第72話 VSゴーレム➁
そのときだった。
どこからともなく、声が響いてきたのは。
『あーあー。テス! テス! マイクテス』
幼い女の子のような声で、そいつは私に語りかけてきた。
『勇者ステラだな。私のゴーレムくんを追い詰めるとは、なかなかやるのだ』
神竜の使っていた念話とは、少し違うな。
どうやら、音源はあのゴーレムのようだ。
「……ピンクの予想通りってことか」
こいつは傀儡。
本体が遠くから操っている。
『ゴーレムくん六号は、過去のものよりも頑丈に作っていたのに凄いのだ。正直、驚いちゃったのだ』
褒められてる? いや、そんなことより。
「あなたは誰よ」
『私か? 私の名はミスト。魔族なのだ。みんなからはミスト博士と呼ばれているのだ』
魔族だと。
また、出てきたのか。
『オバケスロットを倒したようだが、私はあんな風にはいかないぞ。その証拠に――』
奥の方で、ガサゴソと音がした。
『今からおまえたちを倒すのだ。さあ、力を見せろ! ゴーレムくん……ポチッとな』
ブイン!
ゴーレムの目が赤く光り出すと、
「ゴゴゴゴゴッ!」
こちらにまっすぐに突っ込んできた。
「なんのつもり?」
今のゴーレムには、状態異常が五つも付与されているのだ。
毒、火傷、出血、盲目、混乱。
普通に考えれば、もう体はボロボロのはずだ。
突っ込ませる意味なんてないだろう。
「でも……」
魔族の考えることだ。
何かあるのか。
「……神速!」
ゴーレムの腕が届く前に、スキルを発動。
高速移動をして、敵の間合いから抜け出す。
「よし。これで……」
まずは距離を置き、奴の出方を伺おう。
そう思っていた私の前に、霧が立ち込めてきた。
「……なにこれ」
さっきまで、森には霧なんてなかったはず。
魔族のしわざか。ミストって名前だし。
「ゴゴゴゴゴッ!」
ゴーレムが霧の中に消えていく。
「……うーん」
見えない。
どんどん視界が真っ白になる。
「ゴゴッ」
横から鳴き声が……。
「……神速!」
すぐに回避。
ミストの博士の笑い声が聞こえる。
『素晴らしいスピードなのだ。だが……遅い』
「ゴゴゴゴッ!」
また、横から鳴き声が。
私は神速したのに。
もしかして、スピードが上がってるのか。
『≪ミストブースト≫』
≪ミストブースト≫
難度 ★×8
属性 水
使用回数 ∞
成功率 100%
説明 状態異常一つにつき、能力が一段階アップする。
「……は?」
つまり、こういうことか。
今、ゴーレムには、五つの状態異常が付加されているから。
『その通り。能力五段階アップ。めちゃ強なのだ』
なんだと!? それは要するに。
ピンクが膨らんだ時(三段階)よりも強くなっているのか。
ブクブクの時は、刃が通らないんだけど。
それよりも、上だと……。
こいつは厄介だ。
というか、どうやって倒すの?
『ゴーレムくん。やってしまうのだ』
腕を振り、襲いかかってきた。
とりあえず、跳んで回避だ。
「……ジャンプ!」
時間を稼げ。
その間に対策だ。なにか解決法を……。
「……おお! 忘れるところだった! 神竜様からもらったスキル」
敵は魔族。当然、闇の力を持ってるはずだ。
私はゴーレムに狙いを定める。
「≪エビルスキャン≫!」
ピコンっと音が鳴る。
すると、敵のウィークポイントが。
ゴーレムくん(六号)の弱点 : 風
「……風」
つまり、風属性ということか。
けっこう具体的だな。
もっと分かりにくいものだと思っていたよ。
「風と言えば、グリーンだね」
彼女の攻撃を浴びせてやろう。
そうすれば、大ダメージを与えられるはず。
「グリーン! あなたの番よ!」
「にゃあ」
「……って、猫だよ! 何回やるの!」
あの娘は、どこに行った?
「あいつなら、タヌキ狩りに行ったまま、帰ってねーぞ」
「ええっ! それ最初からじゃん!」
「気づいてなかったの?」
困るぞ。今は、彼女の力が必要なのに。
『行け! ロケットパンチなのだ!』
「ゴゴッ!」
腕をロケットのように飛ばしてきた。
もはや、なんでもありだな。
「レッド。煙を出して」
「狼煙断! 狼煙断!」
モクモクと煙が広がっていく。
――スカッ!
外れた。命中率までは、上がっていないようだ。
『うわあっ! 腕をどこかにやってしまったのだ。ゴーレムくん』
「ゴゴゴゴ!」
四つん這いになって、腕を探している。
大事なものなら、飛ばさなきゃいいのに。
「ピンク! 今よ!」
「……う……ウルトラアップ!」
――ブックン!
風船のように体が膨らんだ。
「後ろから、どついてやるのよ!」
「ええいい!」
ピンクが体重をかけて、敵を圧し潰しにかかる。
「ゴゴゴゴゴ」
ビクともしない。
まだ腕を探し続けている。
霧と煙が両方かかっているので、足元はとても見づらい。
ちなみに、煙は彼女が出した。自業自得なわけだが。
『あった。腕を発見なのだ』
「えええいい!」
油断しているところに、更なる一撃をお見舞いする。
これでどうだ。
「……ゴゴゴッ!」
あっ、ダメージ入ったな。
押し切れるかも。
『そうはさせないのだ』
――カチッ! カチッ! カチッ! カチッ! カチッ!
トラップを踏んで歩く。一気に五つも。
もちろん、≪ミストブースト≫を発動させるためだ。
今までのものと合わせて、十段階アップ。
もう普通のやり方では、ダメージを入れられない。
『これで無敵なのだ!』
本当にヤバいな。今回は、ブラックもいない。
誰が敵のパンチを受ければいいんだ。
『……あっ』
――ビリビリッ!
ゴーレムの体に電撃が走った。
『……れ……動かないのだ』
上手く足が上がらないのか。
『麻痺まで踏んでしまった。ちょっと待つのだ!』
この娘、何がやりたいんだろう。
『たしか、麻痺なおしを……あれ? どこに?』
慌てふためきながら、森の中をうろうろしている。
あの、麻痺は解けてるような……。
「ミスト博士……」
わりと抜けてるな。
「ステラ。見てみて―。タヌキー。狩ってきたよー」
「グリーン。やっと帰ってきたのね」
「どしたのー?」
彼女はきょとんとした顔で、私を見ている。
「難しい話はあと。あそこのゴーレムに攻撃してくれる」
「はーい」
グリーンは弓を構えて、そこに矢をかけた。
「それだけじゃダメ。風属性を付加して欲しいの」
「んー?」
「……こうして、こうやるの」
「わかったー」
では、頼みます。
「やあー」
――キリリリリ……シュッ……シュッ!
彼女は感知に優れているので、敵を見失うということはない。
たまに外すことはあるが、それは弓のレベルが低いだけだ。
今回は、巨体なだけあって、しっかりと標的を捉えている。
バシッ! 左の太ももにヒット!
すると――。
傷口を境目に、左脚が崩れていく。
ガラガラと。面白いように。
これには、私も驚いた。
魔法ならともかく、弓の一撃でゴーレムの体を破壊するなんて。
『……なななっ! どうなってるのだ! 脚がないのだ』
博士も動揺している。
そのせいか、ゴーレムのしぐさも変な感じに。
『よく分からないが、その弓は危険なのだ!』
もう一発、お見舞いしてやろう。
「やあっ!」
――キリリリリッ……
『大変なのだ。でも、足がないから……仕方ないのだ……リカバーを』
ミスト博士が呪文を唱えると、ゴーレムが淡い光に包まれる。
彼女の魔力は高いのだろう。
壊れた脚が元通りになっていく。
「でも、それは失敗だよ……神速!」
私は敵の懐まで飛び込むと、剣を抜き放つ。
受けてみろ。
私の奥義――。
「……流星!」
鮮やかな光に包まれた。
私の剣は、凄まじいスピードで、敵を切り刻む。
十……二十……三十……
「ゴゴゴゴ……」
敵の腕が切れ、足が切れ、頭が切れる……四十……五十……。まだ、続く。体が細切れになる。それでも、終わらない……六十……七十……粉々になり、跡形もなくなっていく。
「……」
剣を収め、敵から背を向ける。
『……な……ぜ』
残った装置から、音が響いた。
『……なぜなのだ! ゴーレムくんは能力が10段階アップしていた。無敵の肉体の前には、刃など通らないはず。なのに、どうして……』
私は、彼女の疑問に答える。
「いや、あなた。リカバーかけたでしょ」
リカバーは体力と一緒に、状態異常も回復してしまうのだ。
ゴーレムはバフなしの素の状態。
つまり――。
「私の流星でも切れる」
『……はっ』
分かってなかったんかい!
『やってしまった! だが、まだ負けてないのだ。次こそは……次こそは必ず……がくり……』
そこでミスト博士からの通信は途絶えた。
「グリーン」
「ムムムっ! 分かんなーい」
「そう」
逃げられてしまったか。
まあ、いいや。
これで森の脅威は去っただろう。
あの様子では、結界も抜けられないだろうし。




