第14話 魔剣を求めて
〈さて、では我が契約者よ。まずどうする?〉
ギルドへの担保品を強奪するという悪党を倒す。
その方針を固めたフォードは、応援に駆けつけたギルドの職員へ情報を提供した後、悪霊王エリゼーラにそう問いかけられた。
「そうだな、まずは『感知能力』を持つ人間に取り憑こうと思っている」
〈ほう。感知能力とな?〉
「ああ、奴らは完璧に近い逃亡手段を行っているのだろう? 俺が普通に探索しても無駄骨になる。だからまず《感知》系魔術の達人に取り憑き、奴らの拠点を暴くべきだ」
エリゼーラは長い黒髪をなびかせ、こう応えた。
〈しかしぬしよ。相手は名うての犯罪集団ども。いかに《感知》系の魔術を用いるとはいえ、一筋縄ではいかぬと思うが。何か策はあるのか?〉
「ああ。まあそれなりに。見ていればわかる」
他者や物を探り出す《探知》系の魔術は、探索者にとって非常に身近だ。
魔物や宝、罠を見つけるのに最適でもある。この街にも良い感知系の魔術使いがいるだろう。
だが相手は詐欺集団。己の保身に長けた者はおらず、悪戯に探しても時間の無駄だろう。
しかしフォードにはそんなことは関係なかった。すでに彼の頭には段取りが浮かんでいる。
まずフォードは、先ほど会ったギルドの職員を追いかけた。そのうち、最も高レベルそうな女性騎士へと、《憑依》する。
【レイラ 十九歳 ギルド四等騎士
体力:中 魔力:低 頑強:低
腕力:中 俊敏:中 知性:中
特技:槍術 短剣術
装備:ミスリルアーマー(蒼)
ミスリルガントレット(蒼)
ミスリルブーツ(蒼)
蒼穹のマント
ミスリルジャベリン ミスリルナイフ×五】
なかなかの装備である。しかし肝心の感知の魔術が使える装備は持っていなかった。
魔術とは装備に含まれる『魔石』によって行使される秘技である。
『冥王臓剣』の柄尻のように、かつての『雷紋剣』の柄頭のように、ランクの高低はどうあれ、魔石がはめられている装備のことを、『魔導具』と言う。
この騎士は前衛の戦闘騎士だろう。装備は直接攻撃系ばかりで、探知系の魔導具の類は持っていない。
仕方ない、フォードは他の騎士――全部で六人いる彼らのうち、他の騎士にも《憑依》していくことにする。
【ダルドリー 二十四歳 三等ギルド騎士
体力:低 魔力:中 頑強:低
腕力:低 俊敏:中 知性:中
特技:槍術
装備:蒼のミスリス装備一式 ミスリルランス ミスリルナイフ×二 ロック鳥の兜】
五人目で、目当ての感知系魔術を使えそうな騎士を見つけた。
装備の『ロック鳥の兜』が、おそらく感知できる魔導具だろう。
ロック鳥とは西南の樹海に棲む巨大な鳥である。非常に視力が良く、数十キロの先を見渡せる。
その因子を埋め込んだ兜。歪んだ曲線的なデザインの兜は、他とは一線を画する雰囲気を漂わせている。
「(これだ。この魔導具を使えば良い)」
すぐに祝詞を唱え、兜を発動させる。
「――[卑しき者の住処を暴け。我は正義を貫く者。悪漢の拠点や何処に]――『スカイアイ』]
魔術を使ったが、他の騎士は特に何も言わなかった。この騎士が感知担当であり、これまでも何度も街中で使用したためだろう。
フォードの脳裏に、街を俯瞰した光景が浮かんでくる。
灯台に商店通り。
歓楽街。
宿場街。
煙が上がっている職人街。
一番背の高い建物は、ギルド支部だろうか? まるで大鷲が上空から見渡したような光景が広がっている。
人の顔もつぶさに見て取れる。表通りの客の呼び込みから、裏通りの喧嘩まで。
しかしその中に犯罪集団らしき者はいない。
奴らも馬鹿ではないから、真っ昼間からまともに姿を現す事はないのだろう。だから地道な聞き込みが重要なのだ。ギルドが誇る感知魔術でも、即座に発見するまでには至らない。
そこでフォードは、「怪しい者がいます」と適当な嘘をでっち上げた。
騎士達がその場所に向かう。その隙に、フォードは元の自分の体のそばにまで戻り、荷物袋を漁った。
中から、『ラクシェルの腕輪』という魔導具を取り出す。
これは賭博場で得た品物の一つだ。効力は『魔術効果二倍』。使い捨てだが十分間、他の魔導具の効力を『二倍』に増やすというもの。
山吹色をした腕輪、『ラクシェルの腕輪』をはめ、祝詞を唱える。
すると、脳裏で描いていた『ロック鳥の兜』による俯瞰図が、さらに克明になった。
見える。人の小じわから汗の流れる様、道端に落ちる針まで、極々小さなものまで見渡せる。髪の毛の落ちる様まで視える。
その中に、フォードが重要視するものがあった。
ギルド出張所から続く――足跡だ。
通常の目では薄すぎて見ることも難しい、わずかな砂や土による足の跡。
集団で移動したと思しき、犯罪集団の痕跡。それが街の一角から出て東通りを進み、貧民街を経て寂れた通りを進んでいったのが判る。
当たりだ。おそらく人数は八人。フォードは注視してその道筋を全て頭に叩き込む。
「見つけた。東地区の廃倉庫……か? それらしき足跡がある」
〈ほう! さすがは我が契約者よな。この短時間で暴きおった!〉
嬉々としたエリゼーラの声が木霊する。
フォードは舌なめずりをした。
さあ、奪われた物を返してもらおう。
卑しい欲望のツケを払い、後悔しろ。
フォードは通りを歩いていた別のギルド騎士に《憑依》し、アジトへ目指した。
【ボークス 二十八歳 三等ギルド騎士
クラス:アックスナイト
体力:高 魔力:低 頑強:高
腕力:高 俊敏:中 知性:低
特技:戦斧技 柔術 投げ斧術
装備:地竜の戦斧 ミスリルメイル(紫)
ミスリルブーツ(紫)
地竜鱗のマント
ミスリルアックス
ミスリルナイフ×二
ミスリルヘルム(紫)
ラクエシェルの腕輪 緋影の篭手 龍鱗の護符】
憑依したギルドの騎士の装備に加え、元々持っていた緋影の篭手を携えた。
もちろん、ギルド騎士に致死量の怪我を負わせてはならない。だから『龍鱗の護符』と呼ばれる、致死回避の魔導具も持たせた。
これも賭博場で得た物だ。
これで、万が一にも犯罪者集団に強者がいても、犠牲を出さず特攻出来るだろう。
「さて。では楽しい犯罪者退治といこうか」
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