腹黒への仕返しは、腹黒い策略で倍返しをしましょう。※
「……という訳なのよ。ほんとに、やになっちゃうわ~」
弟たちの住む臥竜崗から、夫に勧められしばらく滞在をさせて貰うことになった晶瑩の嫁ぎ先、龐家に向かう馬車の中で、紅瑩は穏和な口調ながらも、ギリギリと持っていた暗器を握りしめた。
姉妹と共の馬車に、女装で乗り込んでいた月英はえげつない、最低な、卑劣な行為に顔をしかめ、つい、素の口調で問いかける。
「それ、どう考えても、季常の策略じゃねぇ?昔のお前なら、おりゃぁぁって仕返し三昧だろ? 」
何でしないんだと言いたげに、問いかける月英に、コロコロと笑う。
「決まっているでしょ、月英さん。私達の家の家訓は『お礼は二倍、やられたら100倍返し』よ。それにね?昔の亮なら季常さんの悪巧みは気にせず、聞き流していたでしょうけど、今は琉璃ちゃんに付きっきりでしょ? ……おほほ……あの、何度も亮に話しかけようとして全て流されたり、琉璃ちゃんの姿を見ただけで季常さん無視で駆けつけるでしょう? あの、季常さんの顔と見たら楽しくて堪らないわぁ」
おほほ……を通り越し、数年前のような馬鹿笑いをする紅瑩に、晶瑩は姉を見つめる。
「姉様。本当に何ともなかったの? 何か、隠してない? 亮に心配かけたくないのは分かるけれど、私も均も、月英さんも気づいていてよ? 姉様の顔が浮かないこと」
「……っ」
息を飲んだ紅瑩だが唇を震わせ、見る間に顔が歪みボロボロと涙をこぼす。
「姉様!! 」
「おい、紅瑩!? 」
二人はぎょっとするが、泣きながら告げる紅瑩の言葉に息をのみ、一瞬にして怒りを露にする。
「……ふ、2人目を身ごもっていたの……。私が口にしたその毒、子供を堕胎させる為の作用もある薬で……でも……」
旦那様が欲しがってた……女の子だったのよ。
わぁぁ……っと泣きじゃくる紅瑩を晶瑩が抱き締める。
「お、落ち着くまではと、旦那様以外には……だ、黙って……、亮に均に本当は、報告も兼ねてたの、な、なのに」
普段はお転婆でおおらかな紅瑩の弱々しい姿に、晶瑩共々花嫁になる為の英才教育を施した月英は、ブチキレる。
「……アイツぶん殴っても飽きたらねぇ……。あの馬鹿が策をもてあそんで、紅瑩を傷つけたんだな!! 許せねぇ……一回ぶん殴ってやるか、もしくは……そうだ! 」
顔を上げ、二人……特に晶瑩を見る。
「晶瑩。手を組まねぇか? あの馬鹿がいる邸になんて、紅瑩戻したくないだろ!? 」
「えぇっ! 当然だわ。私達の姪っ子を死なせてしまうなんて、義弟の風上にもおけない!! ……でも、月英さん。亮は馬鹿のように心が広いし、一度受け入れたら、無理よ? 」
「大丈夫だ! オ……私に限ってあり得ないわ。何年孔明と付き合っていると思ってらっしゃるの? 5年よ、もうすぐ5年! 解らない訳ないでしょう? あの季常と、私を同じにして欲しくないわぁ」
久しぶりの月英の高笑いに、二人は顔を見合わせ、そして、紅瑩は口を開く。
「あのね? 実は、泣き寝入りも黒幕が傍でうろちょろするのも、作り笑いされるのも嫌になっちゃったから、こちらに来る前に、旦那様宛に書簡を残しておいたのよ。あぁ多分、今馬で横を通りすぎているのは、家の早馬ね」
横を余りにも早い速度で、
「申し訳ありません!!緊急時の為、ご挨拶も出来ませんが、通らせて頂きます!!」
声を上げながら通り抜け、この丘に一軒しかない家を目指して走り去っていく。
「あら、いつもは優柔不断でのんきな旦那様なのに、こんなに急ぐなんて、私と月英さんのお友達書簡を、盗み読みするのに飽きたらず、その上に書きかけにしていた薬に詳しい亮と月英さんに送ろうとしてやめたものを読んじゃったのかしら……あら、困ったわ。季常さんが例の義理の姉上の侍女の方と関係があったこととか、書いてしまっていたわ」
頬に手を当て、口調とは裏腹ににやっと笑って見せる。
「それに、亮に聞こうと思っていたのよ。季常さんの薬草園の中に、数種類、亮がけして触らないようにって言っていた、毒薬があったのを……書きかけた時に、馬車の準備が出来て、慌ててし舞い込んでしまったから……閉め忘れたんだわ。どうしましょう? 」
若奥様らしく首をかしげ、女性としての立ち居振舞いを習った月英を見る。
「月英さん。私、最近はとても、頑張っているつもりだけど、ごめんなさいね? 最後の最後がこうなるとは、恥ずかしいわ」
「良いのよ、紅瑩は頑張っているわ。私だって閉め忘れくらいあるもの……でも、相当焦った使いだったわね。どうしましょうか?あの季常の表情の変化を見に戻ろうかしら?」
その言葉に、首を振る。
その横で晶瑩が、
「見苦しい言い訳を聞くのも嫌だわ。それに、あのく……あら嫌だわ。クソガキなんて乱暴な言葉使うつもりはなかったのよ。そう、あの季常さんなら、亮をあっさりと言いくるめてしまいそうね……大丈夫かしら? 」
「そうねぇ、でも亮には普段から月英さんと均に、最近になってだけれど琉璃ちゃんもいるから大丈夫ね」
「そうねぇ、ビックリしたわ、あの子。普通の流浪の孤児じゃないわよ。姉様が投げた石を瞬時に払いのけるんですもの。それに、一瞬にして季常さん敵認定してしまったものね」
目を丸くする2人。
「そうなのよ、あれには驚いたわ。私の腕が鈍ったのかと思ったもの。でも、ここで色々話しても仕方がないわ。それよりも、均から後で話を聞くほうが、何倍も面白いと思うのよ。そう思わない? 晶瑩」
「そうねぇ……」
晶瑩は考え込むが、すぐに頷く。
「後の方が良いわ。それに、私たちが悋気を起こしたと思われるのも嫌だわ。それに季常さんよりも、私たちの方が立場が上だと思い知らせたいわ、姉様? 」
「そうよね!! ねぇ、月英さん、どうかしら? 」
二人の視線に月英は頷く。
「それは、良いと思うわ。それとね? 良い考えがあるのよ」
手招きをする月英に顔を寄せた2人は、こそこそと囁く月英の言葉にしばらく聞き入り、そして、顔を見合わせ頷いた。
「それは素晴らしいわ!! 」
「良い策だわ。江東にいるあの変人兄は放っといて、義母様もお喜びになるわ!! 月英さん、天才よ! 」
2人は喜び、そして、月英は今までさんざん利用され続けた恨みを晴らしてくれようと、細かい策略を膝を付き合わせ話し始めるのだった。




