こんなに、こんなに幸せな日はありません。嬉しい、楽しい、大好き!!です。※
公祐と子仲、憲和は、酒を飲みつつ観察をしていた……。
季常と幼常以外に、新たに3人入った参謀を見たかったのだが……。
「おら~、飲め!!」
「いらない。士元勝手に飲め!!邪魔!!」
言いつつ、一つ一つ、ツマミがわりの料理を器から取り、口に入れてぶつぶつ呟く白髪の青年。
その横で、士元を引っ張っていき酒を勧める元直。
公祐は問いかける。
「『臥竜』どのは、何を考えているのですか?」
その問いに、真顔で、
「私は、『臥竜』、『伏竜』ではありません。孔明で結構ですよ」
「では何を?」
「さっき、口に入れると美味しかったので……この料理はこの地域の料理ではないですよね?」
にっこりと笑うのは27、8にしては穏やかでおっとりとした印象……。
これは素か?
それとも……、
公祐は探るように、
「ですが、この国の……地方では……」
「『臥竜』と言うのは、良い意味じゃないんです」
真顔で元直が口を挟む。
「はぁ?」
子仲の声に、士元は、
「こいつ、見た目はこれだが、キレるとこえぇんだ。だから、こいつは黙らせときゃなんねえの」
「どういう意味だ?」
憲和が面白そうに問いかける。
「琉璃……あんたたちが『趙子竜』と呼んでた嫁がいないと、こいつは暴走するんだ」
「暴走……ってどこまで……?」
子仲の問いに、孔明は、
「いないと眠れないので、起きてます」
「起きてるって……」
「基本、寝なくても平気なんです。体力あるし」
元直は後輩の頭を叩き、
「孔明は、全く食事を取りません。琉璃と喬がいないと。それに、二人がいれば当たり前にやっていることをほぼ全て放置です」
「だって、草抜きに、水やりなら兎も角、掃除に洗濯に料理は必要ないし……他何か要りましたっけ?」
「……と言う具合になるんです。気力がなくなるんですよ。琉璃と喬の前では穏やかで温厚、二人を溺愛するんですが、一人になると柄が悪くなり、士元も嫌がる程、乱暴者になるんです」
首をすくめ、元直が言うと、
「失礼ですね~敬兄。私は、女性や子供に無理難題を押し付ける馬鹿を、その場で叩きのめしてただけですってば。士元は酒に弱いし、敬兄も、士元より強いけど立てなかったでしょ!?」
「お前がそこまで強いとは思わなかった……」
呟いた二人に、憲和は、
「そんなに飲むのか!?こいつ」
「あれば飲みます。と言うか、琉璃は酒の臭い駄目なんです」
「あぁ、身ごもっているからか?」
その言葉に首を振る。
「いいえ。来た時からです。私は基本……普段飲まないので置いてなかったんですが、士元や敬兄が、持ってきた酒の臭いに怯えて泣きじゃくるので、家ではお酒持ち込み禁止にしていたんです。言葉が足りないので聞いても泣くばかりだったので、推測だったのですが、酒を飲んだ者たちに殴る蹴るをされてたのだろうなと。私たちの家は、琉璃の家ですから、琉璃が安心して過ごせるように、琉璃の嫌がるものは置かないんです。喜ぶものだけ、一杯にしました」
嬉しそうに微笑む。
「琉璃が綺麗~と喜ぶものは、全部集めました。琉璃の為の花を育てたり、琉璃の似合いそうな髪飾りに、衣も。遊ぶ道具をと思ったのですが、琉璃は働き者で、何かをあげようとすると勿体ない、要らないと言うので、勉強に使うからと楽器や筆記具を揃えたりしていましたよ。皆、琉璃が笑顔になるのを……喜ぶ姿を見るのが好きで、『又次を用意しよう』と義父上が言うと、『十分です。私には勿体ない!!』と言うので、余計に良いものをと探すんですよね」
思い出し笑いをする孔明に、珍しく士元も同意して、
「そうそう。家の伯父貴に『お前の所には娘がおるだろう!?琉璃の喜びそうなものはないか!?教えてくれ!!』と駆け込んできて大騒ぎ。琉璃がおろおろと『お、おとーしゃま、琉璃は、もういいでしゅよ?十分なのれしゅ』と言うと、『ダメじゃ~!!わしは、琉璃の父親として……本当に、本当に幸せになって欲しいのじゃ~!!だから教えろ~!!』って、伯父貴首絞められてた」
「で、老師と士元と私が引き剥がして、何とか命は大丈夫だったのですが……」
「孔明どのは?」
子仲の視線に、
「私が手を出すと、義父か徳公さまのどちらか……両方かが命に危険がと。やめろと言われました」
「はぁ!?」
3人は、大柄でがあるが細く痩せた青年の顔を凝視する。
孔明は、頭に手を当て、笑う。
「実は、少々力が強くて……」
「少々じゃねぇだろ!!お前、あの髭、本気の力じゃなかっただろ!?」
士元の声に、孔明は平然と。
「あれでも、治れば役に立つでしょ。一応、使えるものは使う。貧乏生活で得た知識ですよ。使えなければ即座にポイ。ですけどね」
「ポイって……」
「子仲どの。あれ、一応、曹孟徳軍の牽制の為だけに置いてますので、役に立たなかったら、即座に抹殺しますので、前もってお伝えしておきますね」
にっこりと笑う孔明に、何故か、隣でのんびりとお酒をたしなんでいる公祐が続ける。
「あぁ……やっぱりそうだったんですね~。面倒なのにと思っていたのですよ~でも私と同じ理由だったとは、気が合いますねぇ~」
「そうですね。しかし、公祐どのも結構奥が深いですね」
「良く言われます~。でも、それ位ないと、この世界を生き抜ける術などないでしょう。表だけ取り繕った所で、裏はすかすか、もしくは前だけ取り繕って、後ろは張りぼてよりましですよ。まし」
くいっとあおった公祐に、孔明がお酒を注ぐ。
「あぁ、ありがとうございます。孔明どのは?」
「いえ、今日はお酒よりも、料理を。琉璃に美味しいものを食べさせてあげたいんです。それに、息子が戻ってきたら……」
孔明はじっと公祐を見る。
「多分……と言うか、絶対に公祐どののことを好きになりますよ。息子は。子仲どのも憲和どののことも。あの子は、本当に可愛がられる子なんです。自慢の息子です」
「そうなんですか?賢い……?」
「賢いよりも優しい子です。それに、自分の弱さを知っている子です。なので、私よりもきっと」
微笑んだ孔明の前で、お酒をもう一杯と飲み干した公祐は、寂しげに微笑む。
「……羨ましい。私には家族が……」
「……そうでしたか。では、後添いの……」
「いいえ、その予定はないですね……もう哀しい思いをするのは……」
苦笑する公祐に、孔明は首を傾げると、
「変ですね。公祐どのに見えたのですが……」
「見えたと言うのは?」
子仲の問いかけに、天井を示す。
この屋敷は子仲の屋敷の一室、少し肌寒いので、周囲の布を下ろしている。
「星の巡りでは、公祐どのは子供さんに囲まれて、へとへとになっていますよ?」
「へとへとって…」
顔をひきつらせる公祐に、孔明は微笑む。
「公祐どのは、幸せになりますよ。琉璃はいつも、公祐どのと子仲どのと、憲和どののことを言っていました。『3人の叔父さんに助けて貰ってたの。たれ目の伯父さんは衣を仕立ててくれて、切れ長の目をした伯父さんは呼んでくれて、お部屋の隅にお菓子や、食べやすく小さく切ってくれた料理と、お水と時々甘いお菓子があって、『焦ってはいけないといっているだろう』と言いながら、背中をとんとん叩いて口を拭いてくれた。お酒を良く飲む伯父さんは、琉璃の前ではお酒を飲まなくて、苛められてるのを助けてくれて、良く『この部屋に寝ろ。もし、誰かに言われたら、俺が重要な書簡を管理していて、それが盗まれないように、番を言いつけられました』と言っとけ……『もう一度会えたら、ありがとうって言うの。あの時は、解らなかったけれど、今は習ったから解るの。伯父さんたちにありがとう』って言うの』と言ってましたから」
「えっと、それと……どういう意味が……?」
「いえ、星の動きを見たら、公祐どのの星に変化が。まだ目立った変化ではありませんが、悪いものではないですね。いい方向にいくと出ています。子仲どのは……複雑な動きです。余り言いたくはないですが……妹さん……糜夫人さまに変化が……注意して下さい。憲和どのは……酒の飲みすぎとその毒舌に注意。でないと、士元のように嫁に愛想を尽かされ、ほっておかれる……そうです」
その言葉に、士元が、
「おいこらぁ!?どういう意味だ!!」
「ん?あぁ、そうそう」
懐から書簡を出して、ヒラヒラさせる。
「球琳から手紙が届いたよ?士元が馬鹿ですみません。愚弟たち同様放置でお願いします。だって」
「何だとぉ!?それにお前が、あいつの名前を親しげに呼ぶな~!!あいつは俺の!!」
「じゃぁ、早めに連れ戻した方がいいよ?何か、今度、飛び地の領地を見に行くとか……そこは結構深い森の中らしくて戻ってくるの時間がかかるって」
士元が立ち上がり、出ていこうとしたが、すぐによろけて倒れ込む。
「酔っ払い~」
「うるっせー!!俺は……」
よろけついでにといった感じでそのまま寝入った士元。
「弱いのに飲むから……」
元直の溜め息に、憲和は、
「弱いのか!?」
「私と孔明に比べたら、です。士元の住まいで飲む酒はいい酒が多いんです。だからかなり飲みますよ」
「敬兄は酒好きですからね。私は、琉璃がいるので、滅多に飲みませんよ。今度、弟を紹介します。弟は底無しなので」
「底なし……」
後日、孔明の弟の均が、言葉通りの底なしだと知ることになるのだった。
で、現在……。
「こら!!玉蘭!!又、循の衣で、遊びじゃないんだからやめなさい!!」
「だって、尚香さまだって!!」
「向きと不向きがあるんだよ!!強弓は無理!!するなら諸葛連弩にしなさい!!」
公祐の言葉に、牀から、移動してきた孔明がぎょっとする。
「公祐どの!?あの連弩使わせるんですか!?」
「と言うか、家の子供たちは好奇心旺盛ですから、納得するまでさせておくのもいいかと。でも、本当に、お転婆娘に、裏で画策する息子は目が離せませんね」
「疲れますか……?」
孔明の問いかけに、公祐は満面の笑みを浮かべる。
「楽しいですよ。あの時は、何の冗談だと思いましたが、夢物語ではなく、現実になって嬉しいですよ。私は孔明どのと同じで、妻子がいないと……家族がいないと生きていると言う実感を持てない人間なのでしょうね……でも、それが嬉しい。私は、孔明どののように欲張りはしませんが、やっぱり妻がいて子供たちがいて……笑って、平和な世界を喜びたいです。孔明どのが良くなったら……そんな世界を作る手伝いをかって出ますよ」
「公祐どの……」
「ですから、孔明どのは体を治すこと。心を癒すこと。貴方はまだ世界に戻れない。頑張ってとは言いませんが、それなりに、自分の弱さを自覚しなさい。これは、琉璃の伯父である私の忠告です。琉璃や喬を泣かせたら、攻撃ですよ」
公祐は立ち上がると、
「こら!!玉蘭!?箭の装填は教えたでしょう!?それに、循も普段はあぁなのに、どうして面白がるんです!!全く!!お父さんは怒るよ!!」
「もう怒ってる癖に」
「怒ってるふりして楽しんでるのは、お父さんだよねぇ?玉蘭?」
親子の光景に、孔明は目を細め、見いっていたのだった。




