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破鏡の世に……  作者: 刹那玻璃
孔明さん新婚ですが、レッドカードスレスレですよ。
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滅多にしませんが、孔明さんの痛い教育方法実践です。※

 今日は久し振りに二人で買い物に出た孔明(こうめい)に琉璃(りゅうり)は、朝二人で作ったおやつを持ち、琉璃の実家になる黄家(こうけ)と、姉の嫁ぎ先の龐家(ほうけ)に向かう。

 光華(こうか)の訓練の為に背に二人で乗ったが、途中、龐家でお土産と光華を預け、黄家までは歩く。

 結婚式では月英(げつえい)の秘密兵器は発動しなかったが、実は月英は裕福な実家を度々賊(ぞく)に襲われた事があった。

 その為、虎の置物に仕掛けを施したり、屋敷の周囲に不審者が触れるとカラカラと鳴るナリコを張り巡らせたり、猛獣用の罠に落とし穴等様々な仕掛けを施していた。


 ちなみに孔明達と暮らす丘の上の家の回りにも、かなりの厳重装備をしている。

 これは実験と、どこを改良すべきかを孔明や均(きん)、時々やって来る晶瑩(しょうえい)や士元(しげん)と元直(げんちょく)に確認する為である。


「……だ、誰かいないか!! 」


で、今回は、正面から入らず、使用人の門を侵入しようとした人間が、罠の餌食となったらしい。


「誰か、助けてくれ!! か、金は払う。だから! 何とかしろ!! 」


 目の前のどう見ても高級そうな衣装を纏った青年が、宙に浮いた紐に足を吊り上げられていてわめいている。

 月英の秘密兵器は健在らしい。


「一体これは何だ!? 正門からは獰猛な化物のからくり!! 後ろの門では落とし穴の罠があると聞いていたから、この使用人通路から入ろうとすれば、この有り様!! どう言うことだ!! 」

「にーしゃまの、けんくうろうぐにゃの。あぶにゃいろ? 」


 孔明と手を繋いでいた琉璃が声をかけ、罠から助け出そうと身に帯びていた護身用の小さな刀を出すと手を伸ばす。


が、男は、ばちーんっと琉璃の手を払いのける。

とそう返されると思わなかった琉璃の手から刀が飛び、とっさにもう片方の手で、刃を握ってしまった琉璃は顔を歪める。


「何をする! 汚い下賤で、不気味な小娘が!! この、高貴な私に触れようとするな!! 」

「ご、ごめなしゃいっ」


 怯えたよう項垂れる琉璃を、まるで化け物か何かのように蔑んだ目で見、再び罵倒しようと口を開きかけた男に、孔明は躊躇いもなく男の背中を蹴り飛ばす。


 宙に浮いているがかなり重い為、余り相手に痛みが伝わってないのが憎らしい。


「な、何をする!? お前は何者だ!! 私は……」


 悲鳴をあげる男に、もう一発腹に蹴りを叩き込み怒鳴り付ける。


「五月蝿い!! 何が高貴だ!! 綱から貴様を下ろそうと必死に手助けをしようとした琉璃に、よくそんな事が言えたな!! 琉璃!? 待って! そのまま屋敷に行こう。治療をしよう」


 孔明は傷にさわらないように抱き上げると、すたすたと歩き去っていった。




「月英! 義父上! いらっしゃいますか? 」


 その少々切羽詰まった孔明の声に、二人は出てきたのだが、途端に血相を変える。

 孔明に抱えられた真っ青を通り越して蒼白の琉璃の両手が、孔明の引きちぎられた袖で巻かれているのに、その袖からボタボタと血を滴らせているのだ。


「ど、どうしたんだ? 」

「どこかの使いでしょ。使用人通路に来てますよ。あちらの上でぶら下がっていたのを琉璃が助けようとしたら振り払って、琉璃の手が!! あぁぁぁ……血が、血がボタボタと、琉璃が死んでしまう。い、医者!! それより自分で診た方が良いかな。琉璃。そこの椅子に座ろうね? 」


 動揺する孔明だが、一旦落ち着き、月英が持ってきた布と水の入った桶に、黄承彦(こうしょうげん)が持ってきた集めに集めた薬草を選び出し、膝に座らせた琉璃にまず止血し、そして血まみれの布を剥がし刃物を握ったままの手を出す。


「ゆっくりと手を広げて、大丈夫。血は余り出ないよ」


 孔明の言葉に頷いた琉璃は、手を広げる。


 日に日に可愛らしく笑いかけてくれるようになり、


「お、おとうしゃま……きてくだしゃったのでしゅか? わぁぁ!! 琉璃に会いにきてくらしゃったのれしゅか? 嬉しい! だいしゅき!! 」


と、何か贈り物をと探し回っていた為、会いに行けなかった時に、息子が顔色を変えて駆け込んで来い!! と引きずられて行くと、目を赤くしていた琉璃がいた。

 どうしたのだ!! と、口にしかけた時にそっと孔明が琉璃に囁いた。

 振り返った琉璃は、ぱぁぁっと目を輝かせ駆け寄ってきた。

 琉璃が手を伸ばし抱きつき、本当に会えて嬉しいと素直に抱きついてくれるようになったあの日は、本当に忘れられない。

 血は繋がっていないとはいえ、愛おしい娘。

 そう……これは私達の子だと、愛した妻に何度も心の中で告げた。


 それなのに、娘の小さな手に食い込んだ刃を見て黄承彦は倒れ、慌てて月英が父親を少し離れたところに引きずって行き介抱する。

 その間に孔明は、刃物を持ち上げるようにして外し手当てを始める。


 そして、


「琉璃は、包丁以外の刃物は持たないように。良いかい? 持っちゃダメ」


 きつく包帯を巻いた琉璃の手を優しく撫で、


「琉璃の手が血に染まるのは嫌だよ。もう、護身用でも刃物は持たないで……良いね? 約束して」


 琉璃の瞳を見て、きっぱりと言う。


「れ、れも……にいしゃま。にゃにかあっちゃらやぁなの。にいしゃま。いにゃくにゃっちゃ、やぁの」


 必死に訴えようとして拳を握りかけた琉璃の手を包み、


「約束したよね? 一緒に歩いていこうって。私が先を歩くっていったのに、一緒がいいって。今日のあれは、琉璃が私を置いて行ったでしょ? そうしたらどうなった? 」

「……たしゅけよーとしゅたおいちゃんに、きたにゃい、げしぇんで、ぶきみにゃこみゅしゅめ……って、ゆわれて、てをペチーンされたにょ。紐をきってあげりゅつもりだったけりょ、びっくりしれ、手をはにゃして、あわててぎゅーしたりゃ、血がボタボタ……」


 琉璃の発言に、我に返っていた黄承彦と月英はみるみるうちに怒り狂う。


「な、何てことだ!! 可愛い琉璃にそんなことをするとは!! 」

「許せねぇなぁ……って、何だ!? 」


 部屋の外で、数人の人影がある。


「旦那様、若君様。劉家(りゅうけ)のぼっちゃまがお越しです……あ、あの、お待ち下さい。まだお支度が!! 」


 留める侍女を乱暴に振り払ったのか、何かが壁にぶつかり、ずるずると崩れる音がする。


 顔色を変える親子に、厄介な客が来たのだなと理解した孔明の前で扉が開かれ、大層恰幅の良い……と言えば聞こえも良いが、肥え太り脂ぎった男が現れる。

 後ろに数人いるのは従者か、もしくはその体を支える役を仰せつかっているのだろうか?


「やぁやぁ、久し振りです。叔父上。お元気そうで何より。それよりも、廊下や通路の血はどうしたんですか? それに正門の化け物、裏口の落とし穴のせいで、この我が、使用人通路を出入りする羽目になったんだぞ!? この下賤な血の入った叔父上お気に入りの妾(めかけ)の息子風情(むすこふぜい)が、この我(われ)に頭を下げずに何をしている!! おい! お前達、触るのも嫌だろうが、この妾の子供を土下座させろ‼ 」

「お止め下さい!! 月英は体が弱く、それに、だ、大事な跡取りです!! 景升(けいしょう)様には認めて戴いております!! 」


 必死に黄承彦が近づこうとするが、護衛に殴られ、はねのけられる。


「にゃにしゅゆの! 琉璃のとーしゃまとにいしゃまにひろいことしにゃいれ!! 」


 琉璃は怪我をした手を伸ばそうとするが、孔明が安全な場所に連れていき近づいていく。


「離して戴こうかな!! 」


 月英の頭を乱暴につかんでいた男の鳩尾(みぞおち)に肘をつき、そして顎を蹴りあげる。

 続いて月英の両腕をねじりあげていた二人にも、次々蹴りと拳を叩きこむ。

 それだけで、床に倒れた3人を見下ろし、


「この程度で護衛とは、死にたいようですねぇ? 」

「なっ!? 」

「それに、何でしょう? ここ黄家の御曹司(おんぞうし)を捕まえて、捕虜のような待遇をさせますか!? そんなことが出来るご身分ですか? 」


孔明は腕を組み、ゆっくりと近づいていき気づく。


「おや? 貴方は先程豪快にぶら下がっていた、馬鹿殿じゃないですか!! へぇ、馬鹿は馬鹿でしたね」

「な、な、な、何だと!? この我を誰だと思っている!! 」

「誰でしょうねぇ? 知りたくないので口にしなくて結構ですよ? それよりもどうぞ、お帰りを。お帰りは正面からおもちゃに見送られて下さいね♪ 」


 ニッコリ


 孔明は、出入り口を示す。


「それとも、先程の蹴りが気に入ったんですか? 変わった趣味をお持ちなんですねぇ? 」

「なっ」

「どもってばかりで、言葉になってないじゃないですか。それでは、言葉を教えて差し上げましょうか? 私の大事な嫁と違って、貴方に言葉を教えるのは億劫ですねぇ……という訳で、一つだけ教えて差し上げましょう」


 孔明は、ずるずるとその男を引きずり出入り口まで行くと、


「良いところのボンボンか何か知らないが、世の中して良い遊びと悪い遊びがあるのを知らないのか!! それに、ボンボンならそれらしく頭の良い老師を雇いやがれ!! ついでに頭冷やして、てめえが力を持ってるんじゃなく、親の七光りでしかないことに気づきやがれ!! このっ!! 馬鹿ボンボンが!! 」


と、蹴り飛ばしたのだった。

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