10 初めての報酬
「楽しかったー」
「そう。よかったね、グリーン」
「うん!」
グリーンは満面の笑みを浮かべている。
もともと、彼女が行きたいと言い出したので、これで目的は達成できた。
それに加えて、私も楽しむことができた。
めちゃくちゃ舞い上がってたし。
こんなにはしゃいだのって何年ぶりだろうか。
みんなには疲れてるところ悪いけど、先に仕事の報告をしておかないといけない。
地図作成士に会いに行く。
今は仕事終わりの夕方なので、酒場で食事をしているところだった。
「私が報酬をもらってくるね」
「頼むぜリーダー」
「では、私たちは外で待ってます」
作成士は30代ぐらいのおじさんで、顎に少し髭が生えている。
元は冒険者だったのか、けっこう体つきはいい。
「おお。できたか。見せてみな」
作成士のおじさんは、私の作った地図を真剣に眺めている。
「ふむふむ。よく出来てるな」
「ありがとうございます」
「というか、おまえ経験者だろ? 線の描きこみに迷いがねぇ。大抵の奴はもっと汚いんだよ」
うん。何度もやったことある。
隠してるつもりはなかったけど、やっぱりバレるものなんだな。
「これなら、すぐ使えるぜ。もちろん最終的な手直しは俺がやることになるが……それで、報酬だな。ちょっと、待ってろ」
そう言うと、机の上に袋を置いた。
「中を確認してみな」
私は袋を手に取って、中のお金を数えていく。
ひぃ、ふぅ、みぃ……。全部で10000Gだ。
「こんなにもらっていいんですか?」
地図作成の相場は、だいたい3000G。
難しいダンジョンだとまた変わってくるけど、今日行ったところなら、2000あればいい方だろう。
「言っただろ。よく出来てるって。俺が冒険者だったら、まっさきにおまえの地図を選ぶぜ。正確な地図っていうのは、それだけ価値があるものなんだ」
作成士のおじさんは私の方を見て、笑った。
「それにおまえ腕も立つだろ? ダンジョンからの帰りなのに、服に血の一つもついてない。本当は簡単すぎて退屈だったんじゃないのか?」
別に退屈ではなかったけど、たしかに傷は負わなかったな。
回復魔法の出番もなかったし。
「今度はおまえに釣り合う仕事を探しておいてやるよ。いつでも待ってるぜ」
「考えておきます」
話を終えて酒場から出ると、三人が待っていた。
「どうでした?」
「うん。こんな感じ」
「報酬はわりと高いんですね」
さて、私たちは一万Gを手にしたわけだが。
「……うーん。うーん」
「何を悩んでるんですか?」
「いやさ。この一万Gをどう使おうかと思ってね」
一万G。たしかに大金ではある。
だが、実際に使い道を考えてみると、なかなか浮かばない。
お金を使って、装備を整えるという手もある。
だが、良質な装備を一式揃えようと思ったら、この額ではまったく足りない。
さらに、私たちは六人いるのだ。
妥協しないなら、数十万Gは欲しいところ。
「あたしに良い考えがあるぞ。宴会しよう。打ち上げで、パーっと使っちまおうぜ」
「ダメ! 違うの! そういうことじゃないの!」
このお金は、私たちが手に入れた初めてのお金なのだ。
普通の人でも、初任給というものがあるだろう。
働き始めて最初にもらった給料には、特別な意味がある。
両親をディナーにごちそうしたりするものなんじゃないだろうか。
「私たちパーティーが冒険で手に入れた最初の報酬なの。もっと大事に使わなきゃ」
「めんどくせー」
面倒くさくない。大事なことなのだ。
「それなら貯金するのはどうでしょう。十分に貯まってから使用すれば」
「ブルー。その意見、つまんないっ!」
「……つまらないですか」
グリーンが手を上げた。
「お菓子買うー。モンチョコー」
「ダメ! チョコはまた今度買ってあげるから」
「わーい」
満足な答えは得られないな。
まあ、いいや。あとから考えよう。
「帰ってきたー」
一階建ての小さな家である。
これは私が分裂してから借りた家で、今はみんなでここに住んでいる。
そのうち遠出するかもしれないけど、ひとまずの拠点が欲しかったのだ。
引き払おうと思えば、簡単に引き払えるし。
「ただいま」
「おかえり」
ピンクとブラックが出迎えてくれた。
二人ともエプロン姿である。
さらに玄関の奥からは良い匂いが漂ってくる。
「もしかして、料理してるの?」
「そうだよ。今日はみんながお腹を空かせて帰ってくると思ってね。腕によりをかけて作ったの」
「そんなことしなくていいんだよ! そのぐらいのこと私が全部やるからさ!」
「どうして?」
「どうしてって……」
どうしてと聞かれても困るが。
彼女たちはあくまでパーティーのメンバーとしての仲間だ。
私は手伝いをさせる使用人が欲しかったわけではないのだ。
「じゃあ、いっそのこと控えの人は家事当番にしましょう」
「あたしも賛成だ。難しいこと考えなくてもすむしな」
なにか勝手に決まってしまった。
でも、家事をさせるのって、なんか悪い気がするな。
夕食は、ステーキ、ポトフ、マッシュポテト……。
たしかに、豪勢だ。
食べてみると、おいしい。
味覚は一緒なのか。
「ピンク。料理うまいんだよね」
「私だけじゃないよ。半分近くはブラックが作ってるの」
「そうなの?」
「…………ん……」
へえ。ということは、他の人も作れるのかな。
そういえば、さっき考えていた一万Gの使い道。
ピンクにも、聞いてみよう。
「お揃いのアクセサリーなんて、どうかな。形にも残るし、身に着けてても邪魔にならないし」
「……なっ」
なんて、的確な答えなんだ。
「ピンク。あなた最高。そうなの。そういう答えが欲しかったの」
「え? そう? 普通じゃないかな」
「ピンクも一緒に選ぶの手伝ってくれる?」
「うん。私でよければ」




