表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/71

第13話  ギルドに行ってみる

 賭博場で大量の品々を手にれたフォードは、いよいよギルドに行くことにした。

 エリゼーラの顔にも期待が宿る。


〈さて、我が契約者の門出じゃ。ここからぬしの栄光の階段が始まるのだ。存分にその力を振るうが良い〉

「気が早いな。まずはギルドへの登録と、依頼クエストの受注だろう。全てはそこからだ」


 ここまで長かった。

 冤罪をかけられ、投獄させられ、裏切りに遭い、悪霊王と出会って、脱獄した。

 波乱万丈だったが、ここからやっと探索者としての歩みが再び始まる。

 深き迷宮に潜り、金銀財宝を集め、まだ見ぬ景色を目にし、伝説の武具を手に入れる。


 否が応でも気迫がこもるというもの。フォードは船の商人から得たレザーアーマーとレザーブーツ、腰には魔剣『冥王臓剣』を下げたまま、さらに賭博場で得た『緋影の篭手』を振り上げた。


 『緋影の篭手』

 賭博場で得た『耐火性能』を持つ篭手である。

 緋色の金属には火炎を減じる効果があり、あらゆる熱・炎の威力を三割減少させる。

 さらには火炎をまとい、拳を叩きつけることも可能で、攻防一体型の武具と言える。

 

 フォードは輝く緋色の篭手を頼もしそうに掲げた後、街外れの小さな建物に入った。

 ギルドの建物だ。


「ようこそいらっしゃいました、ギルド・オルダス出張所へようこそ。探索の希望でしょうか?」


 簡素な調度品が置かれた、小綺麗な受付だった。

 カウンターには緑髪の綺麗な女性がおり、手元にはいくつもの書類を抱えている。部屋の一角には掲示板、数束の情報紙。数名の探索者らしき人が片隅で談義を交わしていた。


 小さい建物だが、これは出張所という場所のためだ。

 ギルドの建物は大別して三種類あり、本部、支部、出張所の順に小さくなる。

 出張所とは街の外苑部に設置される簡易所だ。依頼から戻ってきた探索者へいち早く対応したり、急病や重症の探索者へ、初期処置を施すために存在している。


 大きな依頼は受けられないなど、いくつか制約があるが、中堅以下の探索者にはうってつけの拠点と言える。


「初めての依頼です。ギルドカードの作成をお願い致します」


 フォードは受付の女性にそう告げた。


「かしこまりました。新探索者のご登録ですね。少々お待ち下さいませ」


 手元の羽ペンを取り、確認の書類などを用意し始めた。間もなく準備が完了する。


「おまたせ致しました。まず新規約により、新探索者様のお荷物を一部預からせて頂きます。カードの複数所持を防ぐための処置です。お持ちの所持品の中で、預けても支障のない物はありますでしょうか?」

「新規約、ですか?」

「はい。最近、ギルドカードを複数作成して依頼を行う方が急増しています。対策の一環として、新登録の際には担保として、一部荷物を預からせて頂く事となっています」


 ギルドの出す依頼クエストには、複数人が受けられるものが存在する。

 しかしギルドカードを複数所持――つまり一人で複数人を装うことにより、その依頼を独占してしまう探索者がいる。それを防ぐためだろう。所持品を予め預かる事で、万一新規登録者が複数カード所持者だったとしても、預かり品を没収することで、複数カード所持者へ負担をかけるという制度である。


「なるほど、色々な犯罪があるのですね」


 メリルと二人で探索した時から二年以上。それだけ探索者の界隈も変わったのだろう。


「はい。イタチごっこのようなものですが、我々ギルドとしては看過できない犯罪です。探索者の方々には負担となってしまい、申し訳ありませんが……」

「いえ。では私の場合、何を担保として渡せば良いでしょうか」


 受付の女性はフォードの装備を眺めた。

 その眼差しが、腰の『冥王臓剣』に行ったところで止まる。


「そちらの黒い剣なら、申し分ないと思われますが、いかが致しましょう?」

〈なんじゃと!?〉


 エリゼーラが急に声を出した。しかし受付の女性には聴こえていない。

 彼女の声は、契約者であるフォードにしか届かないのだ。


〈我が契約者よ。それは遠慮するが良い。我の魔剣は価値としては最上だがおぬしの迷宮探索の要でもある。一時とはいえ、渡すことは好まぬ〉

「(まあ、それはそうだな)」


 承知しているフォードは、困り顔で応じた。


「これですか……他で代用はできませんかね。私の主力装備なのです」

「了解致しました。しかし担保品がBランク以上ですとギルド内で様々な恩恵が受けられます。指定宿場の割引、特別鍛冶屋の斡旋、魔導書の優先貸与……他にも、有力な探索者パーティへの紹介など。

 ――もちろん、登録者様が複数カード所持者でないと認定された後になりますが。その黒い剣ですと、Bランク以上は確実。Sランクかそれ以上かと思われます」

〈人間ごときが等級を計るじゃと!? 我の魔剣に!〉


 エリゼーラが口をはさむが、フォードは少し考えた。


「……」

〈む。待て、我が契約者よ。その沈黙は何じゃ〉

「――この剣を預けた場合、先ほどの優遇を全て受けられるのですね?」

〈待て。待つのじゃ、我が契約者よ!〉


 折り目正しく受付の女性は礼をした。


「それは確実に。最上級の待遇が受けられることは間違いと思われます。複数カード所持者ではないと認定されるまでの五日間、登録者様にはご不便をおかけしますが、その後の優遇は責任持って取らせて頂きます」

〈五日間!? そんなに!?〉

「では、この剣でお願いします」

〈我が契約者――っ!?〉


 フォードは視線だけでエリゼーラに謝った。



 《憑依》があれば五日は冥王臓剣がなくとも迷宮の探索は可能だろう。

 すでに緋影の篭手など、上質な装備や所持品もいくつもある。

 それらを使い、初級者向けの迷宮を探索すれば、一ヶ月はすぐに終わる。


 どの道、冥王臓剣は強すぎて過剰攻撃になる。ガルグイユ監獄の宝物、オルダスの賭博場の景品、それらがあればしばらくは問題ない。


「承りました。それでは、こちらに黒い剣を収めください」

〈ぬう。我が剣が、人間の手で、人間の箱に……〉


 エリゼーラが、鈍色の金属の長箱に入れられた魔剣を見て、不満そうに唸る。

 後で彼女には謝るべきだろう。ともかく、遅れた分を取り返すため、ギルドの優遇を受けられるならそうしよう――フォードはそのように思っていた。



†   †



〈おぬしはわれが嫌いなのか〉

「いやいやいや、エリゼーラ、そんなに拗ねないでくれ」


 魔剣をギルド出張所に預けて十数分後。森の中で、フォードはエリゼーラをなだめていた。


〈おのれ。我が魔剣を人間などに渡し、あまつさえ封じたなど。これがおぬしでなければ八つ裂きにしているところだ〉

「すまないな。予め担保の事は知っておくべきだったな。後で埋め合わせはするから」


 そう言うとエリゼーラはわずかに表情をほころばせた。


まことの話じゃな? 反故にすればぬしを裸に剥いて放置するぞ?〉

「それも勘弁願いたいから絶対に埋め合わせはする。歓楽街で一日中遊ぼう」

〈おおっ! 信じるぞ? 良いのじゃな? ぬしよ、我が満足するまで眠らせぬぞ!〉

「判っている。俺の責任だからな」

〈ふふふ! 流石は我が契約者よ! 大好き!〉


 単純というか実利主義と言うべきか。

 そう言って納得してもらい、フォードは森の中を散策する。


 ギルド出張所に紹介された《迷宮》への入り口は、この木々の奥にあると言われた。

 初級者も比較的安全な、低級な魔物しか出ない場所だ。

 ゴブリン、ハーフオーク、リトルウルフ。一度に複数相手にしなければ十分対処できる魔物たちだった。


 しかし、フォードは途中、嫌な噂を耳に入れた。

 共に迷宮へ向かう探索者が、気になることを言っていたのだ。


「なあ、知っているか? ――『出張所荒らし』の件」

「ああ、ギルドの出張所を狙う輩の事件だろう? 新規登録者の『担保』を狙い、それを強奪して持っていく」

「悪質な手口だよなあ。第一区画ではまだ数が少ないらしいが、第四区画では被害が多発しているらしいな」

「栄えある探索者への第一歩を狙った、卑劣な手口だ。ギルドで何らかの対策が講じてくれればいいが……」


 ――胸騒ぎがした。

 それは、ルザや、レミリアとのやり取りを経て培った、危機感知能力のなせる技か。

 その会話を聞いた瞬間、フォードの内心に、電撃のように衝撃が走り抜けた。


 世界は、物語のように優しくない。

 時に厳しく、毒のようなものを振りまき、生者を翻弄する。


「――エリゼーラ」

〈ふむ。まさかとは思うが、念の為、先ほどのギルド出張所へ戻ってみるべきか〉


 はやる気持ちを抑えて、フォードは出張所へと足を逆戻りさせた。




 強化した肉体を使い、風のように疾走する。

 途中、街の方で爆煙が上がった。

 何人かの悲鳴や、怒号のようなもの。

 嫌な予感が加速する。まさか、いや、こんな時に、それは。


 ――しかし、予想は悪い方へ的中する。

 ギルドの出張所が。

 さきほど、ほんの半刻ほど前までは無事だった出張所が。


 何者かに襲撃され、壁や、入り口の扉、そして内部など、あちこちが火炎、雷撃、その他魔術と思われる攻撃によって、荒らされた後だった。


「おい! 大丈夫か!」


 爆散されたカウンターの奥、先ほど受付をしていた女性を見つけたフォードは、倒れていた彼女を抱き起こす。


「う……お、お客様……? 先ほどの……?」

「何があった。誰に襲撃された。被害は……」


 尋ねると、彼女は、抵抗はしたのだろう、砕けた魔導具の杖でとある方向を示しながら、


「ぎ、ギルド出張所狙いの賊と思われる一団がやってきました。わたくしどもは抵抗したのですが、敵わず……申し訳ありません。お客様の担保の他、多数のお客様の大切な品を、奪われてしまいました……」

「おい、しっかりしろ、おい……!」


 かろうじて繋ぎ止めていた意識が緩んだのだろう。

 受付の女性はそれだけを言うと気を失い、だらりと首を垂れた。

 怒りの感情がフォードはの内を駆け巡る。


 見れば、他にもギルドの職員はおり、皆武器は持っていたが、奇襲され、ほとんど何も出来ないまま倒れているらしい者が大半だった。

 折れた剣を握りしめている者、焼けた服に身を包んでいる者、奮戦空しく、気絶させられた者――。


 その中で、比較的まともな職員に《回復》魔術をかけ、フォードはその男性職員に指令を出す。


「探索者のフォード・オルトレールだ。事態はおおよそ把握した。俺が可能な限り職員を回復させるから、支部か本部から応援を呼んできてくれ」

「りょ、了解です。……このご恩は必ず……」

「それより賊の追跡が先だ。候補となる集団はいるのか? 場所は? 情報屋はどこにいる?」

「かねてよりわたくし共も『強襲者』の居場所は把握しようと勤めて参りました。しかしこの街は広く、それも叶わず……」

「つまり現在は追跡も困難ということか?」


 力なく頷く職員にフォードは嘆息混じりに舌打ちする。

 だが彼を攻めても仕方ない。すでに他の探索者や、応援にかけつけたギルド職員と思しき者たちがやってきた。


 フォードは事情を説明し、後のことは応援のギルド職員に任せると、群がる野次馬を掻き分けながら、


「――相手はかなり強大な集団だな。ギルドでも発見出来なかったとなると」

〈普通なら泣き寝入りするところじゃのう。しかし我が契約者よ、おぬしには力がある。頼れる技がある。――そうじゃろう?〉

「ああ、ギルドでも居場所を掴めない犯罪者集団。だが、俺はあいにくと、『普通』ではない」


 群がる野次馬たちの中、フォードは静かに語る。

 その瞳には、怒り、憎しみ、煮えたぎる感情。

 他者を陥れ欲望を満たそうとする悪辣なる者への、憎悪。


「事は俺だけの問題ではない。――『奪われた者』の怒りと憎しみ、知らないというなら味わわせてやるよ、賊どもが」


 悪を滅する事にもはやためらいなど無かった。

 自分を、そして他の探索者の夢をも踏みにじったツケ、その命で償わせてやろうとフォードは決意する。


お読み頂き、ありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ