第一章 3-2
それから三日間、僕は家事をする以外の時間はずっと部屋にこもって、一気に小説を書き上げた。内容はもちろんあのうるさいおばあさんや小さな老婆とのこれまでの交流と、おばあさんの家へ行ったことだった。私小説風にして書きたかったので、リアリティの無い、悪魔と自称するおじさんとの間にあったことは省略した。ただ、事実だけを書くとどうしても短すぎるのと、シンプルすぎてひねりが無かったので、事実のように見せかけた虚構を付け加えた。
その虚構の部分を簡単に説明すると――おばあさんの家を出る時、中年女性と小さな老婆が、僕さえ良ければこれからもおばあさんに会いに来て欲しい、とお願いしてきた。僕は(小説のネタになると思ったので)快くそれを承諾し、中年女性とスマートフォンのアドレスを交換した。
それから僕は中年女性に月一回くらいの頻度で呼ばれて、数回おばあさんに会いに行き、おばあさんの孫のソウシロウ君としておばあさんや中年女性とお茶をした。おばあさんは大抵ぼんやりとして、もう僕に怒ったりはしなかったが、それでも孫が会いに来てくれたことは分かるらしく、僕の手を握って、少し泣いたりした。
そして四回目か五回目に家へ会いに行った時、おばあさんはいつもの通りぼんやりして麦茶をすすったりしていたのだが、僕がおいとましようとした時、突然我を取り戻した。やっぱりソファにちょこんと座って前を向いたまま、静かに口を開いた。
「あんた、もういいかんね」
「はい?」
「もう、わざわざうちに来て、ソウシロウの真似なんて、せんでいい。あんたはあんたの仕事をしなさい。ありがとう。あの子とは死ぬまでにもう会えんかも知れんけど、あんたのおかげでいい思い出ができました」
「……」
僕は返す言葉が無かった。
「ばあちゃん、分かってたん?」
中年女性が驚いたように言った。するとおばあさんはもう自分を失ってしまっていて、テレビの方を見つめながら、その梅干のような皺のある口を、ただもぐもぐ動かしていた。
――と、こんな作り話をいかにも事実らしく付け加えたのだった。小説は原稿用紙換算で三十枚になった。




