↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破鏡の世に……  作者: 刹那玻璃
玄徳さんと関平の歪みが街を、人々を地獄の淵へと追いやろうとしていきます。
PR
98/428

孔明さんは、二人の姉と大事な大切な約束をしました。※

 孔明(こうめい)は義父母のいない屋敷ではなく、臥竜崗(がりゅうこう)に登り、住み慣れた自宅に向かう。

 二人は馬を降り黙々と歩いているが、突然!?


 孔明の反応は、又か、と言いたげなものだが、益徳(えきとく)は、正確に投げられる石の礫(つぶて)に、細い小刀などを避けていると、一人の女性が駆け寄り布を巻いた拳を突いてくる。

その相手をしているのが孔明であり、躱(かわ)す姿も様になっている。


のだが……不意に、益徳がわずかに身を躱すと、寸前までいた位置に矛(ぼう)の穂があった。

 絶句していると、矛が正確な位置……益徳の急所を狙っている。

 その矛を手にした男装の女性が、不敵な笑みを浮かべる。


「隙あり!! 」


と背後から声が響く!


 拳が、迫っている。

 益徳は、大柄な体にしてはひらりひらりと逃れ、避け、躱す……。


「攻撃を返すことも出来ないの!? その名前が泣くわよ!! 」


 懐に入り肘鉄を正確に鳩尾(みぞおち)に食らわせた女性は、瓜二つの女性と満足げに益徳の顔を見る。


「まだまだね!! 」

「天下の益徳将軍はその程度でしたの!? 笑えますわね!! 」

「おほほほ……では、本気で……」


 一緒に攻撃を仕掛けようとした二人を、孔明が取っ捕まえる。


「姉上!? 何をしてるんです!! 客人に対して失礼ですよ!! 」


 姉に文句を放つ孔明に、瓜二つの女性は、


「亮(りょう)が、私や晶瑩(しょうえい)にまでお別れを言いに来るからじゃない!! 」

「そうよ!! 義父上や、水鏡老師(すいきょうろうし)にお別れを言いに来たのは分かっているのよ!! 」


 二人は食って掛かる。


「許されると思ってるの!! 」

「そうよ!! 琉璃(りゅうり)は私たちの妹なのよ! 独り占めなんて許さないわ!! 」

「出ていくなら琉璃と喬(きょう)は置いていきなさい!! 」


 孔明の姉であり、どんな兄弟かと思いきや……想像以上にぶっ飛んだ女性たちらしい。


「何を言っているんです!? 独り占めって、琉璃は私の嫁ですよ!! 」

「何言ってるのよ!! 琉璃は私たちの妹なんだから! 諸葛家(しょかつけ)の共有財産なんだから!! 」

「じゃないわよ。姉様。私と姉様のお人形さんでしょ!? 琉璃と喬は私たちが遊ぶんだから!! 」

「暑苦しい亮だけ行ってきなさい!! 良いわね!! 」


 その一言に、孔明はムッとする。


「何が琉璃と喬は置いていきなさい、ですか!! 家には可愛い娘の滄珠(そうしゅ)もいるんですよ!! 」

「じゃぁ、その子もおいて単身赴任してらっしゃい」

「大丈夫。軟弱に育てないわよ。最低でも姉様に育てて見せるわよ!! 」


 言い切る二人に、


「いりません!! 私は、娘を可愛い琉璃のように育てます!! 姉上たちのように凶暴でお転婆……というよりも暴走系の子供に育てません!! それに幸せな家庭を取り戻します!! 」

「やれるの!? 一度は琉璃を劉皇叔(りゅうこうしゅく)に奪われた癖に!! 」

「そうよ!! 琉璃は一月も苦しんで苦しみ抜いて……泣かせた癖に!! 」

「……!? そ、それは……」


 唇を噛む孔明に、紅瑩(こうえい)は目をつり上げると弟の襟首をつかむ。


「逃げるんじゃないわよ!! 私たちは家族で、兄弟よ!! 私たちの事を、何時までもあの変態叔父のいた頃や、徐州(じょしゅう)から逃げ出した頃の私じゃないわよ!! 」

「そうよ!! 何が姉たちをお願いしますって、襄陽(じょうよう)中、行脚(あんぎゃ)してるのよ!! 姉を子供扱いして欲しくないわね!! 」


 スッパーン。


 晶瑩は背中を殴る。


「大変なのは亮でしょ!? それなのに襄陽中に姉たちをお願いしますって、何暢気(のんき)な事をしてる訳!? するなら、この土地を売って金を作りたいんだとか、黄承彦(こうしょうげん)様に危険が迫っているんだって相談に来なさいよ。どうするつもりなのよ! えっ!! 言って御覧なさい!! 」

「ほらほら、何か言いなさいよ!! ……自分のことは二の次三の次で……人のことばかり言ってるのよ……大変だとか、辛いとか言いなさいよ!! 」


 スパンスパンと叩かれ、襟首を捕まれ揺すぶられる孔明に、益徳は遠巻きに見つめる。


 新谷(しんや)では、軍議の際は無表情を、家族の前では微笑みと慈しみのみ……。

 余裕のある表情が多かった。

 しかし……。

 少しずつ表情が歪んでいき……。


「……巻き込みたくないんです!! 姉上たちを!! 折角折角……幸せを掴んだ。姉上たちを私のエゴで不幸になって欲しくない!! 大事なんです!! 姉上たちが大事なんです!! 均(きん)は、共に着いていくと頷いてくれました……それすら申し訳ないのに。姉上たちを巻き込んで、苦しませたくない!! 姉上たちの涙は、見たくないんです!! 笑ってて……笑ってて欲しいんです。……永遠の別れになるかも知れない。……笑顔でお別れを言いたかった。幸せに……と言いたかった。それだけなんです!! 」

「それがどうしたの!? 」


 紅瑩は言い切る。


「私たちは兄弟よ。でも、私たちは嫁にいった。でもね!? 私たちは諸葛(しょかつ)紅瑩で、晶瑩な訳!! 嫁いでいっても、心や気持ちは諸葛家にあるし、諸葛家の誇りに、亮や……まぁ、余り言いたくないけど、瑾(きん)兄上と均の思っていることも、亮は捨て去れと言う訳!? 」

「馬鹿にしないで!! 姉たちを!! それに、瑾兄上にだって二度と会えないって、母上たちだってもう連絡の便りも送れないって思っていたわ!! でも、会えたし、便りのやり取りもしているわ!! 死ななければ、いつかは会えるし、便りのやり取りだって出来る!! 何で捨てようとするのよ!! 勝手に姉を捨てるな!! バカ弟!! 」


 ボカボカと背中を叩く晶瑩に、


「……済みません。私は……姉上たちを甘く見てました。やっぱり諸葛家の女です。強くてしなやかで、潔い……」

「当たり前でしょ!? 私たちは諸葛紅瑩で、晶瑩なんだから!! 」

「そうよ!! 」


 二人は前から、そして後ろから抱き締める。


「何年間兄弟やってると思うのよ……馬鹿ね」

「そうよ。姉を馬鹿にしないでよね!! ……まぁ、余り炊事裁縫、料理、洗濯、掃除は得意ではないけれどね」

「駄目じゃないですか……姉上たち、破壊活動して……」


 涙声で、クスクス笑う。


「何時も私が、怒りながら……」


 二人の姉を抱き締める。


「姉上たち……大好きですよ。幾ら野生の豚を狩りに行って、家の中まで追い込んだりしても。食べるものがないからとそこらの雑草をむしりとって、それが毒草で、私と均は寝込んでも二人はピンピンしてても……突然背後から攻撃されても、折角繕った衣装が半日もせずにズタボロにされても……必死に説明して、言い訳はしなかった姉上たちを……」

「私もそうよ」

「こっちは悪気はないのに、始終怒ってばかりの亮だけど、私たちの事を嫌いで言ってる訳じゃなかったもの。ね? 」


 紅瑩と晶瑩は顔を見合わせると、片手をそれぞれ、長身の弟の頬に伸ばす。


「ねぇ……亮……。もう二度と、私たちに会わないの? 会ってくれないの? 」

「亮……答えて。嫌いだから会いたくないって……それなら……苦しいけれどさよならを言うわ。亮……私たちにもう会いたくない……? 」

「……会いたいです。会いたいです……会いたい、会いたい! 会いたい!! ずっと近くにいたい!!でも、次に会う時には……敵同士かもしれません。そうすれば、苦しい思いをすることになります。それなら、縁を切って……と思ったんです……」


 囁く。


「馬鹿ねぇ? 敵味方!? それがどうしたのよ。それは、上の勝手で、私たちには関係無いじゃない」

「そうよ。ね? 忘れないで、兄上たちと別れた時の言葉……」

「……っ! 」


 孔明は見下ろし泣き笑う。


「……そうですね。あれは、私たちの中で一番の言葉です」

「でしょう?」

「均はいないけれど、約束しましょう。亮」


 孔明は両手に二人の姉の手を握る、同様に紅瑩と晶瑩も手を握り、声を揃える。


「「「再見(ツァイチェン)……マタアイマショウ」」」


 3人は両手を上にして、もう一度繰り返す。


「「「マタアイマショウ」」」


 その願いであり、誓いを益徳は、懐かしげに、羨ましげに見つめていたのだった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。