↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/71

第40話  新しい魔術を覚えよう

「王女たちの装備を強化しよう」


 第五迷宮《岩窟》からの帰還してすぐ、フォードはオルダスの街でそう切り出した。

 リリカ王女が真っ先に喜色を浮かべて瞳を輝かす。


「えっ、良いのですかフォード!?」

「ああ。グレスから金貨三百枚を得たし、俺も中級ランクの魔石をいくつか手に入れた。いくらか余裕が出たから良いだろう」


 まだ王女には全部は見せてはいないが、五十階層までにフォードは大量の魔石を得ていた。

 中にはランク四や五といった中級ランクの魔石もある。

 これを売れば相当な金額になる。それを元に、装備を整える事も可能である。


「でも良いのかしらフォードさん。今は目標の金貨千枚のために稼ぐのが優先では?」


 ルルカ王女が当然の疑問をぶつける。


「それでもいいが、やはり要所要所で装備も固めない。王女たちも成果を全てお金にするのは味気ないだろう? 今日くらい贅沢しても構わない」

「でも、悪いわ……わたしたちは今回、大した働きもしていないのに」

「いや。二十階層までの戦い、見事だった。ルルカ王女も『くノ一』でカーバンクルを仕留めた事、忘れていない」

「それはもう忘れて! 記憶から、全て余すことなく!」


 フォードが微笑し相好を崩し、ルルカが頬を赤らめた。

 フォードが冗談だと呟いてみせると、ルルカも複雑そうな顔からやんわりと笑みを浮かべてくれた。


 一堂は大通りを抜けて、ギルド支部へ向かう。

 踊り子の旋律や喝采飛び交う広場を抜け、恰幅の良い菓子商人の呼び込みを尻目に、目的の大きな建物に着く。


 大剣背負う若者やローブ着た女性、様々な探索者で溢れるギルド支部の受付に行くと、フォードは大量の魔石や素材を職員に渡した。

 受付の女性職員が、目を丸くする。


「こ、これは凄まじい成果ですね……フォード様、つい四時間前に出たばかりですよね?」


 職員が驚くのも無理はない。それほど名があるわけでもないパーティ一行が、短時間でこれだけの成果を持って来る――まるで幻でも見たかのような顔だった。


「ええ。うまく陣形がはまりましてね。思いもよらぬ快進撃でした」


 驚く職員にフォードは微笑してみせる。職員は呆気に取られつつも、己の職務を全うすべく、成果物を数えていく。


「ええと、ダースラットの羽が三十九枚、ストーンリザードの鱗が三十二枚、コボルトの牙が九個……あ、すごい、トロールとカーバンクルの魔石っ。ストーンマンとラミアの魔石まで!? ――あ、し、失礼致しました。素晴らしい成果ですね」


 破顔して女性職員が褒める。

 ギルドの受付付近には静音サイレントという、盗み聞き防止の魔術が掛かっているのだが、思わず声をひそませたくなるほどの大成果だった。

 中でも特筆すべきは『階層主』の魔石と素材だろう。ストーンマンの腕の破片、ラミラの蛇尾、トロールの棍棒、カーバンクルの宝石など、希少かつ利便性に長けた物も多い。


 傍で見ているルルカやリリカの表情もどんどん晴れやかになる。自分たちの護衛フォードが褒められているようで嬉しいのだ。


 カルキノスだけはむっつり顔でフォードを睨んでいたが。

 各々の反応を横に、女性職員が、フォードに語りかける。


「倒し方が上手いですね。特にカーバンクルの宝石などは綺麗です。私が欲しいくらい……あ、いえ、何でもないです。では集計させて頂きますね。少々お待ち下さい。――全て換金でよろしいでしょうか?」

「はい、素材は全てお願いします。魔石に関しては、カーバンクルの魔石とラミアの魔石だけは保持で」

「承りました。……ふふ、自分の受付にこれほど収穫が持ち込まれますと、集計も楽しくなります」


 笑顔で女性職員が語る。やはり収穫が多いと誰しも嬉しいものなのだろう。こういう光景が何度も続けばいいと、フォードは切に思う。

 誰一人欠ける事なく、誰一人不幸にならず、多くの成果を得る。

 ルルカやリリカの微笑ましい笑顔を見ていると、そう思わずにはいられなかった。


 やがて集計も終わり、換金作業は滞りなく終える。


「素晴らしい成果でした。次回もフォード様一行には期待しています!」


 今回、換金で得た硬貨は金貨六十九枚、銀貨三十六枚、銅貨八枚である。

 前回が金貨五枚と少しだったので、段違いの成果。やはり『階層主』を四体倒したのは大きい。

 重くなった財布にルルカやリリカは喜色満面。そのまま今度は、武器職人の所に行こうという話になる。ルルカやリリカの装備を強化するためだ。


「武器を強化できる職人で、良い所はありますか?」


 ギルド職員に武器職人の居場所を尋ねると、女性はいくつか候補を挙げた。


「武器の製造するのでしたら西大通りの『アトリエ・緑の大鷲』が良いかと思われます。戦士、魔術師、治療師、どのクラスの武器も製造できます。ベテランの優秀な職人が揃っていますよ。

 ――魔石を埋め込む類の強化ならば、北東のポエダス通りの『アトリエ・銀麗荘』でしょうか。そちらでしたらギルドの割引も適応されますし、腕も折り紙つきです。他にも、東通りの『ゲルバスとロニのアトリエ』、『翔錬商会』、南東の広場脇の『ポルドール武具店』など。――いくつか資料をお渡ししますね」


 ギルド職員が渡す羊皮紙の資料を、一通り見てみる。

 魔術による念写の映像付きだ。まるで本物を映し出したような繊細な店の見本図を見て、ルルカやリリカがはしゃぐ。


「あっ、『ゲルバスとロニのアトリエ』、とっても綺麗なお店なのです!」

「『翔錬商会』も良さそうだわ。見て、ランク黄金の探索者ラルハールの推薦も」


 和気あいあいと、親衛隊も交えて楽しそうに語り合う王女姉妹たち。

 しかし値段を見るとどれも高い。ふと、フォードは安い店の検討も考える。


「あの、安めの値段の職人のいる場所――の把握もしていますか?」

「低額の職人店ですか? ……一応は。ただギルド認定の場所ですと、腕は良くとも、値段はそれ相応。……特に、魔石関連の装備は高額です。裏通りやギルド非認定の店ならば、その限りではありませんが……」

「……やはりギルド認定の店と、非認定の店では格差が……」


 女性職員は別の資料を取り出しながら頷いた。


「はい。第一に、取引の誠実性です。ギルド認定の店は職人が誠実かつ、値段相応の仕事を致します。王女様の機密も守ります。――ですが非認定の店ですと、質の割に高額な要求をされたり、中には報酬だけ貰って、仕事は一ヶ月後――などという事例もあります。……稀にですが、金品全て寄越せと脅してくる店も……」


 リリカ王女が「り、略奪、怖いのです……」と青ざめる。

 フォードが不安を和らげるように肩に手を添えながら、


「それなら……やはりギルド認定の店の方が確実ですね」

「はい。もちろん誠実な店や職人も非認定の中にはありますが、フォード様一行のように、機密を重要視されるパーティや、探索者として日が浅い方々は認定店の方が宜しいですね。一見さんお断りの場所も多いですし、確実にいくならば認定店かと」


 もちろん、一概にどちらが良いとは言えないだろう。

 フォードの父が言っていたが、職人にはギルドに認定される(しがらみができる)のを嫌い、腕があっても非認定のままでいる者もいる。

 いわゆる職人堅気の部類だ。

 そういう職人は一流の腕を持っており、事実、実家の家宝であった雷紋剣も、非認定の職人がこしらえた業物と聞いた。


 しかし、今はまだ石橋を叩くくらいで良いだろう。ルルカ達の事を吹聴されるのは防ぎたい。


「――認定の方に行ってみます。『アトリエ・銀麗荘』に向かおうかと」

「それがいいと思います。ギルドカードを見せれば割引の対象となりますので」

「判りました。ありがとうございます」


 フォードたちは礼を言って、ギルド支部を後にした。


 ルルカやリリカも楽しそうについてくる。いよいよ自分たちの武器の強化なのだ。心躍らないはずないだろう。

 やがて着いたのは、植物系の色どりがされたお洒落な建物である。


「いらっしゃいませ! 武具強化店『アトリエ・銀麗荘』へようこそ!」


 広々とした店の中で、女性店員の明るい声が響き渡る。

 いくつもの鎧、盾、刀剣類が並んでいる店だ。

 樫の木でできたテーブルや床が優しい空気を演出する。二階への階段や奥への扉。そちらから響く剣戟音があるところを思うに、試し斬りなどもできる大型店のようだった。


「初の来店ですね? ご用件は何でしょうか?」

「武器の強化です。魔石のはめ込みをお願いします」


 朗らかな笑顔の店員に、フォードは件の魔石を取り出した。ラミアとカーバンクルの魔石を見せると、女性店員が笑顔を見せる。


「おおっ、階層主の魔石でございますね? これでしたら加工方により武器の効果が変わりますよ! こちらからお選びください」


 言って、彼女はエプロンのポケットから羊皮紙を取り出した。ランク五の魔石の効果が書いてある。


【カーバンクルの魔石(迷宮主) ランク五】

  効果候補

  ・常時発動スキル:『属性魔術・耐性上昇』(五つまで)

  ・常時発動スキル:『属性反射』(一つのみ)

  ・常時発動スキル:『俊敏性一・四倍』(自身のみ)

  ・特技:『クイックムーブ』(味方の俊敏性一・二倍)の取得


【ラミアの魔石(迷宮主) ランク五】

  加工候補

  ・常時発動スキル:『状態異常の耐性上昇』(毒・麻痺・眠り・魅了等)

  ・特技:『ベノムウインド』(対象に毒状態を促す風を放つ)

  ・特技:『チャームヴェーゼ』(対象を魅了する風を放つ)

  ・特技:『スタンミスト』(対象を麻痺させる霧を放つ)】



「たくさんあって目移りしてしまうのです!」

「そうね、どれも捨てがたいわ」


 ルルカとリリカが嬉しさ半分、困った顔半分といった様子で笑った。


 総評としてはカーバンクルとラミアの魔石、どちらも良い候補がある。

 特に『クイックムーブ』は味方の俊敏性を上げること、『スタンミスト』等は敵を無力化させる技が優秀だ。ルルカ、リリカ双方に有用である。

 しかし困ったのはルルカもリリカも、同じ魔石を欲しがった事だった。


「リリカはカーバンクルの魔石がいいのです」

「わたしも、カーバンクルの方を選びたいわ。これは譲れない」


 どうやらその理由をフォードが聴くと、『綺麗だから』という返答が返ってきた。


 確かにカーバンクルの魔石はルビーのように美麗でもある。対して、ラミラの魔石は濁った血のようで禍々しい。見目麗しい乙女なら、当然前者を選ぶだろう。

 効力も同じくらい有用なのだから、見た目重視なのはよく判る。

 しかしだ。ルルカもリリカも互いに譲らない。姉妹ならではの張り合いというのか、はじめはどちらも「そっちが遠慮してほしいな」と柔らかく言っていたのだが、次第にルルカもリリカも口調が強くなり、そのうち口調も強くなってきた。


「だからリリカがカーバンクル使うのです! クイックムーブで皆を助けるのです!」

「いいえわたしこそカーバンクルが相応しいと思うわ。魔術師として後衛で支援して活かす――それはリリカにはできないのではないかしら」

「そんなことないのです! むしろルルカでは使いこなせないのです! いつもへっぴり腰で後ろで魔術撃つだけだったのです」

「へ、へっぴり!? 聞き捨てならないわ」


 雲行きが怪しくなる。だんだん姉妹喧嘩の様相を呈してきた。

 親衛隊の三人も誰も止められない。これはマズい、非常にマズい、早急に収めねばと皆が思いかけた時――。


「こうなったらフォード、選ぶのです!」

「フォードさん、あなたに選んでほしいわ」

「え」


 王女二人が、フォードの胸元へ詰めかける。


「……あー」


 これにはさすがのフォードも参った。

 これは言わば「どちらが宝石似合う? ねえ? ねえ?」と言う問答に等しく、容易に返答できるわけがない。

 というよりも双子の姉妹なのだから行動も似通っていて、リリカは切実そうな瞳で上目遣いに見上げ、ルルカも楚々としながらも懇願めいた眼を向けてくる。


 さらに迷宮帰りで二人ともほのかに汗の香りが――ああ、また汗かよ! とフォードは脳内で焦るしかない。

 詰め寄られ、懊悩し、困惑したフォードが、やがて出した結論は――。


「……日中はルルカ王女が持ち、夜はリリカ王女がつける――というのは?」

「(日和った)」とロブ。

「(日和ったわ)」とネイラ。

「(馬鹿め日和ったな!)」と喜ぶカルキノス。


 エリゼーラまでもが笑っていた。


〈やれやれ我が主は以外と小心者だな。王女には弱いとみえる〉

「(やかましいわ、じゃあお前が決めろ!)」


 フォードがそう思うとエリゼーラがくすりと笑った。

 もうどうすれば良いのか、正解なきこの難題にフォードは肩をすくめるするしかない。


「……ではロブ、お前が決めろ」

「え!? あ、いやあ、俺ごときの浅慮な判断で良いものか……」

「ではカルキノスが」

「なっ!? い、いや俺も姫様の下僕、尊きその未来を決めるなどおこがましい……」

「ではネイラ――っていない!」


 寡黙な女レンジャーはなぜか忽然と姿を消していた。難事は放棄とばかりに紙で「後は任せる」との文字が床に。


「フォード! 決めてほしいのです!」

「どうかお願い、わたしを選んでフォードさん!」


 右腕にリリカの温もり、左側にリリカの切実な瞳。

 フォードは困りに困った顔のまま、二人の王女に言い寄られていった。



お読み頂き、ありがとうございます。


次回の更新は明日、20時頃を予定しております。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。