孔明さんの敬弟は腹黒ですが、やっぱり悪役度合いは低いです。※
器の中の毒は、孔明が確認する。
琉璃にはしなくてもいいと言ったが、孔明は薬学にある程度詳しい為、確認しておきたかったのである。
「……あぁ、この周囲で毒になりそうなのは、この部屋のすぐ外にあるそこの花の茎の毒。多分、北方で暮らしてた琉璃が口にしていない類いの毒だよ。季常は無造作に、さっととって絞り出して数滴垂らしたと……私は、ほんの少し含んだ程度で量も多くないから大丈夫だけど、多すぎると下痢に吐き気、数日間寝込む。しかし……」
口に含んだものを吐き、口の中をゆすいだ孔明は、混入した季常を見る。
「幼い、体の小さい琉璃や慣れていない人が飲んでたら、命に関わる量だよね? 季常は本気で琉璃を殺す気だったの? 」
「どうでしょう? どう思いますか? 敬兄」
ニコニコと表情の読めない季常に、孔明は大きく溜め息をつくと、腕を組みハッと蔑むように言い捨てる。
「季常は、毒しか扱えない訳? それにねぇ? そこらの毒薬この私が確認しないと思う? せっかく士元と外行ったんだし、その目をかいくぐって、暗殺用の無味無臭の毒位探して手にいれてみれば? で、自分で毒味。それで熱出すかのたうち回るなら面白いのに。今日なんて、『持ち合わせがありません。だから、そこら辺の草を使いました』って、行き当たりばったりで、計画性もないし単純。それで、『馬家の五常』? 『白眉』? 馬家の名が泣くね。残念。士元と旅に出たんだから、もっと面白い策略や計略を見せてくれるかと、楽しみにしていたのに……残念を通り越して、この程度で天才自称するとは片腹痛い」
「そうですか? 一応この毒、この家の全部の井戸に投げ込んでおきましたけど」
あっさりと、聞き捨てならない一言を返す季常に、周囲は蒼白になり、孔明と琉璃、季常を除いて部屋を飛び出す。
「……あれ? 冗談なのに。これ位で慌てなくても、良いと思いませんか? 」
「じょーらんらったら、しゅっごいいじわゆ。いじわゆら、このにーしゃ」
プリプリと頬を膨らませた琉璃は、季常を睨む。
「意地悪? 計略と言って欲しいね、お前、馬鹿だろう? 女としても価値がなくて、戦場で捨てられたガキの癖に……だっ? 何するんですか!? 敬兄」
「人の嫁に何を言う!! 琉璃は、お前には価値がなくても、私や諸葛家や黄家、龐家にとっては大切な存在で、とっても可愛いよ。お前の方が価値は低いね」
本気で季常の頭を叩き、ニコニコと笑いながら孔明は答える。
「全く、自分の価値も知らない上に、琉璃がどれだけの価値を持っているのか解らないとは、馬鹿だねぇ? 」
「失礼な!! 」
カッとなる季常に、孔明は部屋の外を示す。
「皆、お前の発言を本気にしたと思う? 」
「えぇ!! 当然でしょう!! 」
言い切った季常の前で、扉が開かれ現れる。
「残念。季常」
士元は嘲笑う。
その後ろには呆れ返った顔の一同が並ぶ。
「お前、忘れてたらしいな? 俺と一緒にここに来て、そこの花を掠め取っただけで、何もしていない。この部屋に入って、監視されてるのも気づかなかったのか? お前、孔明の嫁の琉璃のことを散々言ってるが、自分に関しては疎いよな? お前と琉璃の立場は、お前は危険人物として、琉璃は可愛い妹として、この家では認知されているんだぞ? 気づいてないのか? それこそ馬鹿だ。あんな事件起こしときながら、それでのうのうとここに何事もなく入れると思ってたのか? 」
「……っ!! 」
「と言う訳で、即刻退去。孔明、琉璃。悪い事したな」
季常の腕を掴み、ずるずると引きずって去っていった。
「敬兄!! 即効で離婚して下さいね!! 良いですね!! 」
季常の声に、嫌そうに孔明は、
「昨日結婚して、誰が離婚するの。誰が! 」
「楽しみにしてますからね!! 」
「しなくていいよ……じゃぁね?放浪して、戻ってこなくていいよ」
ひらひらと手を振る先で、士元が季常の頭を叩きつつ、言い争いをしながら去っていった。
「……あにしゃぁ……」
くいくいっと握っていた手を引いた琉璃は、長身の夫を見上げる。
「……いこんって、にゃぁに? 」
「えっと、昨日琉璃としたのが結婚式で、今まで繋がりのなかったお家同士の男の人と女の人が家族になる約束、だよ。で、離婚は、その約束を破棄……無かったことにすること」
その言葉に、泣きそうな顔になる琉璃に空いている手で頭を撫でる。
「大丈夫だよ。約束したでしょう? 一緒にいようねって。約束を破ったりしないよ。安心して」
「あ、あいなのっ。あんしんしゅゆの」
「良かった。嬉しいよ」
孔明は琉璃を抱き上げる。
「約束するよ。傍にいるし、琉璃に何があっても、私が助ける。琉璃が道に迷わないように、私が前を歩いていくからね。だから、琉璃はその後を着いてきて欲しい。私が星を見つめて道を探すから。だから、琉璃は怖がらないで私に着いてきて。どんなに困難な道でも、険しい崖でも進んでいくから」
「琉璃もいしょーが、いいにょ」
「じゃぁ、手を繋いで歩こうか? でもね? 一人で先に行ってしまわないで? 約束だよ? 誰にも相談しないで出ていったりしないで。お願い」
「はいにゃの、いしょーの」
孔明を見つめ琉璃が笑う。
その可愛らしい夫婦を、周囲は口を挟むことなく見守っていた。




