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片想い

ーーー振り向かせる、絶対に

「なんか最近は海里様達静かだよなー、真弘」


「⋯確かにな」


思い出したように言うのは翔太だ。海里達から玲香を助けたのは数日前のこと。あれから海里達は特に玲香を追い詰めるようなこともしてなく、彼女も今は落ち着いて生活しているようだった。だけど。


「⋯このまま何事もなく終わるとは思えないけどな」


目を細め呟く俺に、翔太も大人しく話を聞いていた斗和も瑠衣も眉を顰めるのだった。


「なぁ真弘⋯、もし、もしも海生様が彼女との婚約を破棄するって言ったら⋯⋯どうするんだ?」


頼りになる1つ上の従者、斗和が俺の方を向き、聞いてくる。空気が重くなった。その質問は恐らく翔太も、瑠衣も気になってることなのだろう。2人とも口を挟むことなく答えを待っている。当然だろう。3人は俺のことをよく知っている。だからわかるのだろう。

ずっと俺が。


ーーー玲香に片想いしているということを。


誰かに言ったわけじゃない。でもずっと近くにいる3人だからこそ、気づいているのだろう。でも誰も言わない。その理由は明白だ。彼女は海里の婚約者だから。家族とはいえ、人の婚約者をとるというのはルール違反だ。もっとも彼女も俺の気持ちに応えてくれるというのであれば別だが。


だがもし、海里が彼女を手放すようなことがあるのならば、泣かせるようなことがあれば。


「振り向かせる、絶対に。お前らも頼むぞ」


自信に満ち溢れ、口の端を上げる俺に3人とも知っていたかのように笑い、こう言ってきた。


『仰せのままに、真弘様』



そして数日後、願ってもいない自体に至るのだ。





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「白石玲香を俺の婚約者にする」


一瞬時が止まったのかと思った。一度ならず二度までも彼は私を助けてくれた。


⋯⋯ていうか、今なんて言った?うん⋯?⋯聞き間違い?コンヤク⋯こんやくしゃ⋯婚約者!?


「えぇぇっ⋯!!??」


後ろで顔を真っ赤にする私に構わず真弘さんは言葉を続ける。


「いいだろ海里、⋯自分で手放すって言ったんだからな」


「⋯自分が何を言ってるのか分かってるのか、なぜ玲香を庇う?」


「それはこっちのセリフだよ、だいたいその女はなんて言ってるんだよ?⋯ほんとに玲香がやったって言ってるのか?」


どうなんだ。と真弘さんは海里さん達の後ろにいる園川さんに視線を向ける。

確かにその通りだ。実際園川さんは私のことを海里さん達になんて言っているのだろうか。彼女が一言言えばこの話も終わるのでは⋯。

全員からの視線を一身に受ける彼女は体を震えさえ私の誤解を解いてくれるのかと思いきや、海里さんに抱きつきこう言った。


「怖い、です⋯」


たった一言。その言葉にすぐさま反応したのは。


「オイオイオイ⋯、お前らのせいで梨沙がビビってるじゃねーかよ⋯、あぁ?」


ガンッと近くの机を蹴り、こっちを睨みつけてくるのは竜二さんだ。


「真弘さん、いくら『海里さんの弟』だからってこれ以上海里さんや梨沙を傷つけるなら容赦しませんよ⋯?」


見た目に似合わず敬語で話すのは真弘さんが自分の主人である海里さんの双子の弟だからだろう。それに対して返すのは笑いながら睨んでいる翔太さん。


「あぁ?どれだけ女に入れ込んでるんだよ、竜二⋯こっちだって真弘やコイツを傷つけるなら許さねーよ?」


今にでも従者同士で戦闘でも始めそうな重たい空気。もうどうすればいいのかわからない。そんななか止めたのは。


「そこまでですよ」


凛とした声と同時に間に入ってくる声は斗和さんだ。


「斗和⋯」


海里さんや真弘さん達よりも歳上である彼。物腰の柔らかい雰囲気の彼は静かに、でも威圧を感じるような声で彼らを制す。


「ここは学校ですよ、問題を起こすつもりですか?」


「悪い⋯、斗和」


「海里さんも⋯、生徒会長ならわかっているでしょう?」


「⋯⋯下がれ、竜二」


2人はお互いに従者達を下がらせる。


(よかった⋯)


最悪の事態は免れたことに内心ホッとしてる私に気づくことなく斗和さんは言葉を続ける。


「今日はお互い引きましょう、それに婚約の件も俺たちだけの話ではありません、家も関わってきます」


その言葉にハッとした海里はため息を付きこちらを向く。


「斗和の言う通り、だな。真弘、玲香。この話は近々に」


それだけ言うと海里さんは3人と園川さんを連れて去っていくのだった。

嵐が去ったかのように一気に静かになる教室。

真弘さんも3人も何も喋らない。


(気まずい⋯)


そんなことを思いつつ真弘さんが何か言ってくれるのを待つのだった。

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