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崩れ去る光

聖女の手から注ぎ込まれる【清潔エネルギー】。


その温もりに包まれた瞬間、主人公の腹の底で、ドス黒く禍々しい何かが「ドクン」と大きく脈動した。


(あ……熱っ……!? なんだ……これ……っ!?)


心地よかったはずの光が、一転して身を灼くような激痛へと変わる。


「ぐっ……あ……!」


体内に入り込んだ純粋な【清潔】と、魂の奥底にへばりついた【絶対の不潔】。


相反する二つのエネルギーが衝突し、逃げ場を失った力が主人公の体内で狂暴に暴れ始める。


「や……め……っ!」


――ブワッ!!!!


主人公の全身の毛穴から、濁った紫黒色の異臭気が爆風となって吹き荒れた。


「ぐ、あぁぁぁぁぁぁっ!!?」


主人公の絶叫と同時に、周囲を固めていた騎士たちが一斉に巻き込まれる。


「なっ……!?」


「これは……何だ……!」


剣を抜く暇すらない。


濃密な悪臭毒に包まれた騎士たちは次々とその場に倒れ、鎧だけが虚しく音を立てる。


「た、隊長……!」


その声も、すぐに途絶えた。


「あ……あぁ……っ……!」


あまりの事態に、聖女はその場に立ち尽くす。


それでも彼女は逃げなかった。


主人公を救うために注ぎ込んだ【清潔エネルギー】が、逆に主人公の力を暴走させている。


「どうして……?」


聖女にも理解できない。


だが、このままでは彼が危険だ。


「【浄化】……!」


聖女は必死に力を振り絞る。


「穢れを……退け……!」


さらに強い【清潔】の光が、主人公へ注ぎ込まれる。


――だが。


それが決定的な引き金となった。


聖女の放った聖なる光が、主人公の体表を覆う悪臭と触れ合った瞬間――


紫黒色の異臭気が、さらに激しく膨れ上がる。


[清潔]を取り込んだことで、主人公の[不潔]の力が、より強大な毒性を持つ力へと変化していく。


「ぐ……あ……あああああっ!!」


主人公はただ苦しみ、叫ぶ。


「やめろ……!」


何を止めたいのか、自分でも分からない。


ただ苦しい。


熱い。


体の中で何かが暴れている。


「たす……け……て……」


その声を聞いた聖女は、主人公へ手を伸ばす。


「……大丈夫です。」


しかし、その言葉が届いているのかすら分からない。


主人公はただ首を振り、苦しみ続ける。


「いや……だ……!」


聖女の体にも、紫黒色の毒気が迫っていた。


それでも彼女は、最後まで主人公から離れようとはしなかった。


「あ……っ……」


聖女の膝から力が抜ける。


それでも、震える手を主人公へ伸ばす。


「……ごめん……なさい……。」


「……っ!」


主人公には、その言葉すらまともに聞こえていない。


ただ目の前で何かが倒れようとしていることだけが分かる。


「……たす……け……」


手を伸ばす。


だが、体は言うことを聞かない。


「……あ……」


聖女の手が、主人公の足元へ触れる。


そして――


静かに、その場へ崩れ落ちた。


「…………。」


主人公の周囲から、音が消えた。


暴れていた力が、少しずつ静まっていく。


荒い呼吸だけが森に響く。


「……あ……。」


主人公は、ゆっくりと周囲を見渡した。


倒れている騎士たち。


そして――


自分の足元で動かなくなった聖女。


「…………あ。」


理解するまでに、少し時間がかかった。


「……あ……あぁ……。」


助けに来てくれた。


自分を怖がらなかった。


初めて、自分を一人の人間として見てくれた。


その人が――


動かない。


主人公の視線が、自分の手へ落ちる。


薄汚れた手。


その手からは、今も紫黒色の煙が静かに立ち上っている。


「…………俺が?」


声が震える。


「俺が……やったのか……?」


答える者はいない。


「……違う。」


主人公は首を振る。


「違う……違うんだ……。」


けれど、誰も答えてくれない。


「うあ……。」


涙が溢れる。


「うああああああああああっ!!」


悲痛な叫びが、腐臭の漂う夜の森に響き渡る。


その叫びに答える者は、もう誰もいなかった。


ただ主人公の体からだけ、紫黒色のオーラが静かに立ち上り続けていた。

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