39 コダールの村
「今日こそ、とっ捕まえてやる! 覚悟しろ!」
村の住民たちは鎌はクワのような農具を持つと、私たちに襲い掛かってきた。
「死ねぇっ!」
力いっぱい振り抜いてくる。
私はそれを寸前でかわした。
酷いことを言うようだが、てんで素人だ。
その程度の攻撃で、私を倒そうなど片腹痛い。
十人いても連携すら取れてないし、話にならない。
「消えろ! 喰らえ!」
連続攻撃か。
数歩さがって、距離を置いて……。
―ーチャキッ!
「あっ……」
危ない。反撃しそうだった。
いつもの癖で、剣の柄を握ってしまったが、抜いてしまえば問題になる。
彼らはただの村人なのだ。
それを武力で制圧することは、賊の略奪と変わらない。
剣は抜いちゃダメだ。
それを示すように、私は両手を上げた。
「みなさん。落ち着いてください。私たちは別に怪しいものなんかじゃ……」
「うるさい! 黙れ!」
聞く耳を持たない。
問答無用で、切りかかってきてる。
彼らには鬼気迫るものがある。
先ほどから、物騒なセリフを発しているし、いったい何があったというんだ。
「どうしましょうか」
ブルーが横から尋ねてくる。
彼女も同じように襲われているが、手を出せないでいる。
魔法使いなので、ローブを纏った格好。
魔法には強いが、物理攻撃に対してはわりと貧弱。
もともと後衛職なので、ダメージを受けるようにはできていないのだ。
私と違って、殴られれば痛いだろう。
スピードも勇者の私よりは遅いし、気を抜けば当たってしまう。
「とりあえず、話を聞いてもらわないと」
「ですが、とても聞くようには……」
そうだよね。
相手は怒りで我を忘れていて、私たちのことなんか見ちゃいない。
いきなり、よく分からない状況に陥ってるんだけど。
どうすれば……。
「ステラー。私に任せてー」
え? グリーン、このタイミングで。
「状況、分かってる?」
とても不安なんだが。
彼女は胸を張って答えた。
「ケガさせちゃダメなんでしょー」
「うん。合ってる」
「そんで武器もダメー」
「そう」
「やるよー。下がっててー」
グリーンは両手を広げて、横に突き出した。
「ムムッ! ムムムッ!」
力を溜めてる。
新しいスキルを発動する気か。
「ハリケーン!」
≪ハリケーン≫
難度 ★★★★★
属性 風
使用回数 15/15
成功率 80%
説明 暴風を引き起こす。全体にノックバック効果。
ビュウウウウウウゥッ!
グリーンの両手から突風が吹き荒れる。
「……おお」
前方から風がくる。
かなり勢いがあり、圧力がすごい。
周りの木々がミシミシと音を立てている。
「……く……」
目が上手に開けられない。
引き摺られるように、後ろへさがっていく。
「うわああああっ!」
村人に至っては、まったく立つことができてない。
地面をゴロゴロと転がっている。
これじゃあ、相手は攻撃どころじゃないだろう。
持っていた農具も風に飛ばされていき、木にしがみついて、なんとか耐える有様。
「い、いた……痛い」
鳥や葉っぱが、顔にぶつかってくる。
村人の攻撃よりも、ダメージがありそうだ。
ビュウウウウウッ!
心なしか風速が上がってないか?
「グリーン。もういい! もう十分だから!」
「はーい……」
グリーンは手を上下に揺すっているが、しっくり来ない様子だ。
もしかして、この娘、止め方を分かってないの?
「手を下ろして!」
「ん? こう……」
パタンと両手を下げると、ようやく風が止んだ。
「……ふう」
危なかった。私まで吹き飛ばされるところだったよ。
「グリーン。ちょっといいかな」
「んー?」
「ごまかすな」
でも、これで村人たちを大人しくさせることができたぞ。
「私たちは暴力に屈しなかった。これこそ、平和的な解決だよね」
「そうなのですか。みなさん、ボロボロですが」
『ハリケーン』にダメージを与える効果はない。
大丈夫。ボロボロに見えるだけだ。
目を回した村人が、私の足元でぐったりしている。
「ブルー。水を出して」
「はい」
バシャーン! 顔に水をぶっかけると、男は目を覚ました。
「……はっ。なんだおまえら」
「私たちは冒険者です」
「冒険者だあ? 信用ならねぇ」
まあ、そうか。
賊かもしれないからな。この間も会ったし。
「証明するものはないんですか?」
一応、ギルマスから書状をもらっているので、村長に見せればなんとかなる。
でも、この人たちが村まで案内してくれるとは思えない。
少し考えていると、後ろから声がかかった。
「ひょっとして、あなたは……」
振り向くと、木陰から少女が顔を覗かせていた。
十二、三歳ほどの気立てのよさそうなお嬢さんだ。
あっ、ちなみに、私の歳は十六だ。すごく今更だが。
「バカ。レオナ、出てきちゃダメだ」
村人の言葉を無視して、レオナという娘は私のところまで歩み寄ってきた。
そうして、私の顔をじろじろと眺める。
なんだ? どうしたんだ?
「勇者様! 勇者様ではありませんか!」
勇者……さま?
補足しておくが、冒険者はそれぞれの職業に即した格好をしている。
レッドは剣士っぽく、グリーンは狩人っぽく、と言ったように。
当然、私もそうだ。
ガチガチの聖鎧などは着てないが、細かい装飾品などから、私が勇者なのは誰でも推測できる。
だが、前にも説明したように、それはあくまで職業の話。
私自身は、そんな呼び方をされるほど偉くはない。
「……ここは話を合わせておくべきでは」
「……うん」
私は笑顔で答えた。
「正解だよ。私は勇者。よく分かったね」
「やはり、そうなのですね。なんという巡り合わせでしょう!」
うまく行ったようだ。他の村人も黙って見ている。
「あなた、コダール村の人だよね。案内してくれる?」
「はい。喜んで」
この辺りの地理は、自分たちにはさっぱりなのだ。
とりあえず、案内だけでもしてもらう。
☆
「勇者様。気を悪くしねーでくれ」
村人たちの態度が一編した。
というか、喋りが訛っていて聞き取りづらい。
よく見ると、着ている服も継ぎ目ばかりで汚いし。
歩いている道も、まったく舗装されていない獣道だし。
かなりのド田舎だ。
どうしよう。お風呂、入れるかな……。
「着きました勇者様。ここがオラたちの村、コダールだ」
ふむ。何もなさそうな、のどかな村と言った感じだ。
井戸が見えるから、水はあそこから汲んでるのかな。
「村長と話がしたいんだけど」
「ついてきてくだせえ。こっちですだ」
ドサドサと歩いていく村人のあとを、付いていく。
「子供がいないねー」
グリーンが周りを見ながら言った。
たしかに、若い人は隣を歩くレオナぐらいのものだ。
「着いたで。ここが村長の村だ」
で、村長と対面。
「わしが村長です」
おじいさんだ。
ギルマスの書状を見せる。
「冒険者なのですか」
物分かりの良い人で、話はすぐに通った。
「転送陣というのは向こうの部屋にありますよ。どうぞ自由に使ってください」
気になることがあるので、聞いてみる。
「何か事件が起きてるんでしょうか。村人が只事じゃない様子でしたが」
「はい。実は我々の村は、魔物の脅威にさらされているのです」
「魔物? それはギルドに報告しましたか?」
「はい。何度も依頼は出しているのですが、こんな辺鄙な土地まで足を運んでくれる冒険者はいないものでして」
そうか。転送陣はあるが、それでも田舎まで好き好んでくるものはいない。
ギルマスはこの依頼に気づいて、私を遣いによこしたってことか。
「ほんの一月前のことでしょうか」
そいつは月夜の晩に現れて、村の若い娘を一人、また一人とさらっていったという。
そして、残るのは、村長の孫娘であるレオナだけになってしまった。
「そのレオナも次の満月の夜には、連れていかれてしまうのです」
次の満月。ちょうど、明日の夜だ。
「この村はもうおしまいです」
村長は嘆き、悲しんだ。
「おじいさま……」
レオナが励ますように言った。
「聞いて、おじいさま。ステラさんは勇者様なの」
「なっ! 勇者様! それは本当ですか?」
「ええ。まあ……」
あんまり、大げさにされると、恥ずかしい。
「お願いします! どうか、レオナを!」
「ええ。任せてください。お孫さんは必ず、お守りしますよ」
魔物が若い娘をさらっていくというのは、ありがちな話だ。
今回は少女の護衛。そして、魔物の討伐といったところだろうか。
依頼を受けたからには、きっちりと達成することにしよう。




