表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破鏡の世に……  作者: 刹那玻璃
次第に戦いの風が赤壁へと吹き始めています。
260/428

循ちゃんはとても賢くて優しい少年です。※

とう玉蘭ぎょくらんの馬の訓練に、見本として乗った琉璃りゅうりの姿に、韓義公かんぎこう徐文嚮じょぶんきょうは頭を抱えた。


「ちょっと待ってくれないか……?琉璃どの、それは……」

「8才になるまで習った、馬に乗る技術です。えっと、おかしいですか?」


きょとーんと目を丸くして、首を傾げる美少女。

しかし、先程目の前で繰り広げられたのは、手綱を離し後ろ向きに立つと、逆さに一回転をした上に、飛び降りて駆けていく馬を追いかけるとそのまま飛び上がって、回転しながら鞍に乗る。

それだけではなく、鞍の上に立ち上がり、そのまま逆立ちをして、くるくるっと飛び降りて見せる。

子供たちは大喜びだが、義公と文嚮は言葉を失った……。


な、何なんだこれは!!

何もかもが違いすぎる!!

馬に乗ると言うと普通は、手綱を握り鞍に乗る……ではないのか!!


「……だ、誰に習ったんだ!?」

ひげ叔父と、虎叔父です」

「髭叔父、虎叔父と言うと……」


文嚮は、問いかける。


関雲長かんうんちょう張益徳ちょうえきとくのことか?」

「はい」

「……曲芸師にでも育てるつもりだったのか!?」


義公は唸る。


「えっと、並走する敵の馬に飛び乗って、攻撃とか……他には、飛び上がって蹴りを入れて、馬から落としたり……相手の馬を蹴ったり……してますね」

「してますって、今もしてるのか!?」

「はい。私は体力がない上に長時間戦うことは出来ません。なので短期決戦が必要なのです。その為に俊敏な動きに、判断能力をかなり鍛えました!!」


自信満々に言ってのける琉璃に二人は額を押さえ、こうを抱いた孔明こうめいを見る。


「おい、孔明。嫁の戦い方……直さなかったのか?」

「あれ位、可愛いじゃないですか。可愛い嫁に無駄な傷はいりません!!」

「いやいやいや……普通の戦い方とか……」


義公の問いかけに、孔明は、


「え?じゃぁ、夏侯元譲かこうげんじょう将軍と、まともに一騎討ちしろと!?琉璃は曹子孝そうしこう将軍と戦いましたけど、元譲将軍とは絶対無理です!!戦わせる位なら、ここの猿か公瑾こうきんどのを出しますよ!!」

「いやいやいや……そこまで要求してないし……」

「関雲長どのですか?それも拒否します!!私の琉璃に手を出すなら、その前に暗殺します!!」


キッパリと言い切った孔明に、顔を引きつらせる。


「暗殺って……味方を……」

「あれ、味方じゃないんです。ここで言う、猿にベッタリくっついて、増長するおっさんがたと同じですから。必要なければ即座に切り捨てる予定です」


真顔で言い切った孔明に……二人は、雲長が孔明を激怒させた内容を聞いてみたいような……聞きたくないような気がしたのだった。




その間にもじゅんきょうきんが、玉蘭と統に教えていく。

統は慣れてきている為良いのだが、まだ少し怖がっている玉蘭の馬を、喬が手綱を握りゆっくりと歩かせる。


「怖くないですよ。緊張しないで、回りを見て下さい。河の流れ、その音に、風……馬の足音……!?」


喬は身を翻し、玉蘭の後ろに乗ると庇うように抱き締める。

均も同様に統を、琉璃も駆け寄り循の体を抱き締め、孔明に義公、文嚮が子供たちを守るように身構える。

姿を見せたのは、周公瑾しゅうこうきんを先頭とした一軍である。


「……何をしている」

「そりゃぁ、こっちの台詞だ。猿の馬鹿部下!!」


義公は、自分よりも年下だと言うのに横柄な態度の公瑾に言い返す。


「私には、大都督だいととくとしての任務がありますからね。貴方方のように物見遊山ものみゆざんではないですよ?」

「はっ!?今さら、大都督?お前その地位を剥奪された癖に、何を言ってるんだ!?今すぐ戻って、猿の子守りに専念しやがれ!!」


しっしと追い払う仕草に、顔を青黒く染める。


「だ、誰に向かって……」

「猿真似しか出来ない馬鹿猿を増長させた、馬鹿!!顔だけだろうが!!しかも、自信満々なのは良いが、武力も頭も平均以下!!お前程度の男に大都督を任せる気はねぇな。なられても従うつもりはない!!。お前になられる位なら、孔明殿の方が大都督になってくれと俺は懇願するな!!」

「えーと。私は遠慮します~!!公瑾どのの後任は出来ません」


孔明の一言に、にやっと笑う公瑾を蔑むように、


「馬鹿の後任は、やりたくありません!!しかも、その後ろの兵程度を纏めたと自慢して欲しくないです。大都督なら、全軍を統率してこそ大都督!!出来もしないなら、名乗るな!!他の武将とも連携して、情報を共有して、指示を出してこそ、大都督!!そしてその間にも、次代の大都督となれる存在や、そして同じように武将を育てることも、大都督の職務!!それを放置しておいて、今さら名乗るな!!子供の前で恥をさらすな!!」


言葉を失う公瑾を、琉璃の腕の中から見つめた循は、


「……お父さん……僕や母様や玉蘭よりも、仲謀ちゅうぼう様の方が大事なんだよね?僕たちよりも大事なら、母様と結婚しなかったら良かったのに……。僕たち要らないんでしょう?いん以外。特に僕、要らない子なんでしょ?期待しないんでしょう?出来が悪いんでしょう?じゃぁ僕も、お父さん要らない!!お父さんに期待しない!!お父さんの子供になるより、僕は、孔明おじさんのお家の子になる!!お父さんなんて大嫌いだ!!」


循の声に、公瑾は目を丸くする。

循は、キッと父親を睨み付ける。


「孔明おじさんは、僕を良い子だって誉めてくれた!!気になったことがあって、でも、聞くのを躊躇っていたら、ゆっくりで良いよ?話して御覧?って優しく言ってくれた!!それでお話ししたら、凄い!!偉いよ!!賢いよ!!って抱き締めてくれた!!孔明おじさんは僕の目を見てお話を聞いてくれるんだ!!でも、お父さんは僕の話を聞いてくれない!!僕をずっと馬鹿にして、何とも思ってなかったでしょ!!僕は言わなかったけど、ずっとずっと……お父さんの事大嫌いだった!!本当はお父さんが、僕たちと仲直りしようって、話そうって言ってくれたり、本当にこの国を守ってくれるなら、孔明おじさんに誉めて貰った策略を言おうと思ってた!!でも、絶対言わない!!お父さんは人が頑張った事を見てくれない!!それか、それを自分の手柄にしてしまうんだ!!ずるい!!卑怯だ!!」

「……循……」


何時もの俯き、怯えたような……脆弱な息子とは全く違う循の姿に驚き、呟く公瑾に、唇を噛んだ少年は、


「僕の名前……知ってたの?初めて言ったよね?小さい頃は知らないけど、物心ついてからは呼んでくれたことないよね?何時も何時も胤と比較して、馬鹿だ愚かだって、罵声ばかり……僕は……僕は!!馬に乗るのは大好きだし、書簡を読んで勉強するのも大好きだけど……本当は、管弦を習いたかった!!お父さんと母様の琴瑟きんしつの音を聴くのが、大好きだった!!習いたかった!!でも、お父さんは一度だって聞いてくれなかったよね?胤には、何でも色々揃えたりしてたのに……僕には、何一つ……」


俯き、拳を握りしめた少年は顔をあげて、怒鳴る。


「自分の子供のことすら何もしない人間が、大都督なんか名乗るな!!息子一人の話しも聞かない人間が、自分勝手に何もかも押し付けるだけ押し付けて!!話しも聞かないまま、出来てないと決めつけて!!何が父親だ!!嘘つき!!胤には何でもあげてたのに!!僕が馬が欲しいって言ったら、『お前程度に馬はやれない』そう言ったよね?程度って何!?胤には、あげたよね!!」

「そ、それは……」


気圧されて、口ごもる……。


「胤にあげた馬はどうなったの!?胤が面倒見なくて、僕が代わりに面倒見てたのに、可愛がってたのに……目の前でお父さん、連弩れんどまとにしたよね!?『暴れ馬だから』って……。良い子だったのに……僕にはなついてくれて、甘えてくれるようになったのに……殺して、僕に食べろって……」


循は、父親を睨む……。

憎しみのこもった目で……。


「大嫌いだ!!僕の可愛がってたあの子を返せ!!僕に甘えてくれるようになってた……優しい子だったのに!!知りもしないで、見もしないで、勝手に殺すなんて許さない!!返せ!!何が、何が『美周郎びしゅうろう』だ!!自分の顔が自慢なら、自分の顔を一生眺めて過ごせば良い!!一人で一生鏡や、水面を見つめてればいいんだ!!馬鹿!!大嫌いだ!!」


わぁぁ……!!


泣きじゃくる。


「僕の、僕の……可愛い玲瓏れいろう……返せ!!僕の玲瓏……!!」

「……す、済まない……」


呟く、公瑾に、


「大嫌いだ!!嘘つき!!嘘つき!!僕のこと嫌いな癖に!!要らない子供だった癖に!!今更自分の子供扱いするな!!」

「そ、それは違う……」

「嘘つき!!僕は知ってる!!自分に都合が良い時には満面の笑みで、都合が悪い時には周囲をちらっと見て、左頬がひきつる笑顔を見せるんだ!!今だってそうじゃないか!!都合が悪いんだ。違わない癖に……大嫌いだ!!」


激しく泣きじゃくり始めた循を、抱き締める琉璃。

そして、冷たい眼差しで、孔明は、


「大都督失格どころか、親失格ですね。素晴らしい父親像を聞かせて戴きましたよ」


つかつかと近づくと、拳を振り上げ公瑾を殴り飛ばす。


「均!!」

「はいはーい」


馬に乗ったまま近づいた均は、背中に掛けていた『諸葛連弩しょかつれんど』を差し出す。

受け取った孔明は、地面に座りこみ頭を振っている公瑾に、それを突きつけ、


「さて、私の息子に愛馬を殺して食べさせた……。では、貴方には、どんなことをして差し上げましょうか……」

「……!?」

「貴方は、大都督の資格も父親の資格もない、ただの愚かな男です。とっとと去ると良い。そして猿の兄として、それなりに戦の邪魔をせず、大人しくしてて下さい……でなければ……これの餌食となりますよ?」


孔明の言葉に、公瑾は赤く腫れ上がった頬を押さえつつ、逃げていったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ