第99話 VSカースメイカー③
敵の魔法≪ベイブ・カース≫によって。
ブルーが醜いブタに姿を変えてしまった。
だが――。
「ブルー。まさか、私の言ってることが分かるの?」
「ブヒッ!」
なんと、ブタなのに人語を理解してしまうのだ。
さすが、ブルー! やっぱり、あなたは賢い!
「……で、どうするの?」
メアリが私に聞いてきた。
「水属性が弱点だったんでしょ? このままじゃ、奴を倒せないわよ」
「……うーん」
実際、その通りだ。
ブルーの魔法が効くと分かったのに、彼女はブタに変えられてしまった。
これでは戦うことはできても、決め手にかけてしまう。
魔族の体力を削り切るには、回復力を上回るほどの大ダメージが必要なのに。
まさに、敵の思惑通りってことか。
私は苛立っていた。
「カースススススッ!」
向こうも、勝った気でいるようだ。
完全に祝杯モードである。
「私はイヤよ。ブタになるのなんて」
「ぐおおおおおっ! どうすればいいんだあっ!」
そのとき――。
「ブヒヒヒヒッ!」
ブルーが、私に顔を近づけてきた。
「なになに? どうしたの?」
「ブヒヒッ! ブヒヒヒヒッ!」
「ふむふむ。なるどね~」
どうやら、お腹が空いてしまったようだ。
仕方ない。
バトル中は激しい運動により、多くのカロリーを消費してしまう。
ブルーだって、間食ぐらい挟みたくなる。
決して、ブタだからではないよね?
「ちょっと待ててよ……えっと……たしか」
私はポケットをごそごそと漁ると。
「おおっ! あった。チョコレート」
とてもカロリーの高いお菓子だ。
これなら、ブルーも喜んでくれるに違いない。
「ほうらっ ブルー。お菓子だよ~」
――ガブッ!
「ぐおおっ! なんで噛むの!?」
まさか、ビターチョコなのがダメなのか。
やはり甘いものでなければ、ダメ。
そういうことなんだろうか。
「待っててよ……たしか……」
私はまたポケットをごそごそと漁ると、
「あったっ! ドーナツ!」
更に、モナカとエクレアも追加しておこう。
これでどうだ。
「ブヒヒッ!」
――ドシン!
ブタは私に突進をしかけた。
「ごほおっ! どうして!」
……くっ。これでもダメだというのか。
やはり、ケーキ。
特大のホールケーキでなければ、満足しないと。
「違うわよ」
「え? じゃあ、ピザの特大サイズ? それとも、カレー? フライドチキン?」
「……まず、ご飯から離れなさいよ」
お腹が空いてるんじゃないのか。
「たぶん、何かを伝えようとしてるんじゃないかしら」
「何かって?」
「さあね。あなたなら、分かるんじゃない?」
仲間なのだから。
メアリはそう言いたいんだろうけど。
「ブヒヒッ!」
「うーん。ブヒブヒ言ってるようにしか聞こえない」
「ブヒッ。ブヒッ」
「……ん?」
このブタ、さっきから妙な動きをしているぞ。
よく見ると、鼻から水が垂れていて、それが床に絵を……。
「これは……」
魔法陣、だろうか。
まあ、ブタにしては、よく描けた絵だと思うが。
「ということは、つまり……」
どういうことだ?
「ブヒヒッ! ブヒヒヒッ!」
――ドシン!
ブタによるタックルが炸裂。
「ごほおっ! 痛いっ! 痛いって!」
なんか、怒ってる?
痺れを切らしたのか、私にそっぽを向いた。
そして、何やら力を溜めている。
これは……魔法か。
ブタが壁に向けて、魔法を放とうとしている。
「≪ブウブブウ≫!」
≪ブウブブウ≫
難度 ★★★
属性 水
使用回数 15/15
成功率 80%
説明 水魔法。鼻から水を勢いよく噴き出す。
――プシュウウウッ!
二つの鼻の穴から、水を噴射した。
「……凄い」
魔法だ。ブタが魔法を放っている。
ブタなのに、魔法を。
「でも、ブルー。あなたはそれでいいの?」
仮にも、女の子なのに。鼻から水を噴射って……。
何か大切なものをなくしてはいないか?
「ブヒヒッ! ブヒヒヒッ!」
「私を使ってくれって言ってるの?」
「ブヒッ!」
「そんな姿になってまで、パーティーのために戦いたいって」
「ブヒッ!」
「ブルー……」
まったく、この娘はどこまで……。
「分かったよ、ブルー。私たちと一緒に戦おう」
「ブヒッ!」
ようし。やってやるぞ。
☆
「カーススススッ! おまえたち、まだやる気なのか? とっくに逃げ出したと思っていたが」
「逃げるわけないだろう。あなたを倒す算段はすでに付いている」
「ほう。それは、まさか……」
彼は私の足元にいるブルーを見ると、
「そのブタを使った作戦なのか?」
「そうだよ」
「やめておけ。ブタなどなんの役にも立たない! 悪いことは言わんから、早く小屋にぶち込んでおくんだな」
「……」
カースメイカーと私たちの距離は、まだ離れている。
ブルーの魔法を命中させるなら、もっと近づかなければならない。
だが、奴には四本の腕と、二本の杖がある。
いつものブルーならともかく、ブタの彼女を接近させるのはかなり困難。
「ブラック。あなたがブルーを守るんだよ」
「……ん……」
魔族が杖を振り上げた。
「シャドーエッジ!」
影の刃が、私たちに襲い掛かる。
「……神速!」
右に走って、回避。
「……ふっ。シャドーエッジ!」
もう一度、放ってきた。
奴の魔法は杖の数。つまり、二発分あるのだ。
「……神速!」
更に右に避けて、回避。
「……これで二発、撃たせた」
ブラックに合図を送る。
「前に出て!」
「……ん……」
ブラックがブタを引きつれ、前に進む。
「シャドーエッジ!」
もう次の魔法か。今度はブラックの方に行く。
ブラックは『マジックシールド』を使うことで、敵の魔法を遮断する。
「シャドーエッジ」
「セイントスピア!」
光の槍で、敵の影の刃を撃ち落とす。
これで、二発分。また、ブタを前へ。
「……ちっ」
魔族がイライラしながら、舌打ちをする。
「勇者ステラ!」
あいつは私の方へ向かってきている。
いいぞ。予想通りだ。
こいつはブルーのことを舐めている。
だから、私のことを潰そうと考えてるのだ。
「……死ねえっ!」
両手の爪で、私の体を引き割こうとしている。
キィン! 剣でガード。
「シャドーエッジ!」
「……神速!」
右に回り込むように回避。
「シャドーエッジ!」
「……ジャンプ!」
飛び上がって躱した。
「……よし」
これで二発目を撃たせた。
詠唱の間に、わずかな隙ができる。
「今だよ。ブルー!」
「ブヒッ!」
すでに、ブルーは魔族の背後まで来てる。
放てるぞ! その距離なら!
「ブヒヒッ!」
ブルーが力を溜めている。
そして――。
「カーススススッ!」
そのとき、魔族が笑い出した。
「勇者ステラ。どうやら、勘違いしているようだな」
「……え?」
「『私の魔法が二発しか撃てない』。おまえはそう思っているようだが」
そう言うと、魔族が力を入れて、
「……ふん」
ニョキっと、背中から新たな腕が生えてきた。
「……なっ」
何!? 腕がもう一本生えて……。
カースメイカーは勝ち誇るように言った。
「この時を待っていたのだ! おまえたちが、のこのこと現れて。この私に隙を晒すのをな!」
魔族は杖を構えて、
「リフレクション!」
呪文を唱える。
「さあ! 愚かなブタよ! 自らの魔法によって、その命を終わらすがいい!」
「……ブヒッ!」
駄目だ。ブルーの詠唱は完了している。
もう魔法を止めることができない。
「死ねえ! 消えろお!」
「……ブルー!」
「……」
様子がおかしい。
魔族の『リフレクション』が発動していないのだ。
「……これは、いったい」
腕を見ると、そこには模様が浮かび上がっている。
「……しまった。これは狩人の」
「シールアロー」
グリーンの放った矢により、封じ効果が発生。
「……んぐっ……くっ」
杖を上げきれてない。
つまり、カースメイカーは魔法を使えないのだ。
そして、今度はブルーの魔法が……。
「≪ブウブブウ≫!」
「ぐおおっ! や、やめろお!」
プシュウウウウッ!
鼻から水が勢いよく、噴き出す。
魔族は防御もままならず、それを全身に浴びてしまう。
「ぎゃあああああっ!」
その体中から白い煙が立ち込めて、表皮が溶けていく。
あれだけ硬かった奴の表皮は曲がりくねり、柔らかくなってしまった。
「……な、何故だ。私がこんなブタなんかに」
私はそいつに向かって剣を突きつけた。
「あなたの敗因は、ブルーを舐めていたことだ!」
「……くっ」
「最後は、私の技で終わらせてあげる」
受けてみろ。
私の奥義――。
「……流星!」
鮮やかな光に包まれた。
私の剣は、凄まじいスピードで、敵を切り刻む。
十……二十……三十……
「……カ……カカス」
敵の腕が切れ、足が切れ、頭が切れる……四十……五十……。まだ、続く。体が細切れになる。それでも、終わらない……六十……七十……粉々になり、跡形もなくなっていく。
「……」
最後には、砂になった死体だけが残った。
風に飛ばされ、どこかに流れていく。
私は剣を収め、背を向けた。
「……ふう」
カースメイカー。
討伐完了だ。




