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孤高の彼女  作者: 赤虎
36/45

お見合い

1


翌朝、朝食を済ませた紗希と奈那は、早朝から崖下の公園で薬草摘みに精を出した。案の定、奈那は薬草の勉強と称してお泊り。8月になってお泊りが頻発しているから、かなりマズい状況だと思うけど・・・9時前に帰ってきた2人は、採ってきた薬草を薬草園に移植していた。新たに4種類追加したそうだ。これで幼稚園児が煉瓦を積んだような薬草園は薬草で満たされることになった。


「じゃ、私は帰省ます」

「気を付けて」

「御土産、期待してるよ!」

「行ってらっしゃい!」


午後1時、御昼御飯を食べた私は帰省の途に就いた。3人に見送られて・・・ってか、何故奈那がいるんだ?でも、違和感が全然ないな・・・奈那はすっかりこの家に馴染んでいる。全く血が繋がっていない4人の疑似家族みたいなものだ。この不思議な家・・・この家に住むであろう4年と5ヶ月は一生消えない思い出になるんだろうな・・・


2


「そんな話聞いてないよ!」

「私もさっきお父さんから聞いたんだから・・・服はあるの?」

「ジャージしか持ってない!」


家に着いて愕然とした。母親にも内緒で父親が例の県会議員の息子との見合いを勝手に進めていて、明日がその日だという。


「21世紀にもなって政略結婚なんて冗談にもならない。明日、会うだけ会って、気に入らなければ嫌だと即答していいから。場合によっては見合いそのものをぶち壊しても構わない。今度ばかりは私もお父さんのやり方に我慢できないからね!」


母親がこう言ってくれるのであれば心強い。明日は行くだけ行って、その場で見合いを完全にブッ壊して、二度とこんなふざけた真似ができないようにしないと・・・でも、実の家族がこの程度って何なんだろう・・・あの家の疑似家族の方が、たまにいがみ合ったり喧嘩もするけど、よほど本物じゃないか・・・あの家の方が、遥かに居心地がいい。奈那も同じなんだろうか・・・


「じゃ、明日はジャージ着ていくからね!それしかないんだから!」

「そのジャージを着ていきなさい」

「何故?」

「学祭のミスコンで着たジャージでしょ、それ?私が如何様にも説明するから大丈夫」


3


《見合いの壊し方?》

「紗希は得意でしょ?人の話の腰折ったりするのが」

《あれはバカな話を早く終わらせるために相手の揚げ足を取っているだけだよ》

「揚げ足取りか・・・」

《その県会議員って、どうせ自称保守で戦争大好きなんでしょ?だったら、北朝鮮がどうこう中国がどうこうとか話を振って、先制攻撃とか言い出したらキュウの台詞をそのままぶつけてやればいい。ついでに例の捨て台詞も一緒にね。きっと怒り出して見合いの席から立ち去るよ》

「その手でいこう!」

《頑張りな。吉報を待ってるよ!》


作戦会議終了。で、翌日・・・何でよりによって年末に4人で御昼食べた御蕎麦屋さんで見合いなんだよ!貴重な思い出が台無しじゃないか!


「此処は評判の店ですからね」

「そうですな。両家の親睦を深めるには一番です」


オヤジ2人が意気投合しやがって・・・それに何だ、あのなよなよした小僧は?あれが私の見合い相手?ふざけるのもいい加減にしろ!この見合い、速攻でブッ壊してやる!


序盤は挨拶やら型通りで始まったが、県会議員のオヤジがジャージ姿の私を気に入らないらしい。何故ジャージで見合いなんだと如何にも嫌そうな表情を隠さないでいる。当然だろう。これも結果的にいい効果だ。


「恵の今日の出で立ち、お気に召さないかもしれませんが、恵はこのジャージを着て大学のミスコンで2年連続して優勝した次第でございます。最近、ジャージが流行ってございますが、これは恵が火付け役になった訳でして、学業においても飛び級が確実視されているとか、手前味噌でございますけど、才色兼ね備えた恵に相応しいお相手がなかなか見つからないものでして・・・」


回りくどいけど、お前の息子など相手にならないと言っていますね、お母さんは。いい調子だ。この調子で・・・


「なるほど、それで我が息子をお相手にということですか。ありがたい限りです」


はぁ?何曲解してんだよ、このオヤジは!こんななよなよした小僧、私に相応しくないと言ってんだよ!母親はしまったという表情をして私を見ている。このままじゃマズい!最終カード切るぞ!


「ところで、政治家の方々は北朝鮮や中国の挑発をどのようにお考えですか?私は政治に関して素人ですけど、心配で・・・」

「大丈夫ですよ。敵が我が国を攻撃する兆候を示せば、即座に先制攻撃をして敵の軍事力を全て破壊しますから。したがって、我が国が攻撃されることはありません」


引っかかった!単純な奴だ。


「私は如何なる戦争にも反対です。戦争は人間だけでなく動物も殺します。殺されなくても多くの動物達が飢えて死に、怪我をしても病気になっても誰にも助けてもらえず死んでいくんです。獣医師を目指す者として、動物達の命を守る者として、動物達の命を奪う戦争を拒否します!戦争を肯定する思想は、私の思想と相容れません!」


オヤジは真っ青になった。小僧は忙しく目を動かし明らかに動揺している。父親の顔も青ざめていた。止めを刺してやる!


「戦争になったら真っ先に銃持って戦場に行く覚悟はあるんですか?どうせ安全な場所にいて、自衛隊員に戦争させて、高みの見物をするんでしょ?そんな卑怯なことよくできますね?自衛隊員の命も大切な命なんですよ。その命を守れない奴が政治家してんじゃねぇよ!そんなに戦争したければ、お前達が銃持って戦場行って、さっさと死ね!」


これでどうだ!オヤジの顔は真っ赤になった。怒り心頭だ。様を見よ!


「非常に不愉快だ!失礼する!おい、行くぞ!」


オヤジは小僧を連れて店から出ていった。父親は後を追いかけようとして席を立ちかけたが、母親が止めた。


「お父さん、これでいいんです」

「何だと!」

「お話は家に帰ってから聞きます。此処では皆さんに御迷惑をかけますから」


4


「どういうつもりだ!」


家に帰ったらすぐさま父親が怒り出した。


「この時代に政略結婚なんて、何考えているんですか!」

「この病院を大きくするために政治家の力が必要なんだ!」

「それは恵がこの病院を継ぐという前提ですね。それは不可能です。恵は東京で好きな人と一緒に自分達が目指す医療をしたいと言っていますから!」

「この前の男の話か!わしは絶対に認めないからな!」


まだ男と思い込んでいるんだ・・・それにしても、お母さんも凄い剣幕だな・・・


「そもそも、親の金で大学通っている分際で親に逆らうとは何事だ!」

「これまで恵に仕送りしたお金は、とっくの昔に恵が全額返してくれました。恵は自分で稼いだお金で生活し大学に通っているんです。もう経済的にも自立しているんですよ」

「何だと!それだけの金、どうやって稼いだ!」

「恵はファッションモデルをしているんです。土日だけの仕事でも十分生活できる収入があるんですよ。恵は何時までも子供じゃないんです。お父さんもいい加減、子離れをしたらどうですか?」

「くっ・・・」

「私達にできることは、恵を見守るだけです。これ以上、恵に介入しないで下さい。お願いしますから・・・」

「勝手にしろ!」


はい、勝手にさせてもらいます。父親は自室に籠ってしまった。


「ふぅ、疲れた・・・ごめんね、下らないことに付き合わせちゃって」

「もう見合いの話はないよね?」

「多分大丈夫。恵があれだけ罵声を浴びせたんだから・・・それにしても恵もしっかりした考えを持つようになったんだね。これも紗希さんの影響?」

「ちょっと違うと思う・・・きっかけは紗希の言動だけど、議論を重ねるうちに私達の共通認識になったみたい。実は、私が吐いた台詞、大部分は何時も一緒にいる後輩が言っていたんだ」

「そうだったの・・・大事にしなさいよ、紗希さんもその後輩も」

「分っている。東京で大切なものを見つけたんだから・・・」


さて、紗希に報告しないと。私達の未来を邪魔する物が1つ消えたと・・・

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