9 ダンジョンに行く
「グリーン。見てみてー。地図ー!」
「わーい。地図だー」
「ねー。すごいでしょー」
「すごーい。かっこいいー」
はしゃぐ私たち。
その様子を見て、レッドが呆れている。
「何がすごいんだよ。意味がわかんねぇ。だいたい、その地図ほとんど白紙だし。どうせ買うなら、もっとマシなのを買ってこいよ」
「それでいいんですよ。今から、そこに描きこんでいくんですから」
「は? 描きこむ?」
「ええ。今日のお仕事は『地図作成』なんです」
ダンジョンは、周期的に地形が変動している。
一年で最低4回、多いところでは10回以上。
当然、道順は変わる。
下手すると、出てくるモンスターや採れるアイテムまで、まったく別のものになってしまう。
そのたびに、冒険者たちは地図を更新しなければならない。
これが『地図作成』という仕事だ。
「なんで、そんな地味な仕事を」
「仕事に地味も派手もありません。これをメインにする冒険者もいるぐらいメジャーな仕事ですよ」
「超強いボスを倒しに行くんじゃねーのか」
「それはまたの機会ですね」
レッドががっくしと肩を落とす。
「これから私たちが向かうのは、前人未踏の地なんだよ。一歩進むたびに、どんどん道が拓けていくの。
この興奮が伝わらないかな? 世界が広がっていくこの高揚感が!」
「パイオニアー!」
「そうだよグリーン! 私たちはニューフロンティアに旅立つの!」
「……ダメだ。こいつらテンション高すぎる」
そういうわけで、ダンジョン探索。
今回のメンバーは……。
パーティーメンバー:ステラ。レッド。ブルー。グリーン。
控え:ブラック。ピンク。
「全員で行くんじゃないのかよ」
「行きませんよ。パーティーは基本的に四人編成です」
人数が多ければいいってものでもないしな。
特に、今回は本気でダンジョン攻略を狙ってるわけではない。
パーティーとしての動きを確認するだけなので、オーソドックスな四人編成の方がいい。
控えの二人には、町で待機してもらっている。
どちらも文句を言うタイプではないので、特に問題はないだろう。
「おっ、着いた。ここだね」
立札には『タテガミ洞窟』と書かれている。
「よし。まずは入口の位置をチェックだ」
地図の作成は、私がやる。
勇者にはこれと言った役割がないから、ちょうどいい。
入口に足を踏み入れてみる。
「一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な一歩だ!!」
「早く進めよ」
「暗くて進めないんだよ」
「たしかに。真っ暗だな」
「私が魔法を使いましょう」
≪ブライト≫
難度 ★
属性 光
使用回数 15/15
成功率 100%
説明 闇夜を明るく照らすことができる
言い忘れていたが、魔法にも使用回数がある。
そして、私たちが魔力と呼んでいるものは、魔法を使っても消費されない。
ただ魔力が高いと、魔法の威力や効果がアップする。
そのため、ブルーが使う魔法は、普通の魔法より強力になっている。
「明るすぎ」
「そうですか。では、少し下げます」
見やすくなってきた。
外見はよくある洞窟と言った感じだろうか。
でも、狭いな。
ほとんど一本道で、奥まで続いている。
モンスターと鉢合わせになったら、面倒だ。
武器も振り回しにくいし、逃走も難しい。
「グリーン。こっち来て」
「なになにー」
「あなたの感知能力の出番よ」
グリーンは、私たちの中で最も感知に優れている。
ダンジョンは危険がいっぱいなので、この能力はとても重要だ。
「今回は、あなたにトラップの感知をやってもらう」
洞窟では、モンスターとの戦闘は避けられない。
だが、トラップは知っていれば、回避できる。
「トラップなんてあんのかよ」
「ありますよ。特に地図作成中はトラップにかかりやすいんです。情報がないので」
さすがに、ずっと感知してもらうわけにはいかない。
トラップがありそうなところだけをやってもらう。
だいたいそういうのは分かるものだ。
例えば、行き止まりの道にトラップはないだろう。
どうせ仕掛けるなら、人がよく通る道。
宝箱の手前なんて、とても怪しい。
「短剣は持ってる?」
「あるー」
「じゃあ、あなたが先頭ね」
私がグリーンの後ろ。次がブルー。最後尾が、レッド。
お互い離れすぎないように、気をつけて移動する。
地図をかきかき。
うん。まだ入り口付近しか書けていない。
黒いものが私たちの前を通り過ぎた。
「コウモリ出たー」
三匹のコウモリ。
洞窟によく出没するモンスターだ。
出現モンスターの欄に、コウモリを加えておこう。
「えいっ! えいっ!」
ヒュッ! ヒュッ!
グリーンがダガーで攻撃する。
刃物の扱いにはかなり手慣れていて、身のこなしは悪くない。
だが、コウモリは軽々とかわしている。
このモンスターは物理攻撃に対する回避率が高い。
戦う場合は魔法を使うのが定石だろう。
「……でも、ブルーは≪ブライト≫を使ってるから、手が塞がってるんだよね。ここは、私が……」
これでも私は勇者なので、魔法の中では聖魔法が得意。
今回はこの攻撃魔法を選ぶことにする。
≪セイントスピア≫
難度 ★★★
属性 光
使用回数 10/10
成功率 100%
説明 光の槍で、相手を突き刺す。
私は手をかざして呪文を唱えた。
コウモリは小さくて素早いが、槍のスピードの方が格段に速い。
一撃でコウモリの一匹を仕留めた。
続いて、二匹。それから、三匹目。
「ありがとー」
「いいよ。役割分担だからね」
さて、気を取り直して、どんどん進んでいこう。
☆
地図はほとんど埋まってきている。
もう、八割はできてるかな。
入口付近は狭かったけど、奥まで来るとけっこう広くなっていた。
「私の≪ブライト≫の使用回数がそろそろ切れそうですね」
「ほんと? それなら、次は私が代わるよ」
「お願いします」
「というかさ。さっきから、おまえ何をやってるんだ」
私は洞窟の壁に張り付いていた。
さらに、その壁をペタペタと触ったり、叩いたりしている。
「見て分からない? 隠し部屋を探してるんだよ」
地図を作ってるあいだに、気づいてしまったのだ。
ここの壁だけ、不自然に出っ張っている。
きっと、この出っ張りの中には部屋があるのだ。
あとは、入り方さえ見つけられれば。
「そんなもの見つけて、どうするんだ」
「隠し部屋を発見したら、報酬に上乗せされるの」
「ほへー」
それに、隠し部屋はロマンだからね。
なんとしても、見つけ出したい。
「ねーねー」
「グリーン。邪魔しないで。今、忙しいの」
「さっき感知したんだけど。ステラの足元に、トラップあるよー」
「……え?」
――カチッ!
「ふにゃあっ! なにか踏んだ!」
「やられたな」
「おそらく隠し部屋もブラフでしょうね。あなたのような人を引っかけるための」
「ど、ど、ど、どうしよう」
すると、レッドが剣を構えた。
「こういうのは、叩いてぶっ壊せばいいんだよ」
「衝撃を与えては危険です。まずはトラップの種類を割り出して、そこから対策法を探さないと」
「そんな悠長なことしてて、爆発でもしたらどうすんだよ」
うう。なんでもいいから、早くして。
「解けたー。解除完了ー」
「グリーン。いったい、どうやって」
「カチャカチャやってたら、外れたのー」
「……適当すぎる」