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孤高の彼女  作者: 赤虎
27/45

温泉旅行

1


今年ももう12月下旬・・・結構寒くなってきた。でも、ジャージを着た女子は一向に減らない、ってか、その数は増え続けている。しかも、最近は女子におもねる男子もジャージを着るようになり、農学部のキャンパスは異界の趣があった。


「ジャージ、楽ですもん!皆着たかったんじゃないですか?でも、ダサく思われたくないからそれなりのお洒落していたのが、八屋先輩がジャージでもカッコいいんだって示してくれたから、わだかまりが解けたんですよ」

「そんなもんかね・・・」

「何か強いインパクトがあれば、結構簡単に変わると思いますよ。菊地先輩はジャージ着ないんですか?」

「私にとってこの服が一番楽だから」

「トレーナーが楽なのは分かるけど、その意味不明な文字は何なの?鳥肌って」

「いいじゃん・・・それよか、確か今日、商店街の福引だよね?」

「福引券は全部菊地教授に預けてあるから、買い物ついでに福引するんじゃないかな?」

「お父さん、今年は籤運いいからね・・・ロトで当たるし、ジャンボ宝くじでも5万円当たったしね。ただし、毎回お酒飲んだ結果だけど・・・でも、もう籤運使い果たしているよ、きっと」

「商店街の福引、1等は何ですか?」

「確か、家族温泉旅行だったはず・・・」

「当たらないと思うけどね」

「そうそう、何回も当たるもんじゃない。」


2


「1等が当たった?」

「ホントですか?」

「そう、当たった」

「ってか、お父さん、お酒飲んでる?」

「飲んだ・・・験を担ぐためにね・・・」

「家族温泉旅行か・・・家族って何人ですか?」

「4人までだって」

「じゃ、教授と紗希で決まりですね・・・場所は何処だろ?・・・赤城温泉!」

「赤城温泉って、赤城山の?」

「そうそう、実家からそんなに遠くない・・・これ、交通費も出るのかな・・・桜町から大胡までの電車賃も人数分出るんだって!大胡から宿までのタクシー代も!」

「じゃ、いっそのこと八屋君も一緒にどう?」

「ちょっと待った!家族ってことは、同じ部屋ってことでしょ?私はともかく、ハチも一緒の部屋って幾ら何でもマズいでしょ!」

「そうか・・・じゃ、桜木君も誘ったら?女性の人数が多ければ大丈夫だよ」

「お父さん、お酒飲んで脳ミソブッ壊れたの?発想が真逆になってるじゃん!」

「あの・・・私は同じ部屋でも構いませんけど・・・」

「ハチが構わなくても、世間がどう見るかなんだよ」

「じゃ、部屋がもう1つ取れるかどうか確認しよう。部屋が空いていれば、素泊まりの料金で泊まれるはずだから、それでもかなりお得だ」

「まぁ、それなら・・・」


菊地教授はすぐさま宿に電話した。12月29日~31日の2泊3日で、しかも素泊まりの1部屋まで確保できた。当然、料理は3人分只ということで・・・素泊まりだと1部屋1泊8,000円なので、16,000円で3人が2泊3日の温泉旅行ができるということだ。これは非常にお得だ。となると、当然欲が出る。


「何これ・・・こっちの要求が全て通るなんて・・・暇なの?」

「まぁ、いいじゃないか。願ったり叶ったりだ」

「いっそのこと、キュウも誘う?値段変わらないんだし」

「いいんじゃない」

「私、電話しますね」


奈那は絶対に行くと即答した。紗希と一緒に只で2泊3日の温泉旅行ができるんだから当然だろう。となると・・・


「桜木学部長に説明しないと・・・あっ、それより先に宿に電話して3人が4人になることを伝えないと・・・」


菊地教授は宿に人数変更を伝えた後、桜木学部長に電話をした。奈那は未だ学部長に話していないらしく、学部長は突然の温泉旅行の話に当初困惑していたようだが、教授が只だということ、私と奈那の部屋を別途確保できていることを聞いて快諾してくれた。


「何かバタバタと・・・」

「でもさ、29日って3日後だよ」

「何とかなるさ・・・電車の時間は・・・何だ、意外と近いんだな。12時前に桜町駅を出れば15時に宿に着く。新幹線の車中で少し遅めの昼飯になるな・・・そうなると、11時45分に桜町駅集合だね」

「私達は11時半過ぎに家を出れば余裕で間に合うってことだ」

「切符は僕が明日買っておくよ」


こうして年末の”家族温泉旅行”が決行されことになった。


3


「あれ、奈那がもう来てる」


私達は集合時間より5分以上早く着いたので、奈那は未だ来ていないと思っていたのに。


「おはようございます!3日間宜しくお願いします!」


奈那は目の下にクマができている。遠足前日に興奮して眠れなかった子供みたいだ。


「これが各人の切符・・・それじゃ出発しようか」


実のところ、菊地教授が一番張り切っているのかもしれない。昨晩、家族旅行は6年ぶりとか言っていたし。6年前の宿も冬場の温泉旅館だったそうだ。元気だった頃の菊地紗希と一緒に・・・


中央線で東京駅まで行き、此処から新幹線で高崎駅まで50分。私達は新幹線の車内で持参した御弁当を食べ始めた。


「これ、家族旅行ですよね?父1人と娘3人という設定ですか?」

「実際に私達は3人共1歳違いなんだから年齢的な問題はない」

「じゃ、家族なのに2つ部屋を借りたのは?」

「今日はやたら突っ込むね・・・お父さんの鼾が耐えられない程酷いということにしておこう。だから、食事は一緒にするけど娘3人は別室で寝るということで」

「なるほど・・・姉妹なんだから、菊地先輩は八屋先輩や私のことをハチとかキュウとか言えなくなりますね」

「それは関係ない。呼び名なんだから。あんたこそ、菊地先輩とか八屋先輩とか言えなくなるんだよ。私のことお姉ちゃんとか言えるの?」

「言っていいんですか?」

「えっ?」

「紗希お姉ちゃん!」

「えっ?」

「末娘なんだから、長姉に甘えてもいいんですよね!」

「それ止めて!」


私と菊地教授は笑いを堪えていた。紗希が奈那にしてやられている。何時もとは逆の、こんな光景は初めてだ。


「八屋君・・・その・・・僕は君のお父さんになるのかな?」

「設定上そうなりますね」

「そうか・・・じゃ・・・」

「そこ!何してんの!」


紗希が奈那のお姉ちゃん攻撃から逃れるために話を振ってきた。これは単なる家族旅行より楽しくなりそうだ。


「ハチはお父さんのこと教授って言っていいんだよ。娘が父親に対して教授という愛称を使っても何ら問題ない。それともお父さん、ハチにお父さんって言われたいの?」

「そうじゃなくて、桜木君が細かい設定上の話をするから、その流れで僕の場合はどうなるのかなと思って八屋君に・・・」

「図星だ」

「違うって言ってるだろ!」

「こうしてみると、桜木君とか八屋君が一番違和感ありますよね?奈那と恵でいいんじゃないですか、教授」

「設定上は確かにそうだけど、旅館で実際にするのか?」

「私はしますよ!ねぇ、紗希お姉ちゃん!教授もお父さんで!」

「私もお姉ちゃん程度なら・・・」

「さぁ、恵、奈那って言ってみ」

「・・・め、め、恵・・・」

「ギャハハハハ!顔赤くしてる!」

「大人をからかうな!」

「でも考えてみれば、父親が工学部機械システム工学科の教授、娘3人が全員農学部獣医学科の学生ってすごい設定ですよね」

「そこまで話す必要ないだろ。聞かれたらそのように答えればいいけど、福引で1等が当たった親子だけでいい」

「そうだね。下手に話したら逆に怪しまれたりして」

「確かに・・・でもバレたとこで旅館に実害ないんだからいいんじゃないの?」


50分はあっという間に過ぎた。高崎駅から大胡駅までは途中前橋駅で乗換えがあるものの1時間ちょっとで着く。後はタクシーで宿まで30分だ。


「着いた!意外と広い部屋じゃん!おっ、露天風呂がある!」


紗希もはしゃいでいる。そうか、菊地教授にとって6年ぶりの家族旅行ということは、紗希は教授と旅行したことがまだ無いんだ・・・


「でも、この露天風呂小さくない?」

「そうだね・・・大浴場行こうか?お父さんはどうする?」

「僕も大浴場に行くよ。ちょっと窮屈そうだしね」


結果4人揃って大浴場に向かった。部屋は3階だけど大浴場は5階。高い位置にある分展望が凄くいい。しかもまだ早い時間なので私達3人しかいない。事実上の貸切状態だ。


紗希とお風呂に入るのは初めてだ。服の上からある程度想像していたものの、紗希がこれ程美しいとは思わなかった。均整がとれた女性らしい美しさの中に獰猛な野獣が見え隠れする、触れたら只では済まないような、正直この世のものとは思えない・・・奈那も無言で紗希に見とれていた。


「寝る前にまた入ろう。夜景が綺麗かもしれない」

「そうだね・・・あれ?」

「何?」

「紗希のお腹、傷跡が全然残っていない・・・」

「ああ、もう1年近く経つからね。綺麗に治ったでしょ?」

「何のことですか?」

「ちょっとね・・・」

「おっ、サウナもあるんだ!入ろ!」

「私も!」


紗希と奈那がサウナに入った。紗希は私から逃げるかのように・・・私は1人で湯船に浸かり、南の空を眺めながら考えていた。おかしい・・・紗希の上着には大量の血が付着していた。あれだけ出血したのだから、腹部に相当なダメージを受けたはず。それにも関わらず傷跡が全く残っていないなんてあり得るのか?・・・あの時、紗希は病院に搬送されていない。搬送されていれば、いや、搬送されていなくても自分で病院に行ってさえいれば、警察は紗希の所在を必ず突き止めたはずだ。だから、紗希は病院で治療を受けていないことになる。自然治癒だけでここまで綺麗に治るはずがない・・・分からない・・・20歳を過ぎてから歯が生え変わるとか、紗希には理解不能なとこがあり過ぎる。あの2ヶ月の空白も、私が聞いても何時も話をはぐらかすだけで何一つ教えてくれない。・・・もっとも、歯の件は歯医者で生え変わりだと診断されたし、事故の直後に紗希のお腹を診た人は私を含め誰もいない。つまり、傷跡がどうこう言ったところで、それは私の憶測に過ぎないのだ・・・極めて確立の低い現象が偶然紗希に集中しているだけなのか?・・・もういい、考えるの止めよう・・・考えたところで答えは出ないだろうし、仮に出たところで紗希の存在が変わる訳でもない。紗希は紗希でしかないのだから・・・


4


私達が部屋に戻ると、菊地教授がノートパソコンを操作していた。


「今晩から雪だって」


天気予報を見ていたのか・・・


「明日どうする?」

「雪じゃね・・・」

「この近所、何もないし・・・」

「よし、決まった!自習だ!」

「紗希!それは幾ら何でも・・・」

「何で?無駄な時間過ごしたくないでしょ?」

「時間が沢山あるんだから、語り合いましょうよ」

「何を?」

「恋バナ!」

「却下!」

「今決めることないだろ?飯まで時間あるから、卓球でもしない?」

「卓球台、何処にあるんですか?」

「ロビーの奥にあったよ」


ということで、晩御飯まで卓球をすることになったのだが・・・


「さ・・・お姉ちゃん、強すぎる!少し手加減してよ!」

「全然本気出していないけど?」

「奈那は球に触れることすらできないじゃない。教授は拗ねて部屋に戻っちゃうし」

「あんた達が弱すぎるんだよ!」

「君、上手だね。僕と勝負しない?」


何か自信ありげな野郎が現れた。何か企んでいるな・・・


「僕が勝ったら1杯付き合って」


ほら、やっぱり・・・


「大丈夫ですか?あいつ、絶対に経験者ですよ」

「大丈夫だよ、紗希の身体能力なら」


こいつ、経験者と言ってもせいぜい大学か高校の部活だろ。その程度の奴に紗希が負けるはずがない。


「いいよ。私が勝ったら・・・」

「勝ったら?」

「二度と私達の前に現れるな!」


野郎はカチンときたらしい。本気モードでゲームを始めたが・・・


「フン、手応えない」

「・・・」

「約束だ。消えな」


野郎は退散した。その後を2人の男が付いて行く。そういうことか・・・


「カッコいいですね・・・綺麗で勉強できてスポーツもできて・・・」

「ホント、神様はどうしてあんな化け物を生んだのか・・・」

「何か言った?」

「離れた場所で、小声で言ったのにどうして聞こえたんでしょうね?」

「彼女の聴覚は異常に発達しているから・・・」

「もうじき御飯だから部屋に戻ろうか?」


道具を片付け終えた紗希が率先して部屋に戻る。その後を私と奈那が付いて行く。


「それにしても、あの動体視力と反射神経、動作の素早さ、人間じゃないですよ」

「そう思うでしょ?でも人間なんだよね・・・」

「あのさ、さっきから全部聞こえているんですけど」


私と奈那が辛うじて聞きとれる声を、5m以上離れている紗希が聞いている・・・部屋に戻ってから暫くすると、料理が運ばれてきた。


「山の幸と海の幸と、どちらにするって言うから、両方にしたんだ」


なるほど、ぼたん鍋を中心とする山の幸が2人分、お刺身を中心にした海の幸が2人分ある。お酒が見当たらないけど・・・


「酒?君達は飲まないだろ?僕だけ飲んじゃ悪いからね。それに紗希によく言われるんだよ。短期的には正常な判断力を失い、常習化すれば脳を委縮させる害にしかならない物をどうしてお金払って飲むんだ、ってね」

「確かに・・・」

「でも、気持ちが高揚して楽しいじゃないですか?」

「キュウ、あんたまだ18でしょ!何時から飲んでるの!」

「いや・・・その・・・」

「よし・・・明日は朝から議論しよう。山崎先生をネタにして」

「ああ、それいいかも!」

「山崎先生って誰?」

「桜木動物総合病院の獣医師です。オペは下手、これは院長との比較ですけど、私達の指針になる要素を備えている先生でして・・・」

「なるほど、それはおもしろそうだね」

「じゃ、朝風呂したら始めますか・・・それと、お父さん、お酒飲みたければ私達に遠慮しなくていいんだよ」

「そうですよ、飲んでください」

「そうか?」

「折角温泉に来たんだし、今更禁酒しても手遅れだろうしね。30年以上も飲み続けていれば、既に脳ミソブッ壊れているだろうから・・・」

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