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エンディング 〜中村吉右衛門さんの鬼平が大好きです〜


 月日が経つのは早いもので、中村(なかむら)吉右衛門(きちえもん)さんがお亡くなりになったと聞いてから、一年が経ちました。


 居ても立っても居られない衝動で、思わずエッセイを投稿し、不定期ですが一年間続けてみました。


 自分がまさかこういうエッセイを出すようなキャラだったのか、と自分が一番驚いています。


 この一年、エッセイで紹介したいエピソードを集中的に観返(みかえ)しました。

 改めて、自分が鬼平犯科帳のどういうところが好きなのか、考えるいい機会になったと思います。


 やっぱり、自分はこの作品がとても大好きです。


 自分の人格形成に大きな影響を受けた作品だと思います。



 鬼平犯科帳を知らない頃の自分と、鬼平犯科帳を知ったあとの自分を比べて、何か変化はあったのかと聞かれたら、人間としての深みが圧倒的に変わったと答えると思います。




 子供の頃から、時代劇はよく見てました。


 自分の幼少期、我が家のルールでは、子供がテレビを見ていい時間は夜8時までと決められていました。


 それ以降は祖父母にチャンネル権を譲り、速やかに歯みがきを済ませ、9時には就寝というのがルールでした。


 でも時代劇なら9時まで見てもいいと言われていたので、祖父母と一緒に見てました。

 もしかしたら、テレビが見れるならなんだって良かっただけかもしれません。



 遠山の金さんのエンディング、松方弘樹が歌う『華のうちに』を、必ずラストは金さんと一緒に歌っていた記憶が残っています。ちなみにまだ(そら)で歌えます。


 作詞作曲は吉幾三。大人になってからの方が、歌詞の意味が分かって余計に良いですね。

 ……全然遠山の金さんは関係ないんですけど、なんか急に思い出してしまいました。


 あとは暴れん坊将軍、銭形平次、桃太郎侍……。

 特に好きだったのは三匹が斬ると鼠小僧だったなあ。あんまり覚えてないけど。



 そんな時代劇たちの中で、鬼平犯科帳は完全に別格なんですよね。自分にとっては。



 鬼平犯科帳シリーズは、社会人になってから好きになった時代劇でした。


 家族から『長谷川平蔵(=鬼平)っていうのは、男が惚れる男なんだよ』と言われて興味を持つようになったのがきっかけです。


 人気の時代劇って、基本は正義が悪を倒す話ですよね。


 別に悪がどういう悪なのか理解できなくても、主役サイドは絶対に正義と確定しているので、言い方は悪いけど、頭を使わなくてもちゃんと楽しめるんです。

 


 だけど鬼平犯科帳は、子供だと理解できない。


 なぜかというと人間って、分かりやすく善と悪なんかに分けられるものじゃないから。


 悪事を働きながら善行だってするし、盗みで手に入れた金で、人に(ほどこ)しだってするんです。

 友人を救いたいと思いながら、その友人を裏切ることもある。


 この人が悪い、この人が悪者だ、この人を捕まえてしまえ、と簡単に言えないような話が出てくるんです。


 そんな曖昧かつ流動的な存在である人間を、そのまま描いているのが鬼平犯科帳という時代劇なんです。


 俺は白。お前は黒。

 そんなこと、あるわけないんです。


『私は白い』なんて言うやつに限って、大体が腹黒だし、『俺は真っ黒だ』なんて言うやつに限って、実はピュアだったりする。



 学生でも社会人でも、人と完全に交流を()って生きるということは難しいので、誰でも不意に人間の嫌な部分を見てしまうことってあると思うんです。


 好きな人の影の部分。

 尊敬する人の心の闇。

 自分の中にある汚い感情。


 傷つくこと、苦しむこと、きっとあると思います。



 でも、それを知ったときに『人間なんて……』と、否定的に片付けてしまうのは、簡単すぎて、ちょっともったいないと思うんです。


 そこを敢えて『その人の持つ【味】である』と思えるようになれたら、自分の周りの景色は、ずいぶんと変わるように思うんです。


 きっと、いろんなことが許せるようになると思うんです。


 そういうことに気づけたのは、鬼平犯科帳のおかげかな。



 誰の中にも白が()り黒も()る。それが人間という生き物なんですよね。



 でも、そういうことって、子供の頭と心じゃ、まだ理解できない。


 結局この人はいい人なの? 悪い人なの?

 鬼平が決めた刑は、軽いの? 重いの?

 どうして犯人は鬼平と話して泣いているの?

 反省してるの? 罰が嫌なの?

 ねえ、結局この話はどういうオチなの?


 もちろん、答えはありません。


 子供が見ても、ちんぷんかんぷんです。


 だから本当は子供のときに、鬼平犯科帳だってテレビで観てたはずなんですよね。


 粂八(くめはち)さんのこと、ちょっと覚えてましたもん。でも内容は全然記憶には残ってない。


 たぶん話が理解できなかったんだと思います。

 おもしろくなかったから、見てなかったし、覚えてもいなかった。



 鬼平犯科帳の面白さが分かるようになるのは、人情の機微(きび)が理解できるようになってから。


 お酒は二十歳になってから、みたいなノリですかね。


 まあ、小学生の頃から親に隠れて酒飲んでた悪ガキなので、あんまり偉そうなことは言えませんが。




 こういう深みのある作品が、もっと増えてほしいなと思うのですが、きっと時代の流れなんでしょうね。

 頭を使わなくて済むような娯楽ばかりが消費されているように感じます。


 とても残念だな、と思います。

 




 さて、ずっと鬼平テレビシリーズの話を語ってきたわけですが、普段の自分はラジオリスナーで、テレビはほとんど見ません。


 そんな自分が鬼平犯科帳を観るときだけは、テレビの前のソファに陣取ります。特別な解禁日的な感じです。


 なんでこんなにハマったんだろうと考えてみると、もちろんシナリオがいいのもあるんですけど、それ以上に長谷川平蔵である中村吉右衛門さんに惚れてしまったからなんでしょうね。


 こんな人になれたらいいなと憧れます。



 部下たちをあたたかく、ときには厳しく見守る眼差しに惚れました。


 人の弱さ、おのれの弱さに苦悩する、苦しげな表情に惚れました。


 子供みたいな無邪気な笑顔に惚れました。


 決してきれいな道を歩んできたわけではないことがうかがい知れる表情に。


 清濁併(せいだくあわ)()む、懐の深さに。


 どんな罪を背負った相手であろうと、人として対等に接する真摯な姿に。


 自分の役割に誇りを持ち、いつでも部下のために腹を切る覚悟を持つ高潔さに。



 とても魅力的な長谷川平蔵を演じきった、中村吉右衛門さんという人物に心底惚れました。



 大好きです。


 中村吉右衛門さんの長谷川平蔵が。


 大好きです。


 長谷川平蔵も中村吉右衛門さんも。





 本当に大好きでした。



 中村吉右衛門さんが演じる長谷川平蔵が、本当に本当に大好きです。




 そして、これからもずっと大好きです。


 あなたに出会えて、本当に良かった。




 心の底から、そう思っています。




こんな個人的なエッセイを最後までお読みいただきありがとうございました。

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