救いの光
「ガアッ!」
目の前のゴブリンが棍棒を振り下ろす。主人公は咄嗟に身を翻し、泥の中に転がり込んだ。
体から発する悪臭のおかげでゴブリンの動きは鈍い。攻撃の軌道を見極め、足元にあった重い石を無我夢中でゴブリンの顔面へ叩きつける。
「ギャッ……!?」
鼻を潰されたゴブリンが血を流して倒れ込む。
泥まみれになり、息を荒らげる主人公。勝てる――この臭いと不意打ちを使えば、一匹ならなんとか戦える!
だが、倒れたゴブリンは最期の力を振り絞り、甲高い悲鳴のような咆哮を森に響かせた。
直後、周囲の茂みから無数の足音が聞こえ始め、赤く光る目が闇の中に広がっていく。仲間を呼ばれたのだ。一匹相手に満身創痍の主人公には、もう逃げる気力も残っていない。
(終わりだ……俺は、ここで死ぬんだ……)
諦めて目を閉じたその時、森の闇を切り裂いて眩い光が差し込んだ。
凛とした声とともに現れたのは、純白の法衣を纏った美しい聖女と、彼女を護衛する騎士たち。騎士たちは一瞬で群がりかけたゴブリンたちを討ち払っていく。
「怪我はありませんか?」
周囲の騎士たちが悪臭に顔をしかめ距離を置く中、聖女だけは嫌がる素振りも見せず、主人公へ真っ直ぐ歩み寄ってくる。
主人公は反射的に「近寄るな、俺は臭いんだ!」と叫び、体を縮こまらせた。
しかし聖女は、痛ましそうな、けれど温かい微笑みを浮かべた。
「大丈夫ですよ。辛かったですね。もう安心してください」
生前も含め、誰もが自分を蔑み、ゴミのように避けてきた。
それなのに、目の前の少女は自分を「一人の人間」として見つめ、優しく語りかけてくれている。主人公の胸に、生まれて初めての涙と、溢れんばかりの歓喜が込み上げる。
(俺を……人として見てくれた……! 俺は、助かったんだ……!)
聖女は主人公の薄汚れた手に、自身の白くしなやかな手をそっと重ねた。
「【聖癒】――傷と穢れを祓い給え」
聖女の手から放たれる莫大な【清潔エネルギー】が、主人公の体内へとなだれ込んでいく。
その心地よい温もりに、主人公は生まれて初めて「人として救われた」歓喜を噛み締めながら、そっと目を閉じた。
――だが。
生前のあの「死」が、再び彼の体内で目を覚まそうとしていた。




