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破鏡の世に……  作者: 刹那玻璃
次男坊は琉璃の教育に力を入れていく模様です。
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次男坊は一体どこまで何でも出来るのでしょうか?※

 昨日、孔明こうめいが受け取った書簡には、最後に紅瑩こうえいはしばらく龐家ほうけに滞在させ、静養させるつもりだと書かれていた。

 そして、家族に策略を用い毒を盛らせ、最終的には胎児の命を奪った季常きじょうは、丁度、襄陽じょうように戻っていた士元しげんに預けられ、士元と共に放浪の旅をさせることにしたと綴られていた。

 最後には、季常に依存しすぎる幼常ようじょうは龐家に預け、孔明が時々教鞭をとる水鏡老師すいきょうろうしの私塾で、徹底的に歪みのない真っ当な学問を学ばせる予定だと書かれていた。

 季常の、腹黒で策略が成功さえすれば自分以外の命がどうなろうと構わないと言う危険思想を、士元がどうやって矯正するのか知るつもりもないし、関わる気もさらさらないが、季常と幼常と共に琉璃りゅうりを連れて龐家を訪ねることにした。


 病弱、ひ弱な季常は本来なら馬車にでも乗っていたい所だろうが、ここには馬車が有る訳ではなく歩き、長患いからようやく全快した琉璃は、孔明が手綱を取る姉妹の光華こうかに乗っている。


 琉璃よりも早く治療の済んだ光華は、夜は良いだろうがずっとそのまま小屋に押し込めておく訳にもいかず、しばらく孔明は馬の調教の仕方や、新しく着けた手綱の扱い方を龐家の厩番うまやばんに習った。

 そして古く捨てる寸前だと言うくらを姉を通して、龐家の許可をとって貰い受け、琉璃の為に修理をして着ける練習を繰り返した。

 人間同様馬も、慣れないものに抵抗感は強いのだ。

 光華は賢い馬だが、やはり違和感と抵抗感に悩まされ、しばらくかかっていた。


「しゅごーい! 光華、かっこいいにょー! 」


 今朝、支度を済ませいてきた光華の姿に、琉璃は目を輝かせる。


「くりゃ、たづにゃ、そえにきえいきえいなの!! 」

「でしょう? 光華、綺麗だよね? 」


 琉璃を抱き上げ、光華に乗せた孔明は、


「今日は鞍が光華に負担にならないか確認だから、走らせないようにね? 手綱も余り馴れてないからね? 」

「あいっ! 」


 二人の会話に、


「鞍位買えば良いのに。それか、そんな名馬、面倒見るのに銭がかかるんだから、売り払えば良いんじゃないんですか? 売れば良い値がつくし、敬兄けいけいの空っぽの財布も潤うと思いますがね? 」


 バレた本性を隠そうともせず、人形のような笑みを浮かべる季常に、孔明はあっさりと、


「銭で何もかもが手に入ったり出来ると、思わない方が良いと思うよ? 荊州けいしゅうは粗悪品の銭が少ないけれど洛陽らくよう長安ちょうあん、そして北方は董仲穎とうちゅうえいたく)のばらまいた粗悪な銭が未だに流通している。銭を信用しないで物々交換しか出来ない事もあるし、物資が足りずに奪い合い、ただ一杯のスープをめぐって殺し合うことすらある。銭が大事なのは解るけれど、それで全てが解決すると思い込まないことだよ」

「ご説明ありがとうございます。他州は、そうなっていることは解りましたが、その馬に古びた鞍しかつけないのは、ただのケチですよね」


にっこりと笑う季常に、孔明は手綱を操りながら歩きだし、


「そうだねぇ。ケチと言うより倹約家と言って欲しいな? 何かあった時の為に貯蓄する。それが当たり前なんだよ?ねぇ、琉璃。その鞍嫌い? 」

「ううん!! らいしゅき! 光華キラキラきえいなの。この、キラキラなぁに? 」


琉璃は、鞍の刺繍を示す。


「ん? あぁ、月英が私の姉達の刺繍の教育の為に、沢山糸を持ってきてくれたけれど、残ってしまった糸を使って私が刺繍したんだ。『さん』と言う虫の糸だよ。とても良い糸で綺麗な色だから、光華にピッタリだと思ったんだ。琉璃はよく見てるね。凄いねぇ? たてがみを編んでくくった紐にも、同じ糸を他の糸に混ぜてみたよ。うん、良く映える。光華の美しさはこの国一かもしれないね。琉璃の言う通り綺麗な馬だからね」


 孔明は琉璃と光華を誉める。


「それに、光華? まぁ私が訓練しても平気だったとは言え、長時間の鞍は負担じゃないかな? 大丈夫かい? 」


 琉璃にとって、光華は姉妹だと言う。

 その為、琉璃に話しかけるように問う。


 実は孔明は、徐州で生活していた頃、乗馬をたしなんでいた。

 小さな町役人とは言え、何かあればその場に急行し、事件等を収集する為に役場には馬がおり、孔明も成長するに従い、父の仕事の手伝いの為に馬に乗っていた。

 琉璃と同じように、裸馬に乗ることも出来る。

 急いで現場に急行するのだ。

 鞍を置いている暇はないことも多い。


 その為、光華を今日のように街中に連れてきたりはしないが、早朝に丘を走らせたり、ある程度の調教をさせた。


 琉璃は野生児同然に育てられていた上に捨てられたが、光華は光華で、琉璃のいた軍で余り良い待遇ではなかったらしい。

 多分様々な自分勝手な田舎武将に、べんで服従させられるのを拒絶し、縛り付けられたり餌を与えられず放置し、光華の尊厳をズタズタにして支配しようとしていた者がいたのだろう。

 しかし、それすら拒否し、人間不信に陥りかけたところで最後に琉璃に会った。


 琉璃にとって光華は、同士であり姉妹。

 光華にとっても、琉璃は同じ。


 そんな二人を引き離せるはずがない。


「もし、疲れたら言うんだよ? 解ってるね? 」


 ブルン、ブルルッ……


 光華は大丈夫と言いたげに首を動かす。


「コイツ、馬の癖に態度でかい! 一人前に孔明敬兄こうめいけいけいに返事してやがる……いてっ、いていていて! 」


 幼常の一言に光華は腹を立てたらしく、髪を引っ張った上に背中に蹴りをお見舞いする。


「幼常。言ってなかったけれど、光華は均と月英に懐かない。姉妹の琉璃以外には従うのも嫌がる、自尊心の強い子だから、馬の癖にとか言わないようにね? もう遅いけど」


 苦笑する。


「あぁ、もうすぐ到着するね。琉璃、前に教えたご挨拶忘れないようにね? 」

「う、うんにゃにょ」

「『うん』、より『はい』ってハキハキご挨拶した方が、琉璃らしいと思うなぁ? 私は」

「あ、あい!! なの。あいっておへんじしゅゆの! 」


 慌てて言葉を直す琉璃の頭をよしよしと撫でながら、龐家の門をくぐったのだった。

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