初めての完結です。皆様、再見(マタアイマショウ)!!※
金剛は準備を始める。
慣れた手つきなのは、良く叔父になった令明が、父の元正妻だった人物の目を盗んで金剛を連れ出していたのである。
基本、彼女は孟起や雲母がいる時には、金剛を苛めいたぶるが、居ない時には全くの放置。
その間、祖母の珊瑚が徹底的に教育を施し、叔父の令明や叔母の瑪瑙に武術を習う。
そして、子脩とその妻である大叔母と言うのも申し訳ない程可愛らしい、水晶に礼儀作法や囲碁、楽器演奏、文字に絵画など琴棋書画も教わっていた。
そして、一番の特技は、
「わぁ!!僕より凄いや!!」
父の従妹の琉璃の馬の技術に感嘆する。
「僕もそれなりに特訓したんだけど、琉璃お姉さんには敵わないや」
「と言うよりも、8才でそこまで……良く頑張ったね」
孔明が感心するのは、乗馬騎射の技術に優れていること。
馬を走らせながら、弓を射るのである。
その美しさに感心した孔明は、これを用いて敵を引かすことは出来ないかと考える。
驚かせて、相手の恐怖心を煽り逃げさせるのである。
その為、自分自身で馬に身を預け、そして射抜く技術をものに出来るか?と試すことにする。
黙って歩き出した孔明を、おっ?と周囲は見る。
愛馬に乗り駆け出す。
そして強弓で、隅ではあるものの射ぬいた的に、周囲は感嘆し、やんやと囃し立てる。
が、孔明は首を傾げ、しばらく強弓と的を見つめ、一言二言馬に囁くと、もう一度馬は走り始める。
孔明の眼差しが注がれ、強弓をぐいっと引いて手を離す。
すると、
ドン!!
と重々しい音がして、バキバキっと的が折れた。
そして、もう一度メリメリっと言う音と共に、孔明の強弓が折れ、弦がピシッ!!と頬を打った。
強弓を持ったまま駆け足で戻ってきて、愛馬の月光から降りた孔明は、
「この強弓は、強度が悪いですね。均に言って、職人の技術向上を……」
「おいっ!その傷をどうにかしろ!!頬からボタボタと!!」
子脩の言葉に、琉璃がサッと手を伸ばし、涙目で夫の傷を押さえる。
「旦那様……」
「大丈夫。願ってみた……今後のことを……箭が的の中央を射ぬけば、私の勝ち。劉玄徳から滄珠を取り戻せる。箭が射抜けなければ、負け。そして、強弓が折れたのは生半端なやり方ではこの頬のように残る。そう出たんだよ」
「呪術か?」
孟起の言葉に、孔明は首を傾げ、
「生まれた地域のまじないですよ。他の方法でもやりますね。あ、ありがとうございます」
珊瑚が、侍女に持ってこさせた薬を手ずから塗っていき、布を当て軽く巻く。
「後できちんと手当てをなさい。孔明どの」
「ありがとうございます。珊瑚さま」
「それよりも、あの強弓を折るとは……あのバカ亭主の怠け癖のせいだわ!!一度、点検をしないといけないわね」
渋い顔で告げた珊瑚に、いつの間にか来ていた均が、
「珊瑚さま。手入れよりも、兄様怪力ですから持たなかったんですよ。これ、弱いです。もっと素材を吟味しないと、今回のように兄様以上の怪我をするかもしれません。僕がある程度、教えられますけど?」
「本当!?構わないの?そんな大事な技術を……お金……」
珊瑚の一言に、均は手を振り、
「いりませんよ。味方に技術を教えるんですし、それに、兄様や琉璃が調子が良くなるまで本当にご迷惑を……」
「そんなことは当然でしょう?琉璃は私の姪で、娘同然だし、孔明どのは本当に息子だと思っているのよ。貴方もだけど」
コロコロと笑う赤髪の美貌の女性に、均は、
「じゃぁ、お母さんを守る為に、準備を徹底的にして、教育を施しておかないと……。それに、兄様」
「ん?」
「昨日言ってたことどうするの?」
「……」
手当てをして貰った孔明は立ち上がり、令明を見る。
「令明どの。もしよろしければ、私たちと共に行きませんか?貴方の能力はこの程度ではないし、もし、貴方がここにいれば、孟起どのとの対立を生みます」
「なっ!俺は!!孟起と!!」
「貴方はそうでも、周囲はそう見ません。瑪瑙どのの夫であり、猛将……知識もあり、部下の信頼も厚い。次第にぎくしゃくする地域を虎視眈々と狙っているのは、韓遂将軍だけではありませんよ」
「!!」
その言葉に、周囲は黙り込む。
「良いですか?貴方は、この地を守るつもりでしょう?それなら、この地に残る道ではなく、別の道を考えて下さい。貴方がこの地から去るとやって来る、この脳みそ筋肉と同じ位アホがぽいぽい出てきますよ。ついでに、裏情報を流しておいて……」
「俺と喧嘩をした。俺には失望したから甥の金剛を主にしたい、そう言っておけ」
「孟起!!」
腕を組んで、未だに、息子を手放すことを納得出来ない孟起が告げる。
「本当は、行かせたくないが……金剛が行きたいと言っている……。だから、俺と喧嘩をしたことにして、金剛を守ってくれ。頼むな。それと瑪瑙のお守りも頼んだ」
「孟起……!!」
「お前だけが頼りだ。お前に任せる。それと、金剛だけでなく、このバカも頼んだ」
指を突きつけられた孔明はムッとしたように、
「誰がバカですか?貴方と一緒にして貰いたくないですね!!このアホ!!色ボケ親父!!」
「何だとう!!」
「貴方は、大言を吐く癖をどうにかしなさい!!恥ずかしい!!失敗したら、責任転嫁もやめることです!!」
「そしたら、てめぇは、何でもかんでも責任を負おうとするな!!」
孟起の一言に、呆気に取られる。
「俺がお前の中にいた間、周囲はあれこれお前に頼りきりになっていた!!しかも、敵将である蔡瑁もだぞ!?お前は俺よりバカだ!!良い大人を甘やかすな!!突き放せ!!何でもかんでも守る?出来っこねぇことを、言うな!!バカが!!」
「なっ!私は!!やりとげようと!!」
「一人ですんなといってんだ!!俺の一番信頼する令明と妹を貸してやる。手足のようにこき使え。その代わり、金剛を頼む……」
孔明はハッとする。
これは、孟起らしい……『自分の息子を、妹夫婦をよろしく頼む』と言うことではないのか?
口下手な……不器用な彼らしい……。
溜め息をつき、
「貴方は本当に不器用ですね……」
「お前に言われたくないわ!!」
「私は貴方程、頭悪くないですよ?見てごらんなさい。今度の地方に送った使いの返事を。貴方が雲母どのに迷惑我儘、金剛を悲しい目に会わせている間、何をしてましたか?」
「……ぐっ」
口ごもる孟起に、孔明は居ずまいを正し、拝礼をする。
「では馬孟起どの。6年後……お約束します。貴方の元に、金剛を連れて会いに行きます」
「……おうっ……金剛を頼む。それと瑪瑙に令明も……」
「えぇ、解っています。では数日中には出発致しますが、早朝……出発します。日差しに向かって走りますので、少々辛いこととなるでしょう。このまま、私たちは……」
子脩たちを見る。
「おう、俺たちは、そのまま戻るさ。水晶もいるし、ゆっくり行くわ」
「では……あちらにも……」
「おう、やっとくわ。気にすんな」
手をヒラヒラさせる子脩にも、拝礼をして、
「尊兄徐元直をよろしくお願い致します。尊兄は、温厚で優しい人ですので……黄晶も、お願い致します」
「大丈夫だよ。兄さん。老師は、絶対に俺を裏切らないし、兄さんは兄貴だもん。時々裏から手を回して、便りを送るからね!!」
「情報交換だけでなく、黄晶の可愛い鳳蝶姫のことも教えてね。家の息子たちのことを教えるからね」
クスッと笑う孔明に、
「兄さん、意地悪だ……」
頬を赤くした黄晶は拗ねる。
その顔に、
「あははは……黄晶。君のバックに司馬家、夏侯家と言った名家があるけれど、考えて動くこと。黄晶に味方するもの全員が黄晶を信頼している訳ではない。時々裏切ることもあるかもしれない。それに注意して。特に、子脩どのも注意しておいて下さい。司馬仲達彼は危険です」
「叔達どのにもね?」
均は、弓を確認しつつ告げる。
「解った。じゃぁ、こちらから情報は……」
「伯達どのとやり取りするよ。それか月英師匠を通じて」
「解った。じゃぁ……約束は違えない!!それが俺たちの誓いとさせて貰う」
子脩は、告げる。
この誓いは秘密であり、そして、戦いを終わらせる為の祈りでもあった。
破鏡の世に……生き抜くすべは自ら見つけていかねばならない。
指示をする主君のその判断の素早さに、正確な情報、戦略、政略と言う知謀策謀を用いる者、そしてその指示に瞬時に対応できる、武将たちの戦いの歴史が『三国志』の醍醐味である。
しかし、当時はまだ後漢王朝が存在し、最後の皇帝となる献帝劉協が許都に存在する。
この私、刹那玻璃の世界は、まだまだ広がる。
そして、その広い世界を駆け回る孔明たちは、刹那玻璃の考えをすり抜け、飛び越え、生きていくのだ……。
本当にありがとうございました!!
2016年9月24日11時修正完了しました。




