表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破鏡の世に……  作者: 刹那玻璃
玄徳さんと関平の歪みが街を、人々を地獄の淵へと追いやろうとしていきます。
99/428

あれでいて姉たちは、とても弟を可愛がっていたようです。※

 姉たちはどうしてもと言いながら益徳えきとくと話をすると残り、孔明こうめいは家に残ってくれている義兄たちに挨拶に出向く。


 弟の姿が家の中に消えると、一瞬にして表情を変え、益徳を睨み付ける。


「……琉璃りゅうりを追い詰め、りょう出仕しゅっしに追い込んだ貴方方を、私たちは一生恨むわ」


 淡々と紅瑩こうえいは告げる。


「亮は頭は回るわ。でも、少し……ううん、かなり懐が広すぎるのよ。琉璃の事を引き取ったのは許せるわ、琉璃は本当に幼くて怯えていて亮にしか懐かなかった。亮しか抱き締めてあげられなかった。全てに怯えて、亮が『大丈夫だよ』『安心して』『大好きだよ』と囁いて……それでも夜は一人で眠れず、夜泣きしてこの家や庭、光華こうかのいたうまやに行って泣いている……。全てを恐れてただ、何もかも失った琉璃に名前を与え、家を与え、全てを与えたのは亮なの!! 」

「それなのに、ようやく幸せを手に入れた琉璃を、ささやかだけれど畑を耕し、炊事洗濯、掃除、裁縫、刺繍に舞踊、歌に可愛い衣装に装飾、コロコロと笑うようになったわ。亮の後ろでびくびく怯えるだけだったのに、私たちにすら笑って、『今日はこういうことを習ったんです』『士元しげんお兄さまのお話が難しくて、首を傾げていたら、旦那様と元直げんちょくお兄様に教えて貰いました』『今日は、一緒に散歩に行きました。お花が綺麗だったです』……キラキラ目を輝かせて嬉しそうに報告する琉璃に、私たちは喜んだわ。手の武器を持った時に出来るたこが無くなって、別のたこが出来るのが嬉しかったわ。なのに、琉璃の、亮のささやかな、本当に小さな幸せを奪った!! 」


 晶瑩は一歩前に出る。


「過去を忘れ、諸葛家しょかつけの嫁として生きてきた琉璃と、ささやかな幸せをようやく手にした亮を、地獄の底に追い落とし、琉璃には私たちを人質に、亮には琉璃や元直どのを人質に……腐ってるわ!! 」

「……亮の懐の広さも悔しいけれど、琉璃の事を利用したことと、元直どのまで巻き込んだのは赦せない!! そして、家の義弟……季常きじょう幼常ようじょう……敬兄けいけいと口先では言いながら、元直どのや亮と琉璃ときんに士元どのを売ったあの二人は、諸葛家を侮り、馬鹿にし、そのような方法でしか取り入ることしか出来なかった。二人の馬鹿さ加減に呆れを通り越して憐れみたくなるわ」

「本当。毒しか盛れない馬鹿と、兄に追随ついずいするしか出来ない、依存するだけの弟!! 」


 はっ‼


と、女性だが、男らしい強い口調に、益徳は感心する。


 愚かな女性を何度も見ていた益徳だが、この二人は女性だが、愚かどころか彩霞さいか……いや、瑠璃るりと呼ばれている義姉である女性や、嫁とほぼ同等の知恵者である。

 流石さすが、孔明の姉と言えよう。


 益徳は、言い訳はしなかった。

 ただ聞き入る。


「そんな馬鹿しか雇えない、部隊なんてたかが知れてるわ!! 」

「そうね!! あの瑠璃姉上様をめかけおとしめるようなのが筆頭武将? 片腹痛いわ!! 家の亮を扱える訳ないじゃない!! そんな下の下の皇叔こうしゅく? 萎縮いしゅくじゃないの? 」

「それよりも狂人よね」

「大人しく出来る訳ないじゃない。亮は普通の大人しい竜じゃないんだから!! 絶対、扱える訳ない。まだ、きん兄上の方が扱いやすい位よ。馬鹿よねぇ……」


 けらけらと楽しげに笑う。


「えと……お伺いしても、良いですかね? 」


 益徳は、ようよう口を挟む。


「あの……普通の竜じゃないと言うと……」


「あら、知らないのかしら? 亮は懐の大きい、温厚さを表に出しているけれど、本性は心が狭いし大切だと決めた物を奪われたら、暴れ狂う竜……世界を壊す竜よ。だから、兄は足手まといである私たちや弟を足枷あしかせにしたの。戦の虚しさ、苦悩、苦難に屈して狂っていかないよう……。でも、私たちはここに逃げ込んだ先ですでに行き遅れと揶揄やゆされ、徐州から逃げ込んだ戦災孤児。諸葛家は名家ではないけれどそれでも、亮は一軒一軒回り、私たちに嫁ぎ先を探した」

「そして、均も嫁を娶ることが決まりつつあった。足枷がなくなりつつあったのよ」


 瓜二つの姉妹は、益徳を見る。


「足枷になってくれたの、琉璃が。あの子が竜にとって、亮にとって『龍珠りゅうじゅ』、『如意宝珠にょいほうじゅ』……。その竜が大事にしてた『龍珠』を奪ったのは貴方方」

「亮を怒らせた!! 眠りを欲したのは世界を破壊し尽くさないように、そう願ってきた亮から『龍珠』を奪い、逆鱗げきりんに触れたわね……亮は、琉璃を探していた時に宣言したそうよ。琉璃を奪った者にはそれ相応の報いを受けさせると……」

「……!! 」


「……覚えておかれることね……。亮は、必ずやり遂げるわ」

「貴方は、亮が仲良く出来る良い方のようだから、忠告しておくわ。逃げることをお勧めするわね」


 真剣な眼差しに、益徳はその言葉が冗談でなく真実であることを知る。


「張益徳さま。弟たちをよろしくお願いします」

「亮が壊れることのないように……琉璃たちをお願いしますね」


 二人は頭を下げる。


「わ、解った。私が、必ず引き受ける!! 出来うる限り……努力する」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ