第55話 黒とステラ①
「こちらでレンタルしています」
店員が案内してくれたコーナーには、武器や防具が並んでいた。
さらに、本まである。
これを読むことで、魔法やスキルなどを一時的に習得できるのだ。
もちろん、『ファイア』『ヒール』などの基本的なものだけだが。
回復役が一人増えるだけで、立ち回りもだいぶ変わってくるものだ。
「……ふむ」
色々とあるな。
好きな人なら、飽きずにいくらでも見ていられそうだ。
「……ん……」
おお。ブラックもいる。
何やら熱心に、カタログを見ている。
「楽しい?」
「……ん……」
腕を振り上げて、喜びを表現している。
気に入ったなら、また訪れてもいいかもね。
「あなたの防御力には、期待してるよ。パーティーの要だからね」
「……ん……」
よしよし、良い娘だ。
私も見ておくとしようか。
装備や魔法は足りている。
気になるのはスキルの欄だ。
≪ジャンプ≫
難度 ★★★
属性 無
使用回数 15/15
成功率 100%
説明 飛び跳ねる。溜め時間によって、対空時間が変化。
いいね。ジャンプ。凄くいい!
上手く使えば、ドラゴンのブレス攻撃もかわすことができるのだ。
あとは、踏みつけでダメージも与えられたり。
地味だが、かなりの良スキル。
今回試してみて、良さそうだったら、自分でも習得してみよう。
「準備できました」
「では、こちらへどうぞ」
案内係のお姉さんは、手を上げた。
赤を基調とした制服を着こみ、すらっと背が高く、足も綺麗。
今回は、この人が私たちの担当をしてくれるようだ。
「『グレイトピア』の最難関。光の英雄コース。英雄の間です」
両手で開けるタイプの扉だ。
むちゃくちゃ大きい。
「レッド。よろしく」
「はいよ」
彼女は扉に手を付き、ゆっくりと押す。
――ズズズズ!
中が見えてきた。
薄暗い洞窟のような場所で、奥にはまた大きな扉がある。
「……なんか光ってねえ?」
「光ってるというか、粒子が浮かんでいますね」
案内係が嬉しそうに答えた。
「気づきましたね。それはマナと言って、魔法の素のこと。それを部屋いっぱいに浮かせてあるのです」
「何故、そんなことを」
「演出です。光のマナが散っていたら、英雄感が出るでしょう」
英雄感とは……。
いや、突っ込まないでおこう。
「なんか目がチカチカすんな」
「すぐに慣れますよ」
それはともかく、メアリが待っているのだ。
さっそく、英雄コースというものに挑戦したい。
「みなさんの前に、三つの燭台がありますよね」
「はい」
「この三つの燭台に火を灯すというのが、英雄コースの主な課題となります」
ふむ。燭台を。
よく見ると、三つそれぞれに文字が書いてある。
『陸』『海』『空』と。
そして、横にある扉にも、同じ文字が。
なるほど。扉と燭台は連動しているわけか。
「燭台に火を灯すには、関門を突破する必要があり、全て突破すると奥の扉が開く仕掛けになっています」
だいたい分かった。
「じゃあ、行こうぜ」
「そうだね。まずは『陸』から」
レッドは扉を押した。
「ふんぐうううっ!」
動かない。
「挑戦できるのは、一つの部屋に二人までです。それ以外の人は離れてください」
いろいろルールがあるんだな。
テーマパークなんだし、凝ってる方が楽しいものな。
「だって。誰から入る?」
「決まってんだろ。初めはあたしからだ」
言うと思った。
前に進んでいく。
だが。
「……ん……」
ブラックが、レッドを押し戻した。
「なんだ? おまえが出るって言うのかよ」
彼女はコクコクと頷いた。
その目には、決意が感じられる。
彼女らしくない、強い姿勢である。
「……お、おお。おまえがそこまで言うなら」
レッドは怖気づいたのか、後ろに退いた。
「……あのレッドをビビらせるなんて。ただごとじゃない」
この気迫はいったい……。
ブラックは片手で扉をドンドンと叩いた。
で、私たちの方を向いた。
「早く来いって言ってるんじゃない?」
ピンクにはそう見えたか?
私も同意見だ。
「しょうがないから、私が行くね」
「……頼むぜ」
まあ、ここはリーダーとして先陣を切るとしよう。
何が待ち受けていようと、私の敵じゃない。
「では、私たちはここで待っていますね」
「えー。待ってるだけー。つまんないー」
「……言われてみれば、そうですね」
ブルーは≪シードローン≫を手のひらから出した。
パタパタパタパタ! 私の上空を飛び回っている。
「ステラさん。お願いします」
「了解」
水晶玉に映像を出すこともできる。
これで、部屋の中の状況も分かるわけだ。
というわけで、最初は私とブラックである。
☆
「……草原か」
扉を開けたら、そこでは草原が広がっていた。
空は青く、お日様も出ている。
演出が凝ってるな。
さっきまで館内だったはずだが。
案内係もそばにいて、私たちのことを見守っている。
ついでに、ドローンも飛び回っている。
「……ん……」
何か来たようだ。
大きな体。赤い肌をしており、頭には二本の角が生えている。
オーガ。鬼の姿をしたモンスターである。
「ふむふむ、オーガね」
敵がこん棒を振り回すだけで、強風が吹き荒れ、草がちぎれ飛んでいく。
「ガアアアアアッ!」
声もどでかく、空気を震わせている。
これだけ巨大なら、迫力も充分だ。
私も思わず、ビクっと体を揺らしてしまった。
どうやら、私のことを狙っているようだ。
ドスドスと足音を立てて移動すると、私の前に立った。
そして、トゲトゲの付いた黒いこん棒を振り上げる。
「……ふーん」
まあ、初めだし、当たってあげるとしようか。
エンターテインメントだから。
全て外してしまうと、楽しみが減ってしまう。
「ガアアアアアアッ!」
「……よっと」
――ガッコン!
「……が……は……」
凄まじい衝撃が私の頭を駆け巡り、私は気を失いそうになる。
「あいたたたた」
頭を抑えて、バタバタと転がりまわる。
触ってみると、頭頂部から血がじっとりと滲み出ている。
「まさか、仮想空間だとでも思っていましたか?」
「いえ……」
思ってた。
そうじゃなくても、着ぐるみで中には人がいるものだと。
だって、ここはテーマパークなのだ。
客を怪我させるとは、普通は思わないだろう、
「本物ですよ。草原も、モンスターも。ついでに、みんな本気で襲って来ます。下手したら、普通に死にますよ」
「それ、もうただのダンジョンじゃないですか」
「超リアル志向なので。なんでも本物に近いのです。限りなく」
わああっ! 頭から血が垂れて、目にっ!
「ヒール!」
回復だ。傷が癒えていく。血も拭っておく。
これで問題ないぞ。
「さて……」
気を取り直して、オーガを見てみると。
肉付きがしっかりしている。通常のオーガよりもレベルが高いはずだ。
「目は覚めましたか?」
「……いえ。寝てはいませんけど」
それなりの危険は伴うということか。
真面目なエンタメ。いや、こういうのもありか。
「光の英雄コースですからね。勇者といえども、油断しないでください」
オーガがこちらに歩み寄ってきた。
そして、またこん棒を……。
「ようし。それなら……」
できる限り、楽しんでやろうじゃないか。




