第35話:タイジ
★前回のあらすじ
伝えたかったこと。
"ピッ"
"ガタンッ"
「……はぁ……。」
「……私…何してるんだろう……。」
自販機から飲み物を取り出すと、冷えた身体に缶の熱が伝う。
冬の山間部。まだお昼過ぎとはいえ上着も羽織っていない今の状況では、到底寒さに打ち勝つことなんてできやしない。
にも関わらず、身体の訴えとは裏腹に、私の心は一向にこの場に留まることを訴え続けていた。
「……琴葉ちゃん、何を言おうとしてたんだろう…。」
気づいてはいた。琴葉ちゃんはずっと私に何かを伝えようとしていることに。
だけど…。
「……嫌だな……。」
もしそれで私たちの関係が変わってしまったら?
もしそれで今の関係が終わってしまったら?
……聞きたくない。
琴葉ちゃんからそんな言葉聞きたくないの。
もう私は…。
「大好きな人と離れるなんて嫌なの……。」
「そこの学生さん。」
「……え?」
「……琴葉……ちゃん……?」
「……はい、私です。」
「……ぁ…っと……ご、ごめんね!荷物出しっぱなしにしちゃってたよね?今戻って片付けるから。」
「あ、それとも、もうみんなで集まる感じかな?」
「いえ、それについてはもう少し先になりました。」
「そ、そうなんだ……。」
「はい。」
「……私が、頼んだんです。」
「優衣ちと……ちゃんと話がしたかったから……。」
「……っ!」
「……優衣ち。」
やめて。
「私は」
やめて。
「ずっと」
やめてっ!
「……ねぇ、私寒くなってきちゃった。一回中に入って…」
琴葉ちゃんに背中を向け、さっきはあれだけ拒絶していた行き先を旅館へと向かわせ歩み出す。
「優衣ち。」
けれど。
「………。」
それを阻むようにして琴葉ちゃんの手が、私の腕を掴む。
「お願いです。」
「逃げないで。」
逃げないで……?
『嘘。嘘だよ。』
『嘘だよね!?琴葉ちゃん。だって約束したもんね?』
『琴葉ちゃんはあの人たちとは違うでしょう?』
『ねぇ?』
『ねぇってば!?』
「ねぇ、琴葉ちゃん。」
「………。」
「琴葉ちゃんは私の友達だよね?」
「ずっと一緒にいてくれるんだよね?」
「……優衣ち。」
「……ごめんなさい。」
「……それ、は…。」
「…何に対する謝罪…なの、かな……。」
「………。」
「……あなたから、向き合うことから…逃げ続けたことに対してです。」
「…も、もしかしてあの時のことを言ってるの?あれについては私が全面的に悪かったし、お互いに謝って解決したじゃない?だったら今更謝ることなんて…。」
「違うんです。」
「……何が…違うの…?」
「……私はずっとあなたのことを利用してきたんです。」
「……えっと…ごめんね…意味が、わからない、かな?」
「言葉通りの意味です。」
「私は、私の幸せのために、あなたに身勝手な期待を背負わせた。」
「私は、期待を通してあなたを見ていたんです。」
「そして。」
「あなたが芝崎さんと別れたあの日。」
「……っ!」
「今度は……罪悪感を通して、あなたを見るようになりました。」
「私は……。」
「……ただの一度も。」
「あなた自身を見ていなかった。」
「……だから……。」
「……ごめんなさい。」
「……何……それ……?」
わからない。
わかりたくない。
私はずっと…琴葉ちゃんと一緒にいたかった。
離れないでほしかった。
……琴葉ちゃんに嫌われたくなかった。
でも、でもさ。
もし琴葉ちゃんの今の言葉が本当なら。
「……琴葉ちゃんは…私の友達じゃなかったの……?」
「今までの言葉は…全部嘘だったの……?」
「………。」
「……ええ。」
「……っ。」
「……と、言えればきっと、私はもっと早くにあなたにこの言葉を伝えられたのでしょうね。」
「……ぇ……?」
「今でもたくさん考えるんです。」
「もっと後悔のない選択はなかったのか、もっと選びたい道があったんじゃないのか、本当にこれでよかったのか。」
「ありもしない、もしもの世界をずっとずっと考えてしまうんです。」
「優衣ち、私はね。」
「何度も何度も後悔しました。」
「あなたのことを嫌いになったことだってあった。」
「………っ!」
「あなたと、離れられればと思ったことだってあった。」
「…………。」
……あぁ。
結局これだ。
どれだけ頑張っても、どれだけ願っても、どれだけ縋っても、きっと意味はない。
いつか壊れて、失われてしまう。
けど……無理もないよね。
だって私、琴葉ちゃんのこと全然知らなかったんだもん。
琴葉ちゃんがそんなことを考えていたなんて今まで気づきもしなかった。
……ううん。違うね。
私も、琴葉ちゃんと同じだったんだ。
自分が独りになりたくなくて、琴葉ちゃんに一緒にいたいなんて期待を押し付けて。
琴葉ちゃんのこと、何も見ていなかった。
自分勝手でわがままな人間。
そんな人間には…当然の結果かもしれない。
『海晴。』
『俺は逃げない。』
『最後までお前と向き合い続けるよ。』
……あなたとも、いつかこんな風になっちゃうのかな……。
「琴葉ちゃん、私」
「けれど。」
「……それでもやっぱり、最後には一緒にいたいって思っちゃうんです。」
「……え。」
「……なん、で…?だって…。」
「優衣ち。」
「永遠の愛ってあると思いますか?」
「………。」
「……ないよ。そんなもの。」
「……私も、そう思います。」
「この世に、ずっと同じものなんて存在しない。」
「けれど…。」
「それって、逆のことにも言えると思いませんか?」
「……逆……?」
「嫌いなものも、怖いものも、何かがきっかけでそうじゃなくなるかもしれないってことですよ。」
「……そんなこと…」
「少なくとも、私はあります。」
「優衣ち。」
「あなたとの思い出には…悲しいことも、辛いことも、後悔も…確かにたくさんあるけれど。」
「それと同じに…いえ、それ以上に。」
「楽しかった思い出も、幸せだった思い出も、確かに存在しているんです。」
「………。」
「だから、私は。」
「……あなたと……優衣ちと出会えて良かった。」
「っ!」
「…私は、これから先また優衣ちを傷つけるかもしれない。」
「優衣ちのことを嫌いになるかもしれない。」
「……反対に優衣ちが私を傷つけたり、嫌いになることだってあるのかもしれない。」
「不幸になることだって勿論あるかもしれない。」
「それでも…私は。」
「……優衣ちと……海晴優衣と友達でいたい。」
「これが…今の私の気持ちです。」
「……わ、私…は……。」
……私は…どうしたらいいんだろう。
琴葉ちゃんと一緒にいたい。
友達でいたい。
今、それを琴葉ちゃんに言えば、それが叶う。
だったらそれでいい筈だ。
「…わ、私も……」
ーーー本当にそれでいいの……?
「……っ!」
ーーー結局それってあなた自身は何も変わらないじゃない。
「わ、私も……」
ーーーそんなの
「うぃー寒ぃっ!」
「明日雪降るみたいだしねー。」
「「っ!」」
「あ、ごめん俺ら自販機使いんだけどいい?」
「ぁ…。」
「……すみません〜。今避けますねぇ〜。」
「どもー。」
「お前何にする?」
「俺コーヒーかなー、お前は?」
「俺もコーヒー…いやカフェオレにしよっかな。」
「………。」
「……優衣ち。」
「…あ、えっと…。」
「……明日。」
「……ぇ…?」
「明日の17時。またここに来てください。」
「…その時に、あなたの答えを聞きますから。」
「こ、琴葉ちゃん……。」
「……私、待ってますから。」
「約束ですよ。」
「…ぁ……。」
……。
…………。
……………。
「……明日か…。」
それまでに、決断しないといけない。
「……私……は……。」
★次回更新について
『今日から俺は君のカノジョ』の次回更新は11月13日(金)となります。




