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破鏡の世に……  作者: 刹那玻璃
惰眠をむさぼっていた竜さんがお目覚めのお時間のようです。
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諸葛家は何でもアリで、何が起きても気にしない家のようです。※

 均(きん)に誘導され、途中やって来た侍女に理由を説明し、義母と義理の姉と、結婚した筈の妹のいる部屋の前に立つ。


「大奥様、奥方様、お嬢様。お客様がお越しにございます」

「お通しして頂戴」


 朗らかで温かく優しい声に、孔明(こうめい)は琉璃(りゅうり)を見下ろし微笑む。


「行こうか? 琉璃」


 喬(きょう)を片手で抱き、もう片方の手で琉璃の手を引き、部屋に入っていく。

 中には当然3人の女性が待っていた。


「亮(りょう)さん。そして均さんも、大きくなって……見違えたわ」


 立ち上がり近づいてきた義母の前で、膝をつき挨拶をする。


「お久し振りでございます。母上。長い間の無沙汰、本当に申し訳ございません」

「何をいっているの……‼ 本当に、一人で紅瑩(こうえい)さんや晶瑩(しょうえい)さん、そして均さんを連れて荊州(けいしゅう)まで……本当に、どうなることかと心配していたの」


 瞳を潤ませ、義理の息子を抱き締める。


「それに、均さんも大きくなったわね。昔は旦那様に似ていると思っていたけれど……朱里(しゅり)に似てきたのかしら? まぁ、一番似ているのは亮さんだけど」


 孔明を抱き締めながら微笑む義母に、均は苦笑する。


「亡くなった母に? え~? それよりも、お母さんに似たいな。母に似たらこれだよ? この白髪に眉間のシワ。絶対嫌だなぁ……」


 これ、と兄を示し、渋い顔になる均に、


「私のどこが悪い」

「白髪にシワ。年より老けて見えるよ? 琉璃が可哀想じゃない!? 」

「琉璃!? 白髪はダメ!? シ、シワは、均や姉上方が大人しければ出ないよ!! だから……」


 小柄で華奢な嫁に真面目に訴える様に、均と玉音(ぎょくおん)、そして3人の女性のうち年下の……とはいえ琉璃より年上の女性がコロコロと笑い出す。


「二の兄様は背は伸びられたけれど、全然変わってらっしゃらないのね。安心したわ。でも、三の兄様は益々、二の兄様を苛めて……」

「珠樹(しゅじゅ)に言われたくないね。そっちこそ、兄様苛めるつもりな癖に」

「あら、苛める訳じゃないわ。からかって遊ぶだけよ」

「それがたちが悪いんだよ。そんな珠樹を嫁にした相手の顔を見てみたいよ」


 均は、妹を睨む。


「女装大好き変態の三の兄上より、当然まともで美男よ。いい男だわ」

「珠樹を嫁にしてる時点で、点数は下がりきってるけどな」

「何ですって!? 」

「二人共、喧嘩はおよしなさい。もう……いつまでも子供ではないのですよ? 」


 母親はたしなめる。

 そして、孔明の半歩後ろで同じように頭を下げていた琉璃に気づく。


「あら、貴方が亮さんの奥方ね。本当に子瑜(しゆ)さんの言う通り可愛らしいお嬢さんだこと」


 孔明の義母、瑤樹(ようじゅ)は、近づくと琉璃を立たせ抱き締める。


「嬉しいわ。亮さんの奥方になってくれて……本当に、ありがとう。琉璃さんだったわね? 」

「ご、ご存知だったのですか? 」


 琉璃の言葉に、


「当然です。家族の……息子の奥方の名前を覚えないなんておかしいでしょう? あぁ、そうだわ!! 琉璃さん。私のことはお母さんと呼んで頂戴ね? 均さんの奥方の玉音さんもお願いね? 」


 気さくで温かな義母にどぎまぎする琉璃に、孔明は、


「琉璃。母上に呼んであげて欲しい。琉璃は家の人間だ。私の母のことを本当の母と思って欲しいんだ」

「……ほ、本当の……お母さん……。琉璃にお母さんが出来る……」


 目を輝かせる琉璃に、孔明は頷く。


「そうだよ。琉璃は諸葛家(しょかつけ)の人間で、母上とはお母さんと娘になる。そうでしょう? 」

「は、はい!! 」


 琉璃は、抱き締めてくれている瑤樹をそっと抱き締め返し、告げる。


「お、おかあ……お母さん……。初めまして。琉璃です。よろしくお願いします。お母さん、大好きです」


 震える声で囁く義理の娘を、ぎゅっと抱き返す。


「私も大好きよ。琉璃さん。嬉しいわ!! お母さんと呼んで欲しかったのよ」

「わ、私もお母さんと呼びたかったです。嬉しいです」




 玉音も義母と挨拶をし、そして、もう一人子瑜の嫁の玲衣(れい)に弟として挨拶をすると、瑤樹の勧めで椅子に座り、準備されていたお茶にお菓子が振る舞われる。


 それまで大人しく状況を見ていた喬(きょう)は孔明と琉璃の間に座り、お菓子に手を伸ばす。


「喬ちゃん? 母上の所に来ないの? 」


 玲衣の言葉に、孔明からお菓子を受け取った喬は、プルプルと首を振り答える。


「喬は、おとーしゃんとおかーしゃんのそばにいゆの」

「あら、そうなの? 母上悲しいわ……」

「ちーうえいゆの、だーじょーぶ」

「父上……う~ん、母上は父上よりも喬が可愛くて大好きなのよ? そうだわ、亮さん。帰る時についでに子瑜さんを連れて帰って頂戴? 鬱陶しいから、しばらく離れていたいの」


 真顔でのたまう義理の姉に、ぎょっとする孔明。


「えっ、えぇぇぇ!? あ、あの……姉上? い、今の冗談ですよね? 」

「いいえ、本気ですわ。一言目には『うちの亮が‼ 』『可愛い亮が‼ 』って、もう困るの。それに自分の子供なのに、恪(かく)が生まれた時なんて、『家の子じゃない!! 亮に似てないもん!! 』何て言うものだから、殴り飛ばしてやったわ!! 自分に瓜二つの息子に、何バカを言うんだって、こんなアホな亭主即行で離婚してやろうと思ったのよ。でも、お母様に泣いて頼まれるし、それに、あの亭主が溺愛する弟さんだから、どんなに変な人かと思って、見てやろうと思ったのだけれど……普通の人だわ! 逆にビックリ」

「ふ、普通ですみません」

「何いってるの!! 普通が一番良いのよ!! 亭主は変人だし、恪は可愛いげがないし……珠樹さんに聞いてたの!! 珠樹さん以外の、弟妹さんの破天荒な噂の数々を!! お二人の妹さんは紅瑩さんと晶瑩さんで、どちらも武術に秀でて野生の豚とか猪を狩ったりされていて、均さんは女装して生活してたって。それに玉音さんも男装されているって……何て倒錯的(とうさくてき)な響きでしょう!! 素敵だわ!! 」


うっとりとする義理の姉に、さすがはあの兄の嫁だと感心する孔明。


「でも、亮さんのことは、よく聞いていてよ。『可愛い弟なんだ。自慢の弟。優しくて誰にでも好意的に接する子でね。それに、今は大事な可愛い妹を嫁に迎えて幸せになってるんだよ』って、でね? 『玲衣、亮と仲良くしてね。玲衣はきっと亮と仲良く出来るよ。亮は、本当に玲衣を姉として慕ってくれるから』って。あの人は結構、冗談か悪戯か解らないことを仕出かす人だけど、本当に家族が大事で、特に亮さんのことを大事にしてるのよ。変な人だけど、愛情表現はおかしいけれど、嫌いにならないであげてね? 」


 亮は微笑み、義理の姉を見る。


「はい。兄は私達の自慢の兄です。嫌いになんてなりません。そして、義姉上のことも尊敬してます。大好きですよ」


 その言葉に、玲衣は赤くなった頬を扇で隠しながら、ちらっと孔明の横の琉璃を見る。


「琉璃さんは羨ましいわ……こんな素敵な旦那様に、大好きですよ、なんて言われるなんて。良いわねぇ……」


 その言葉に、同じく頬を赤くして琉璃は、


「琉璃は幸せです。優しくて手を繋いで外出したり、一緒に炊事や洗濯、掃除に畑仕事。毎日がとても楽しいです。琉璃は旦那様と一緒にいられて……今日はお母さんとお姉さま達とお会いできて、嬉しいです。琉璃は、きっとこの国で一番の幸福者なのです」


 その言葉に、孔明はぎゅっと琉璃を抱き締める。


「幸福者は私の方だよ。琉璃の夫になれて良かった。そして、ここに一緒にこれて良かった。ありがとう、琉璃」




 周囲は冷やかすことなく二人を見つめている。


 この瞬間を見れて逆に幸せだと思う程に……。

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