもあって。他人に、しかも出会って一時間も経っていないのに心を開きそうで怖い。

もしかして僕は人と話せない期間が長すぎてチョロくなっているのかもしれない。


にゃーお


どこから来たのか、猫が一匹カウンターに飛び乗り、尻尾をしならせながら座る。


「猫」

「ウチで飼っている唯一正式な猫ちゃんですよ。雄のシャルトリュー。名前はヴィリケンズです」

「ヴィリケンズ」


一匹なのに、複数形。

え、‘Sなのか。それとも固有名詞なのか。


「ペットとか、飼っていなかったのでなんだか緊張します」

「あはは。大丈夫、いつもそこら辺をウロチョロしているので。それにすぐ慣れますよ」

「よろしくね、ヴィリケンズ」


そう呟き、彼の喉を撫でようとした時だった。

豪快に、大胆に店の扉が開く。ガランコローン!と扉に付いているベルも激しく鳴る。


「いらっしゃいませ」


何事も無かったかのように三月が対応する。

仁王立ちしているのは、魅惑のトリプレットの一人だった。あのドーナッツヘアの子。眼鏡をかけて、なんか不満ありげにこちらを見ている…というか睨んでいた。


「やっと見つけたわよ」


店内にいた僕達はポカーンとしていると、急に彼女の表情が豹変する。


「あぁあああああ!あの馬鹿猫じゃない!!!!このクソ猫がぁ!よくもウチの可愛いダイナを妊娠させやがったわね!」


ヴィリケンズは心当たりというか、確実に解っているようで慌てて逃げ出す。それを追いかけるドーナッツヘア。

静かだった店内は一気にてんやわんやになる。


「ちょっと!その猫捕まえなさいよ!ウチの婿猫にしてやるんだから!」

「それは困りますよお客さん!コイツはコイツで我が家の大切な家族なんです!」

「子猫が産まれるの?パパになるのね、ヴィリケンズは」


僕は慌てて治癒子と連れて隅っこに逃げる。そして僕の頭部に逃げ込んでくるヴィリケンズ。さすがのドーナッツヘアも幼女と男相手では距離を取り様子は見るがジリジリとにじり寄ってくる。


「その猫を渡しなさい。去勢して浮気出来ないようにしてやるわ」

「そ、それは真塔さん達と相談しないと…」

「じゃあ私もその会議にお邪魔するわ。勿論去勢賛成に一票よ」

「ぅお…」


姉ちゃんも中々なタイプだったと思うけれど、彼女もパンチが効いているかもしれない。なんか強引に話を持っていきすぎだろう。

なにか話題を変えないと、治癒子にはまだ早い会話な気がする。


「そ、それより。真っ暗な中、ここまで来るの大変じゃありませんでしたか…?女の子が一人でここに来るなんて、危険じゃないかな」

「…大したことじゃないわよ。スマホを持っていたしね。でも充電切れたけど」

「じゃあ、とりあえず、充電器貸すから、落ち着こうよ…。あ、三月さん、彼女に注文を…」

「そうですね。さ、メニュー表をどうぞ」三月はスマートにメニュー表を差し出した。


ドーナッツヘアは納得していない表情だったが、メニュー表を受け取った。


「ミルクティーで」


ノールック注文。


「あとチョコレートスコーンはここにもあるのかしら」

「ありますよ」


僕はヴィリケンズを家へ逃がし、充電器を取ってくる間、違う意味で心臓がドキドキしていた。あの注文内容、聞き覚えが有り過ぎるんだ。

あのロングヘアの常連さんが頼んでいたものと一緒。ミルクティーは絶対で、スコーンはその日の気分で代わり、たまにシフォンケーキやチーズケーキを頼む。


(三つ子だから趣味も被るのか?)


メニュー表も見ずに注文した。しかもチョコレートスコーンを、『ここ』にもあるかと尋ねていた。

混乱してきた。



僕が接客していたあの子は、誰なんだ?



「充電器です、どうぞ」

「ありがとう」


ドーナッツヘアは受け取ると、コンセントへ差し込み充電を始める。

僕も席へ着き、生ぬるくなったカフェオレを啜る。

静寂に包まれる店内。

……

この静けさを打ち消したのは治癒子だった。


「お姉さんはどうしてここに来たの?」

「おや、ちゆちゃんが質問するのは珍しいですね」

(珍しいんだ)


僕も、三月もドーナッツヘアに視線を向ける。彼女は気まずそうに視線を泳がせる。


「ヴィリケンズを探しにここまで来たんですか?」


三月が尋ねる。


「…あの猫はたまたまよ。たまたま入った店に、たまたまいただけ」

「すごい偶然ですね」

「ほんとう、そう思うわ」

「それで?本来の目的は?」

「……人探し。急にいなくなっちゃったの。たぶん、いいえ。私のせいで。だから探していたの。謝りたくて」

「そうでしたか。お相手の方は見つかりましたか?」

「もう諦めるわ。きっと、また傷つけるから」


彼女は無言でスコーンを食べ、ミルクティーを飲み干した。少し温まってから、お会計をして出ていく。


「ヴィリケンズのことはごめんなさい。うちのダイナが出産したらまた来てもいいかしら」

「勿論ですとも。いつでもお待ちしておりますよ。またのお越しを。…累君、彼女を送って行ってあげてください」


僕も、彼女も三月の言葉にギョッとする。


「そんなのいいわよ!私一人で帰れるわ!」

「もう夕方ですよ?本番の夜の時間です。危ない危ない」


追い出される形で、僕と彼女は店内へ出された。

何を話せばいいのか解らない。


「…坂の下まで、送ります…」

「…マスターの顔に泥を塗る訳にもいかないでしょうからね。よろしく」


ドーナッツヘアはそう言うと、さっさと歩きだす。

隣に並んで歩くことは気が引けて、少し斜め後ろを歩く。

気まずい空気。

そう感じているのは僕だけだろうか。

なんで空気なんか気にするようになったんだろう。

あぁ、あれだ。言葉で誰かを傷つけてしまうと解ってからだ。何をどう答えれば相手の望む回答が出来るのか探るようになった。傷つけないように慎重になり過ぎて会話のテンポを崩したこともあった。

それが嫌で、怖くて、いつの日か引きこもりがちになって、姉ちゃんとくらいしか喋れなくなった。マニュアル通りにしか喋れなくなった。


「ねぇ」

「はい」ビックリした。思わず強張った声が出る。

「さっきの、会話なんだけど…私」


ドーナッツヘアは立ち止まり、僕を見る。

あ、緊張している表情だ。

僕は、静かに次の言葉を待つ。


「私、貴方を傷つけたの。傷つけたのは私なの。本当は、二号店でお茶をしていたのは私なの。だから、この前本州の本屋で貴方とバッタリ会ったとき、まさか貴方が挨拶してくるなんて思ってもいなかったから…!

ごめんなさい!嘘吐いて、私としてじゃなくて姉として店に通ってごめんなさい…」


涙声になった彼女は頭を下げた。

あぁ、この子は自分を偽っていたんだ。何が理由か解らないけど、それで苦しんだんだ。


「怒ってないよ。本当に」


彼女はブスくれた顔をしていた。涙目で、口をヘの字にして。泣くのを我慢するみたいに。


「どうしてお姉さん?に変装してお店に来ていたかも、理由は聞かないよ。でも…探しに来てくれたんだ、僕のこと。心配して」

「あ…当たり前じゃない!だって、あの日を境にいつもの店員さんがいなくなっちゃったのよ!誰も居場所を知らないって言うの!中には貴方のこと根暗だとか酷いこと言う人もいたけれど…!」


いらん情報を教えてくれた。


「だから、貴方がいなくなっちゃって、消えちゃって、本当に心配したの、申し訳ないコトしちゃったって思ったの。だって、私は…」

「…?あの」

「なに」

「ずっと貴方っていうの、大変じゃない?」

「え…まぁ」

「僕は雲母坂累っていいます。君は?君の名前を教えて。本当の君のこと」


月明かりに照らされる彼女の表情は、悲し気から目を丸くした驚きへと変っていく。暗くても解る。不思議とね。


「私は、照山アリス。アリスって呼んで。苗字で呼ばれると他の姉妹と混乱するからね」

「アリスさんね。よろしくね」

「よろしくって…」


「また来てよ。一号店に。確かに、アリスさんの行動が原因で僕は不思議町を離れたけど…僕のこと心配して来てくれる人なんてそうそう居ないから。

昔ね、不登校になったとき、心配してくれた先生を拒絶しちゃったんだ。

それからもうずっと会っていない。今思えば馬鹿なことしたと思うよ。心配してくれるうちが花なのにね。それ以来、心配して誰かが訪問するなんてことなくなったよ。

だから、僕はなるべく善意を受け入れたい。

アリスさんが必死に僕を探して心配してくれたこと、凄く嬉しいんだ」


いつぶりだろう。こんなに長文を喋ったのは。

でも。やっと姉ちゃん以外の人に本心を打ち明けられた気がする。これは負の感情じゃなくて、正の感情だからかな。わからないけど。

アリスは言葉を探しているのかしどろもどろ何か言っている。


「あぁ、えぇ。そうね。ありがとう。ありがとう…。私、ね。たくさんの人に累のこと聞いたの。同い年くらいの人達に。まぁ…そうね。でも、私は累を初めて見たとき、友達になりたいなって思ったの。

だけど、私馬鹿だから、素のままの自分で行くのが恥ずかしいと言うか、怖くて。だから姉の恰好をして満月喫茶に通ったの。そしたらこんな結末になったけどね。

…その、何が言いたいっていうと」


「うん」


「私は、今の累しか知らないし、これからの累を知っていきたいと思ったの。昔のことはよく解らないけど。もし馬鹿なことや尊敬できないようなことをしていたとしても、友達になりたいって思った気持ちには嘘つきたくないから、その…。

私と友達になってくれませんか?」


アリスの白い肌が赤く染まる。

彼女はきっと、素直になるのが下手くそな女の子なのかもしれない。

それが可笑しくて、僕は思わずクスリと笑った。


「累?」

「ううん。嬉しいんだ…僕と友達になりたいって言ってくれる人、かなり久しぶりだから」

「累は、自分が想っている以上の人間よ。きっと、新天地に来たんだもの。私以外の人達とも友達になれて世界が広がるはずよ。きっとね」

「ありがとう」


こうして僕は、七年ぶりに友達が出来たのでした。

僕は嬉しくて、やっと自信が持てた気がして。気が付いたら、アリスの隣を歩いていた。


「不思議。来るときはちょっと寒かったのに、今は暖かい気がする」

「緊張してるのかも」

「それはあるわね。変な汗出てきそうだわ」

「僕も」


二人して、鼻でフフンと笑う。

境のバリケードまで辿り着く。


「今度は、一号店の常連になるわ。アリスとしてね」

「僕も。マニュアル通りじゃなくて、雲母坂累として話せるように頑張るよ」

「?マニュアル通り?何かあったの?」


あ、しまったと思った。気が緩み過ぎて自分の隠したい、嫌な呪いのことをうっかり話してしまった。

でも。

いい機会なのかもしれない。


「…今度話すよ。約束」

「わかったわ。それじゃあね、累。送ってくれてありがとう。マスターと、あの女の子にもよろしく伝えておいて」

「うん。またね、アリス」


彼女を見送る僕は。

心の底から笑えていた気がする。


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