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第四章 2-2

 別に僕には熟女趣味は無い。けれどもそのアドレスにメールを送る気になったのは、これが小説のネタになるのだろうと純粋に思ったからだ。


「件名 無題


先ほどセブンイレブンで接客をしてもらった者です。真島と言います。


アドレスをいただいたのでメールしました」


 家に帰った僕が夕食を作っていると、スマートフォンに返信メールが来た。


「件名 Re:


メールありがとうございます! 私は中越と言います。いつも当店のご利用、ありがとうございます。


突然ぶしつけなお願いになりますが、もし真島さんがよろしければ明日の昼、(あら)(だち)の方にある『()クウォーレ』というピザ屋で一緒にお食事しませんか?


返信お待ちしております」


 あのおばさんと二人でランチをする。これはなかなか面白い小説ができそうだ、と思った僕はこの誘いを了承した。待ち合わせは十二時、おばさんが指定してきたピザ屋で直接落ち合うことになった。


 翌日、僕は妻に取材と断って十二時前にアパートを出た。この日は日曜日で、妻は仕事が休みだった。僕が人と昼ご飯を食べてくることを伝えると、妻は「それなら私も昼はスーパーのお弁当で済ます」と言い出して、スーパーへ行くために妻も一緒にアパートを出た。


 前日と同じようにひどい暑さで、真夏の太陽がアパートの駐車場の黒いアスファルトを焼いていた。歩いてピザ屋まで行く気にはとてもなれない。


「暑いねー。自転車、有紀くんが使いなよ」


 妻がアパートの玄関のドアに鍵をかけながら言った。僕たちは自転車を一台しか持っていない。


「いや、美沙樹使えよ」


「私近いから。大丈夫だよ」


「そう? 悪いな」


 僕は妻から自転車の鍵を受け取ると駐輪場へ向かった。妻の様子は普段となんの変わりも無い。僕は内心、彼女の口座から金を勝手に引き出したことがいつばれるかと気が気では無かったが、この様子だとまだ妻は預金残高を確認していないようだ。ばれたらばれたで仕方ない、謝るだけだ、と僕は開き直っていた。


 自転車に乗ってアパートの前の商店街の通りを進みだすと、すぐに通りの脇を歩く妻の後姿が見えた。ノースリーブの薄いデニム生地のワンピースに、白のTシャツを合わせている。ベージュ色のハンドバッグを左肩にかけている。その後姿は陽炎(かげろう)に揺れていた。


「じゃあ」


 妻を抜き去りざま、僕は彼女に声をかけた。


「ああ、うん、いってらっしゃい」


 妻が返事をした。僕は振り返り、彼女を見た。妻は熱い風に吹かれて乱れた髪を左手で直し、こちらに向かって微笑みを浮かべた。


(初めて会ったのも、こんな暑い昼だったな)


 前を向き直りながら、なぜか僕はそんなことを思い出していた。


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