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破鏡の世に……  作者: 刹那玻璃
デレデレ新婚夫婦のあまあまな日々…これでいいんだ!!多分。
48/428

大人は解ってしますが、子供は知らないうちにします。※

「……りしゅ」


 熱が出ていた琉璃りゅうりが、魘されながらぽつりぽつりと、言葉を呟く。


 泣きながら、何度も何度も繰り返し告げる言葉は、たどたどしさが強ければ強い程、必死にこちらに訴えかける伝言となる。

 それが、なおいっそう愛しさ、いじらしさが増していく。


「だいしゅき」


 この一言が孔明こうめいにとって、どれ程の威力となって胸に、心に届いたのか……琉璃には解らないだろう。


 いや、解らなくてもいい。

 自分の心の中で、そう言って貰える幸せを噛みしめるだけだからだ。


 しかし、今……孔明が知らない言葉を呟いた。


「……り、しゅ……、あにょ、ね……」


 フニャッと頬が緩んだ。

 孔明が予感した通り、誰かの名前らしい。


 愛馬の光華こうかの名前以外はひげオジサン、虎オジサンしか口にしなかったので、仲の良い者は居なかったのだと思っていたため、意外だったのだ。


「あにょね……『にいしゃま』、だいしゅき、にゃの……らからね、琉璃の『にいしゃま』は、だいしゅきれ、琉璃もだいしゅきにゃのよ。いっしょいゆの……やくしょくしたにょ……」


 嬉しそうに笑う琉璃の愛らしさに、一瞬叩き起こそうとした孔明はしなくて良かったとホッとする。


「らからね、『りしゅ』は……琉璃にあいにこにゃいれ……琉璃は……『はきょう』ないない……」

「……!? 」


 息を飲む。

 うなされるように呟く。


「『りしゅ』は、ちがうにょ……琉璃は、ちがうにょ……。お菓子をもやったって、いいにこにゃいれ。おかあしゃまに、きえいなこよもを着せてもやったって、みせにこにゃいれ……しょばにちかじゅいたやらめって、ゆわえていゆんれしょ? ……『りしゅ』はおこやえるし、琉璃は、なぐらえるしけられる、いたいいたいの……」


 顔が歪む。


「『りしゅ』の、こと、しゅきってゆった……けど、しょばにいりゅたびに、なぐらえる、『りしゅ』はいいけりょ……琉璃は……」


 ひっくひっく、しゃくりあげる琉璃を孔明は抱き上げると、よしよしと背中を撫でる。


「……琉璃。大丈夫。もう痛いことは起きないよ。安心して。私が傍にいるよ……」


 耳元で囁く。


 すると、涙に濡れたまぶたが開かれ、孔明を見上げるとホッとしたように泣き笑う。


「大丈夫。ここには、今兄様と琉璃だけだよ。『りしゅ』という人はいない。痛くないよ」

「……あい、にゃの……れも……」


 表情を翳らせる琉璃の額に額をくっつけると、囁く。


「そんなに泣いちゃう程、悲しくて、痛くて、辛い記憶なんか、忘れよう……琉璃。その、『りしゅ』という人のことも忘れなさい」

「……にいしゃま……」

「琉璃。ここにいる琉璃は琉璃でしょう? 違う? 琉璃だよね? 」


 琉璃は、頷いた。


「あい、にゃの……琉璃は、琉璃にゃの」

「でしょう? じゃぁ、もう『破鏡』はいないよ。いないんだから、『りしゅ』っていう人も琉璃は、知らない。そうだよね? 」

「……う、ん……琉璃は、琉璃。しやにゃい……」

「そうだよね? 琉璃は、知らない。だから、安心してお休みしよう。お休み、琉璃」

「おやしゅみにゃしゃい……」


 目を閉ざし、すぅぅっと眠りにおちていく琉璃の涙を親指でぬぐいとると、それを舐める。

 琉璃の心の傷の代わりに……。


 そして、子供だけに残酷なことを琉璃にした、『りしゅ』という名を心に留める。


 父親に、琉璃に近づくなと言われていたのだろう、『それ』は。

 しかし、友人だという口先だけの名目で、隙を窺って琉璃に会い、それが見つかると連れ戻されるだけ、ただ叱られるだけで済んだのだろうが、琉璃は殴られ蹴られた。


 その痛みに、会わないようにしようとするが、『それ』は子供ゆえに、琉璃を追い回し、そして再び殴られ蹴られ……それを繰り返してきたのだろう。


 子供ゆえと言うには余りにもむごい行為である。


「琉璃」


囁く。


「『破鏡』はもういない。私が『破鏡』を消したから……大丈夫。だから、安心して眠りなさい。怖い夢はもう見ないから……」




 半月の月が、窓から淡い光を降り注ぐ。

 星を観る時に、月も観るが……今日の『破鏡はんげつ』は腹立たしさを増す程美しい。


 月明かりの中、孔明は琉璃を抱き締めたまま牀に横になる。


 そして、自分が抱き締めたままの琉璃の温もりを、衣でくるみ、目を閉じた。

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