孔明さんと均ちゃんは大胆不敵に敵軍に乗り込みました。※
孔明は、弟の均を連れてそのまま、陣を作りかけている曹孟徳軍に向かう。
のんびりと河を上り、船とこぎ手を帰し、そのままスタスタと人混みをすり抜け、奥に奥に入っていく。
キョロキョロと周囲を見回す均に、孔明は、
「均……余りキョロキョロするな。不審がられるぞ?」
「平気平気。兄様の影にいるから見えない見えない」
「えっ!?太ったか!?痩せなくては!!琉璃に無様な姿を見せたくない!!」
真っ青な顔になる兄に、呆れた顔で、
「兄様……それ以上痩せちゃダメだよ?本当に骨と皮になるからね……益徳どのまでは言わないから、子明兄上程度までは太りなよ」
「と言うか……う~ん、余り食べられないんだよ、基本。それに、広はお腹すいた~って、口を開けるんだけど、統がねぇ……線が細いと言うか、遠慮すると言うか……余り食べなくて。あーんってやっていたら、他の子も口を開けて……皆にあげていたら、自分のを忘れてたり……琉璃が、余り最近食べなくて……心配なんだよね……」
「え~!もしかして……」
兄を見上げる。
「それはない。それに最近は、人に怯えて……」
「そうなの?僕には、そんなに……」
「家族は大丈夫。でももう、少しでも……そういう雰囲気が漂うと怖がると言うか、ビクビクするし……」
溜め息をつく兄に、均は、
「と言うか、兄様、子供の前でいちゃいちゃするじゃない。それにしばらく我慢しなよ。それに、循はのんびりだけど、玉蘭と喬は勘が鋭いし……もしかして、一緒に寝てたり……」
「してるけど?」
「えぇ!?一緒!?」
均は驚くが、真顔で孔明は、
「だって、子供たちを差別したくないからね。差別すると、特に玉蘭が泣いちゃうんだよ。一人の女の子じゃない?でも、兄弟と別なんて寂しいでしょ?もう少し大きくなったら、別々にするけど……う~ん。どういう組み合わせがいいかなぁ……循と玉蘭……と、喬と統……」
「何言ってるのさ。兄様。循と喬と、統と広。で、玉蘭と滄珠でしょ?」
「……そう、だけど……」
躊躇う。
「大丈夫だよ。早く取り戻そう……ね?」
「……そうだな……で、一体何時まで気付かないんだろうな?」
孔明は、最も奥にある部屋の前の、布を払いのけた。
「こんにちは。お久しぶりです……?あぁ、何度かお会いしましたね?蔡将軍」
「な、何……!?誰だ!?何者が……ん!?お前……は……黄承彦の護衛の……」
最も奥に威張りくさって座っていた男が、青ざめる。
「護衛?違いますよ?婿の諸葛孔明です」
「で、弟の諸葛均です!!投降しに来ました!!」
「は!?」
二人のあっさりとした言葉に愕然とする蔡瑁の横で、
「諸葛孔明!?」
その声に、孔明は顔を動かし、にっこりと微笑む。
「お久しぶりです?司馬仲達どの。ようやく背中の連弩の傷が、癒えた所ですよ?本当に大変でしたよ」
「そうだよ~?うちの兄様、まだやつれたままで、頬がこけるし、痩せてるのに、うりゃぁ、だよ?向こうの昏主を投げ飛ばして。恨んでるからねぇ!?」
均は、恨めしそうに、30代の男を見る。
「な、何をしに……!?」
「だから投降」
均は、持っていた書簡を持ち仲達に近づく。
「はい。これ、偽物じゃないよ?本物。つてを頼って貰ったんだって、兄様が」
「兄様!?諸葛子瑜……」
「あれは愚兄。私の兄様は、兄様だよ」
均は示す。
「それよりも読んでよ。面倒なんだから」
促され読んだ仲達は、げっと呻く。
「こ、これは……ほ、本当に……」
孔明に駆け寄り、見上げ訴える。
「こ、これは、本当に……」
「えぇ、本当です。投降を促され、色々とありまして、居づらくなりまして……弟と逃げてきました。妻と子供は、義兄に預けて来たので……」
飄々とする孔明に、頭を抱える仲達。
「どうされました?仲達参謀」
蔡瑁の言葉に、仲達が話すより先に、孔明が、
「実は……可愛い嫁の琉璃が、向こうの昏主、先代に二度程襲われて、相手側は謝罪一つせずに、その上家の実兄が差し出そうとして……」
「で、僕たちが半殺し?みたいな?ついでに言えば向こうの昏主も死んじゃったけど、その後も内部分裂してるから、その隙に出てきたんだ~」
「こ、こら!!均!!その情報は言っちゃ駄目だと!!」
慌てて孔明は止めるが、均は、ぼろっとどころかボロボロと喋りまくる。
「だって、僕、向こうの昏主嫌いだし~?それにさぁ……?周公瑾どのは、毒入りの杯をあおるし、それに、魯子敬どのは死んじゃったし……内部分裂だよ~?」
「こら!!均!?何でそこまでボロボロと情報を漏らすんだ!!私たちの投降の取引の情報内容を漏らしては、どうするんだ!?まだここは敵軍になるんだぞ!?どうするんだ!?」
「いいんだよ~。で、他に何の情報が欲しいの?話せるだけ話そうかな……?」
しゃべる気満々の均の口を押さえ、孔明は見る。
「で、この情報以外に、何か情報が欲しいですか?ついでに、策略も考えてますが……?如何ですか?この情報と、投降を引き換えに出来ませんか?」
「そ、それは……」
仲達が口ごもるが、孔明は微笑み続ける。
「仲達どの。では、確認と検討を、じゃぁ、私たちはどこにいけばいいでしょうか?」
「え……あ、あぁ、私の幕舎に……どうぞ」
仲達は答えると、蔡瑁を見つめ、
「では、私は、確認と監視を兼ねて私の幕舎に向かいます」
「では、また」
仲達の後を追い二人は歩き出した。




