黄承彦父さんVS劉玄徳さんの対決の結末は!?※
劉玄徳は、義弟二人と護衛にしては強面の男たちを数人従えて、黄承彦の屋敷に向かう。
劉景升が言っていた通り奇っ怪な屋敷である……普通の街の中にあるにしては。
しかし、玄徳が見てみれば解る。
この屋敷は侵入者対策が万全な上に、立て籠る際にも有利なように出来ている。
奇っ怪などころか、作った作者を教えて欲しいくらいの素晴らしい防御壁である。
出来るならば、劉景升に借り受けた新谷城の防御を手助けして欲しいものである。
じっくりと確認して、正面の門に近づく。
「な、何だぁ!? これは」
益徳は、目を閉ざした獣の置物の頭を叩く。
と、ギランッと目を見開き、牙を剥くとガブッと腕に噛みつく。
「いってぇ!? な、何だぁ!? これ、離せ、離せよ。この化け物が!! 」
益徳が獣の顎をこじ開けようとすると、それと同時に警戒音が響き渡り、中から数人の屈強な男たちが現れる。
「どちら様でございましょう? 」
丁寧だが威圧的な物言いに、雲長は、義兄を庇うように一歩前に出る。
「雲長、構わない」
ゆったりとした物言いで、玄徳が話しかける。
「夜分遅くに申し訳ない。私は劉玄徳。こちらの州牧劉景升様の遠縁に当たる。中原での戦に飽きこちらに流れてきた者だ。ここ、荊州一の大商人であられるという黄承彦殿にお会いしたいと思い参った次第。私は……」
続けようとした玄徳に、小柄だが威圧感のある警護の長らしき男が言葉を遮り、
「劉玄徳様と、おっしゃられましたでしょうか? 」
「あ、あぁ……」
言葉を遮られ、調子が狂ったらしく劉玄徳は気が抜けたような返事を返す。
「今、貴方様は夜分遅くと申されましたが、その通り。今は夜も更け、完全に月の時刻となりました。商売人は誰よりも朝早く起きて、仕事に励むものでございます。知りませんでしたでしょうか? 」
「そ、そうですな……」
「そうでございましょう? でしたら先触れ、約束もしておられない方が、商売人の屋敷に来るとは非常識。日を改め、先触れもしくは使いを送って返事を待つのが常識でございます。中原では、そのように教わりませんでしたでしょうか? 」
口調は丁寧だが、嘲りを込めた言葉に、益徳と護衛がかっとなる。
「な、何だと!? お前!! 兄ぃを誰だと思っているんだ!! 」
「そうだ!! 」
「この方は!! 」
口々に言おうとする義弟たちを、雲長が止め、玄徳は、
「も、申し訳ない。そちらを侮った訳ではなく……」
「では、どういう訳でしょうか? 」
「こ、こちらの……主に……」
「ですから休んでおります。申し訳ございませんが、日を改めて先触れもしくは使いをお送り下さいませ。では、皆さんも夜も更けております。荊州も物騒になりましたので、お気をつけてお帰り下さいませ」
慇懃に頭を下げる男の気迫に、玄徳は、
「わ、解りました。また日を改めてお伺いの使いを送らせて戴きます」
「かしこまりました。私が、主黄承彦にお伝え致します。では、お気をつけてお帰り下さいませ」
その声に、スゴスゴと玄徳たちは立ち去るしかなかった。
立ち去ったのを確認後、屋敷に入った護衛たち、特に玄徳を気迫で追い払った黄承彦は、
「何じゃい、中原で有名な男と聞いとったのに、ただの強欲な男じゃないか。わしの財産ふんだくろうと企んどるんじゃろうが、そうはいくか。ああいうのこそ、早めに叩き潰しておくべきだったのに、曹孟徳も案外ぬけとるのぉ? 」
「旦那様。怪我人がしゃしゃり出てはなりません。婿ぎみが心配なさいますよ」
護衛の本来の長が、黄承彦をたしなめる。
「仕方無いじゃろ。月英は駆け引き出来んし、がらくたがあれば満足するし……婿どのは、あの鬼畜に取っ捕まったら死ぬまで馬車馬のように働かされるに決まっておる。苦労されとるというのに、どういう訳か変な方向に抜けとるからのぉ? 婿どのは。まぁ、そういう所が気に入ってしもたから、しょうがない。わしが何とかせねばな。そうやのぉ……」
「……旦那様、本音がぼろぼろと出てしまっておられますが? 大商人の品位はどこに? 」
「あ、そうじゃった。注意しよう」
表情を変え、普段の黄承彦に戻った男は、ちらっと護衛たちを見る。
「あれは、危険じゃ……けして、月英や琉璃夫婦に近づけるな。良いな? 」
「かしこまりました、旦那様」
護衛たちは頷き、それぞれの配置先に戻る。
そして、黄承彦と、彼を護衛する長がゆっくりと屋敷の中に消えていった。




