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破鏡の世に……  作者: 刹那玻璃
次男坊は琉璃の教育に力を入れていく模様です。
30/428

元直さんは大人しく口数の少ない生真面目な人のようです。※

 琉璃りゅうりをベタベタ甘やかせている孔明こうめいを見るのがイタイ士元しげんは、


「まぁ、オレはこの季常きじょうと旅の準備してくらぁ。元直げんちょく、お前は幼常ようじょう連れて水鏡老師すいきょうろうしの元に挨拶に行けよ。で、孔明、お前はそのちびと一緒に、伯父貴のところに行け。客人がいる」

「客人? 」

「そーだ。お前の姉上殿たちもいるな」


 季常を引っ張りながら、ヒラヒラと手を振る。


「諦めろよ~孔明。お前はもうすでに包囲されてるからな。逃亡出来ないぞ」

「は? 何のこと? 士元! 意味不明なことを言い残して去っていくな!! って、元直兄も、どうして逃げるんですか!? 」


 こちらは、幼常と共にそそくさと立ち去ろうとした元直を呼び止める。


「……今回は……きっと逃げられない、覚悟した方が……いい、と私は思う」


 振り返り淡々と、珍しく饒舌じょうぜつな語りを聞かせてくれた美声の主は、心底申し訳なさそうに、


「今回は、逃がすなと言われた。だから、あの光華こうか殿を連れていったんだ。済まない、孔明諦めてくれ。私の旅費と母や弟夫婦への土産物……晶瑩しょうえい殿に戴いたのだ……」

「あ、姉上が、元直兄を買収したんですか!? なっ、何考えてんだ!! あの人は!! 」


 孔明は、顔色を変える。


 元直は元々幼い頃に父親を亡くし、母親の手で弟と二人育てられている。

 人を殺したのも、当時世話になった人が殺され、敵討ちだったのだ。

 しかし、その為に国を追われ、剣を捨てて学問を志した。

 そして、苦学の末一人立ちし主を探しているもののまだ巡り会えず、仕方なしに、孔明のように老師の代わりに授業や写本にお使い等々で金を稼ぎ、そのほとんどを仕送りしている。

 そんな元直に、当然余分のお金はない。


 それを知り尽くした姉が、恩を押し売りしたに違いない。

 それなのに、目の前の元直は頭を下げる。


「済まない、私は不器用で、孔明のように器用に何でも出来ない。塾の講師の費用だけでは、実家に帰れなくて……」

「いえ、元直兄、私は兄を責めている訳ではなくて……」

「勉強も修め、何とかなると思ったが、私のような凡才がどうなる訳でもなく……」


 次第に落ち込んでいく生真面目な元直に、


「元直兄! 解ってますから!! 怒ってませんから、ですからしょげないで下さい。母上や弟さん達のお話は又、聞かせて下さい。私は行きますから、兄も幼常を連れて水鏡老師の元に挨拶に……元直兄! キリッとする!! 行ってらっしゃい! 」

「あ、あぁ、行ってくるよ、ありがとう。孔明、それと琉璃ちゃん、又ね? 」

「あ、あいっ!! にいしゃま、ま、またね……? 」

「今度、お話ししようね? 」


と、琉璃ににっこりと微笑んだ元直は、幼常の背中に軽く手を置き、歩調を合わせるようにゆっくり歩いて屋敷を出ていった。

二人を見送った孔明は、一気に脱力する。


「にいしゃぁ? だいじょぶの? 」

「う~ん、大丈夫じゃないかもしれない……けど、琉璃がいれば大丈夫だよ、きっと」


 心配そうな顔の琉璃の頭を撫で、微笑みかける。


「じゃぁ、仕方がないから、二人で行こうか? このお家は晶瑩姉上の嫁ぎ先で、時々お邪魔するんだよ。きっと、これからも琉璃が来ると思うから良く見ておこうね? 」

「う……は、はいにゃの! 」

「偉い偉い」




 この先で、どんな策略が襲いかかるか、二人は知らなかったのだった。

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