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ミザル・ブルクの看板娘  作者: 枢 呂紅
[番外編] ふたりで紡ぐ、道の先には
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遠距離恋愛のススメ

本編終了後の番外編です。


 ここ、ミザルの町は、レグルス山の麓にある小さな宿場町だ。この町には、レグルス山を目指す冒険者の受け皿として、大小さまざまな宿屋が軒並みを揃えており、春から秋にかけて毎年大勢の冒険者が訪れている。


 私の家、ミザル・ブルクもそうした宿屋のうちの一つだ。私はミア・ノーム。ミザル・ブルクの看板娘を自負している。


 季節は秋の暮れ。秋のレグルス山は紅葉に色づき、ミザルの町もそれまでの季節とは大分訪れる層に違いがでる。


春から夏にかけてはミザルの山神祭の時期を除いては、レグルス山でとれる魔導石を目的とした冒険者以外、ほとんど町を訪れることはない。だが、秋になると豊かな自然の美を見に、多くの観光客が各地から押し寄せる。


 冒険者の受け入れ、観光客の出迎え、また冒険者と慌ただしく日々が過ぎ去り、宿屋の人間の体力も限界に近づき視界がぐるぐる回り始めたころ、赤や黄色の葉が風に舞い散る。そうして雪がちらつくと、ついに冬の到来だ。


 レグルス山の冬は深い雪におおわれ、山道は基本的に立ち入り禁止だ。だから魔導石狩はオフシーズンになり、彼らを受け入れる私たち宿屋もお休みになる。


 怒涛の季節が終わり、正直ほっとしつつも、その年最後の冒険者を見送る時はいつも寂しい。これで、もう雪解けまで彼らはミザルを訪れることはない。そんな定番の別れの季節が、今年は特に胸に痛い。


「まとまった時間作って、会いに来るから。だから、待っていてくれ」


 そう言って、リゲルが私の髪を撫でたのは、つい先週のことだ。エーアガイツ団もこれが本年最後の冒険であり、最年少メンバーの彼がこうして町にくるのも基本的にこれでお終い。問題があるとすれば、彼が私の恋人であることぐらいだろう。


 リゲルたち冒険者は、大抵が王都に居住を置いている。あちらには、武器屋や防具屋が豊富にあり、さらに冒険者が手に入れた魔導石を扱うギルドも揃っているという、利便性が主な理由だ。


 だから、攻略ギルドのオンシーズンであった今までだって、彼らが王都に戻るのは同じだった。今回だけが、特別ってわけじゃない。わかってはいても、『春になるまで』というのは、やっぱり長くて辛い。


「うん。大人しく待っている」寂しい気持ちを押し込めて、私は笑ってみせた。「冬の間は、お世話になっている武器商の手伝いとかもあるんでしょ? 無理はしないでね」


 そう言うと、なんだかリゲルはなぜか、ちょっぴりふてくされたような顔をした。


「なんだか、想像していたより余裕そうだな」

「どういうこと? 」

「どう慰めようかとか、俺なりに色々考えてから来たんだけど」


 拍子抜けしたと話すリゲルに、私は思わず笑ってしまった。私の恋人さんは、本当にこういうところが素直じゃない。


 私は、すぐとなりにあるリゲルの肩に、そっと頭を乗せた。窓辺に並んで腰掛けたリゲルが、驚いたのか一瞬びくりと肩を揺らす。


「もちろん、寂しいわよ。リゲルがそう、心配しなくても」


 ちょっぴり、いたずらな気持ちが湧き上がってそう指摘すると、リゲルから伝わってくるオーラがさらに渋さを増した。悔しがっている、悔しがっている。


「だけど、気持ちが通じあっているのに、不安に思うことなんかないじゃない」

「……なんだか、ミアのほうが男前だなぁ」


 呆れた口調で、リゲルが溜息をついた。そして、ぽんと頭に手を置かれる。


「そういう所、ますます惚れるけど」とリゲルが呟いたのは、全力で聞き流した。無自覚だ天然だとリゲルは人のこと散々にいうけど、彼の方がよほどそうだ。変なところで意地を張るくせに、気持ちを伝える時はまっすぐで。


 とりあえず、この会えない季節が終わるまでには、彼の駄々漏れで甘々な想いに溺れない程度に、私も耐性をつけたいものだと私は決意するのだった。


 ☆ ☆ ☆


 私がそう決意してから、まもなくのうちに。

 意外と早く、再会の時はやってきた。


「王宮に招かれた?! 」


 マルコさんやエリゼさん、ついでに私が、揃って頓狂な声を上げる。見るからに普通の手紙ではないとわかる赤い書状を片手でひらひらと扱いながら、母さんは肩を竦めた。


「さっき、王宮からの使いって人がきてね。なんでも、ボルガンとの一悶着の時に、協力したでしょ。あれを表彰したいから、年の暮れの建国祭に来てくれってさ」


 母さんは、ひどく厄介なものを抱え込んでしまったでも言うように、胡散臭そうに書状を見つめる。きっと、母さんの頭にあるのは年末の大掃除が滞るとかそんなことだろうが、これは一大事だ。


 アルデバランの建国祭。それはミザルの山神祭と並ぶ三大祭のひとつで、一年の終わりに王都で催される盛大なお祭りのことだ。


私も過去に何度か家族で行ったことがあるけれど、祭典に向けて町のあちこちが飾り付けられ、各地から行商や大道芸人が集まり、イベントやらパーティやらそれはもう凄いことになっている。


祭りの最終日、つまり一年の最後の日に王宮では祭典が催され、この一年への感謝と次の年への祈りが王族により捧げられる。その中で、その年の功労者が呼ばれ、表彰を受けるのだ。


「祭典の一週間前から、王宮に招きたいっていうんだけどね。いつもみたいに、ぱっと行って、ぱっと帰るみたいには行かないのが面倒でさ」

「いやいや、女将さん! 問題はそこじゃないでしょう! 」

「王宮ですよ?! 王様がいるとこですよ! 」


 マルコさんとエリゼさんの突っ込みに、母さんは首を傾げた。


「王様って、ユリウス殿下でしょ。だって彼、私がまだ子供の頃にはよくお忍びで冒険にきて、たまにミザル・ブルクにも泊まっていたもの。あら、いってなかったかい? 」


 完全に初耳だわ! 驚愕の事実に、もう頭痛がとまらない。姿絵でしかまともに顔をみたことがない、威厳に満ちたユリウス王を思い浮かべる。まさか、昔はそんな時もあったなんて、さすがゼノ様のお父様だ。


「それで、二人はどうするかい? 」と、母さんが二人を交互に見つめた。「あの時、みんなにも迷惑かけたし、二人は特にいつも世話になっているから、出来れば一緒にどうかと思ってさ」


「そんな、やめてくださいよ、女将さん」

「そうですよ。ミザル・ブルクは、ノエルさんとお嬢様がいてこそなんですから。王宮にはぜひ、お二人で行ってきてください」


 笑って首を振ったマルコさんに、エリゼさんも続いた。でもねぇ、と母さんは渋ったが、結局、王宮には私と母さんが行くことになった。


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