均ちゃんと馬超さんは反りが合わないようです。※
最近、妙に兄の様子がおかしい……。
均は、兄の目を向けている辺りをみて、さもありなん……と納得する。
3年前に引き取った長兄の子、喬が、笑顔で話しかけている相手……兄の妻の琉璃が、フワフワとほころんだ花のように笑っている。
「喬ちゃん。なぁに?」
「あのね!!お母さん。はい、お花だよ♪さっき、あそこで見つけたの。畑を借りてるおじさんに聞いたら、良いって言って貰ったんだよ。お母さんに似合うと思って」
後ろに隠していた花束を差し出す。
素朴な道端の花だが、琉璃はパッと笑顔になり受けとると、
「ありがとう。喬ちゃん。お母さん……こんなに嬉しい贈り物、貰ったことないわ。嬉しい!!」
「本当?じゃぁ、又、お母さんの好きなお花、探してくるね!!あ、それとも……」
くるっと振り返った喬は、手を振る。
「お父さん!!ねぇねぇ、お父さんも一緒に、お散歩に行こうよ~!!それでね?お母さんに一杯贈り物をあげるの!!僕とお父さん、どっちがお母さんに喜んで貰えるか、競争しようよ!!」
「競争?」
ぱぁぁと笑顔になり、近づいていった孔明は、
「じゃぁ、お父さんが勝つよ?いいの?」
「えぇ~!!そんなことないよ。僕だって負けないもん!!」
「じゃぁ、どっちが勝っても喧嘩はしない。お父さんと喬とで勝負!!」
顔を近づける親子に、おろおろと、
「旦那様も喬ちゃんも、喧嘩は……」
「違うよ!!男と男の勝負だもん!!ね?お父さん?」
「そうそう。私と喬のどっちが琉璃を知ってるか、大事な勝負だよ!!琉璃は見ててね?」
と言う兄が……普段は温厚な兄が……怪力で、子供を5人と琉璃まで抱き上げるなどと言い、公祐に問答無用とばかりに頭に手刀を叩き込まれている兄が……普段聞いたことのない訛りの強い言葉で、聞くに耐えない暴言を吐いている!!
しかも、体の動きがおかしい……!?
均は表情を消し、気配を殺して走り寄る。
兄をたしなめていた子脩は勘のお陰か避けたものの、兄が……あの気配に敏感の兄の反応が遅れ、均の背後からの回し蹴りを完全に受け、きゅぅぅぅ~……と気絶する。
「おわぁぁ!?お前、何を!?」
「おらぁ!?お前は誰だ!?家の兄様をどこにやった!!吐け!!」
気絶した兄の首を絞める均に、
「おいっ!?おい、そこまですんな!!兄貴が死んだらどうするんだ!?」
「見ず知らずの奴が、兄様を乗っ取って悪事に……って利用出来るからね!!兄様の性格じゃ、悪事に荷担することはないけど」
途中解放したお陰で、意識を取り戻した孔明……の中にいる人間は、かっと食って掛かる。
「てめぇ~何しやがる!!」
「やっぱり。兄様じゃない!!即抹殺!!」
子脩にすら見えない程素早く、武器を突きつける。
「ちょっと待った!!均!!話を聞け!!」
「聞いた所で、兄様の偽物認めないよ、僕」
「だから……」
子脩の横から顔を出した孔明が、怒鳴る。
「うっせー。クソガキ!!俺は馬孟起!!文句あっか!!」
「あるわ!!ボケ!!」
一撃を食らわした均は、悶絶する偽物を見て、
「で、馬孟起って誰?」
「知らねぇのか!?」
子脩は呆れるが、均は、
「役に立つ情報は集めるけれど、それ以外は要らないから。多分そっちに入ってるんでしょ」
「役に立たない……」
冷や汗をかく子脩。
「で、本当の所、誰?」
「俺の嫁の姉の息子。西涼の馬家、知ってるか?」
「あぁ、ただ馬だけの頭はパーの家ね。いつか自滅すると思ったんだけど、滅んで、兄様に取り憑いたの?鬱陶しいから、出てってくれない?」
均の悪辣な一言に、孟起は叫ぶ。
「生きとるわ!!ど阿呆!!誰を鬼扱いしてやがる!!ぶっ殺す!!」
「やってみれば?」
均の一言にかっとなった孟起は動くが、ぎこちない上に均の方が素早く、したたかに腹に膝が食い込み悶絶する。
「弱っちぃ……滅茶苦茶弱っ!!」
「う、うるっせぇ!!この体がおかしいんだよ!!こんなに動かしにくいひょろひょろ、ひがひが、骨と皮!!」
「ふーん。多分兄様は、あんたの体完全に使うね。この程度の動き、見切れないあんたは弱すぎるよ」
腕を組み、嘲笑うような笑みを浮かべる。
「で、あんたは何をしてるの?」
「知るか!!それより何とかしやがれ!!」
「自分で、状況確認一つもせず、人任せとは、それが西涼の狼の異名をもつあんたとは……笑っちゃうね」
均の言葉に、
「何をぉぉ!?」
「西涼の狼は、ただの色ボケおっさんだったと……あ、忘れてた。御免ね?子脩どのより年下だったよ」
「分かって言ってるだろう!!」
子脩の声に、被さるように、
「子脩様!!ここにおられたのですね?老師以下、弟子の方々が手分けして、応急処置を。兵士を逃がす準備は進んでおります!!子脩様も!!火の粉を浴びては元も子もありません!!参りましょう!!」
姿を見せた伯達は、均のいつにない殺気を振り撒く様に、
「何があったのです!!」
「こいつが兄様に取り憑いたの!!」
均が顎をしゃくる。
孔明が立っている……しかし、
「変ですね……孔明殿じゃない。貴方は誰です!!」
「うるっせ……」
「それしか言えねぇのか!!語彙が不足!!馬鹿!!」
均は背後から蹴りを食らわしたのだった。




