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破鏡の世に……  作者: 刹那玻璃
次第に戦いの風が赤壁へと吹き始めています。
247/428

孔明さんたちはようやく笑顔を浮かべられるようになりました。※

孔明こうめいは最初、陸伯言りくはくげんの屋敷に送られる筈だったのだが、後を追ってきた呉国太ごこくたい尚香しょうこうに勧められ、呉国太の屋敷に滞在することになった。

それを決めたのは、気絶している間の子明しめい子瑜しゆだった為、目を覚まし、見知らぬ場所に一瞬混乱したが、よしよしと頭を撫でる兄と弟、そして手を握ってくれていた妹に気がつき、微笑む。


「お早うございます……兄上、きん珠樹しゅじゅ


弱々しいものの笑いかけてくる孔明に、子瑜しゆは、


「無理しないんだよ。私が今更言うのも何だけど、りょうは頑張りすぎる。少し力を抜きなさい」

「兄上に言われても困るよね?兄様?でももう少し、ゆっくりするといいよ。あ、琉璃りゅうりは寝てるよ」

「えっ!?ど、どこ!?」


弟の言葉に狼狽える孔明に、珠樹は兄を示す。


「そこですよ。兄様、ここにくる前から、琉璃姉さまのことばかりぶつぶつと呟いていて、姉さまがきょうちゃんたちを連れて駆け込んでくると、もうぎゅっと抱き締めちゃって、そのままですよ?」

「あれ?本当だ……。琉璃……寝てる?」

「起きてるよ。さっきからモゾモゾしているでしょ。琉璃。いつまで頑張っても、兄様の怪力には敵わないんだから諦めることだよ?」


均の言葉に、孔明は腕の中で動いている妻に、


「琉璃!!おはよう!!良かったよ!!いなかったらどうしようと思った~!!」

「あ、あの、あの……だ、旦那さま……。御兄様や御姉様が……」

「やだー。琉璃が居ないと駄目!!」


妻にわがままを言う姿に、食傷気味の均は、


「兄様!!我儘駄目でしょ?喬たち、今、子明しめい兄上が面倒見てるんだよ?子供の前で、それは止めない?」

「でも、今日は琉璃とだっこしたいんだ!!琉璃とベタベタの日なんだよ、今日は!!」

「……亮って、どこまでいつまでたっても、新婚気分なの?」


子瑜の呟きに、


「昔からだよ。もう、琉璃に甘えっぱなし。琉璃?もう少し兄様にお説教して、ベタベタさせないようにしなきゃ駄目でしょ?もう6才と5才と3才の息子の前で!!情操教育に問題ありだよ!?」


均は説教するが、ちょうど現れた子明と子供たちの中で、


「お父さんとお母さんが仲が悪いと、とうが一杯心配します。均叔父上。お父さんのしたいように……お父さんとお母さんが仲良しでいいんです。家は、それが普通なんです。ね?統もこうも、仲良しのお父さんとお母さんが良いよね?」


喬の言葉に、二人は大きく頷く。


「はい!!お父さんとお母さん仲良しで嬉しいです!!ニコニコ笑うお家がいいです!!」

「おとーしゃんとおかーしゃん一緒!!こーたちも一緒!!」


二人は大きく頷く。


「これだから……」


やれやれと言いたげな均が、


「はい。兄上宛になってるけど、兄様に便り。読んで?辛いなら、僕が読むよ?」


差し出されたのは、3つの書簡。


「……士元しげんに……月英げつえい!!……それに……それに、元直げんちょく兄……!!良かった!!良かった……無事だったんだ!!」


涙をにじませる孔明に、子瑜は、


「月英のは土地の情報、荊州けいしゅうとはちがい、悪銭あくせんがかなり横行していて、扱う商品は多いけれど、銭を使って商売はかなり難しいらしいよ」

「そ、そうなんですか……」

「それ以外は私信だから、さっと目を通しただけで読んでない。それと、不気味なのが士元どの……あれ、何?」


不気味そうに示した書簡を、まず取ると広げ、覚悟を決めて読むと……、


「はぁ!?」


目を丸くして、叫ぶ。


「子供ができたあぁ!?あの士元が、デレてる!!デレてる!!」

「えぇ!?僕、聞いてないよ!?」


均が告げると、


「何か叔常しゅくじょう……じゃない球琳きゅうりんどののつわりが酷くて、紅瑩こうえい姉上があれこれ手伝ってくれてるらしい。しかも、球琳どのが酒の臭いが駄目になったからって、あのっ!!あの、士元が酒止めたって!!雨降る……嵐が起きる!!絶対だ!!」

「……いやぁ……亮にいに言われた方も、可哀想じゃないか……!?」


子明の言葉に、孔明と均が首を振る。


「本当だよ!?『鳳雛ほうすう』って言うより『放蕩ほうとう』と『放浪』、毒舌に、酒飲みながらじゃないと仕事できるか~!!ボケ~!!とか怒鳴り散らす士元だよ!?」

「そうだよ!?頭が物凄くきれるけど普段は片手に酒!!反対は筆!!それで書簡読みながら、出入りする部下にあれこれ命令だよ!?声だけで誰か判断だよ!?この兄様より仕事こなすんだよ!?……まぁ、兄様は背中に連弩れんどで射ぬかれた傷もあって、熱で朦朧としてたけど……」

「いやいや……亮にい。そんなときは、休めよ!!」


子明の突っ込みに、孔明は、


「だって、士元は悪いけど判断基準が厳しいんだよ。元々参謀系で内政には余り向いてないし、しかも、次々仕事与えて……何人か一睡もせずに食事もとらずに仕事して、倒れちゃって……。季常きじょうは内政派だけど熟考してしまって進まないし、幼常ようじょうは迂闊で、いつも『季常兄上、これどうしよう……?』とか聞きに行って、季常の集中力を途切らせて、季常は書簡投げつけて癇癪起こすし、幼常は私に『季常兄上が怒った~!!どうしよう……?』だよ?もう、休んでられなくて……」

「……どこのガキなんだよ、その幼常ってのと季常ってのは……」


呆れ返る子明に、孔明は真顔で、


「私のお馬鹿な敬弟けいてい馬季常ばきじょうと弟の幼常。士元は、『鳳雛』龐士元ほうしげん。奥方は季常の姉上の球琳どの。球琳……というよりも叔常どのという方が有名なのかな……季常よりも賢くて、琉璃程ではないけど、強い。凄く優しい、琉璃のお姉さんだよね?」

「はい!!凄く凛々しくて、優しくて、強い御姉様です。赤ちゃん……嬉しいでしょうね……。士元御兄様は凄く喜んでいるんですね……良かった」


微笑む琉璃に、はっと子瑜と均と珠樹、子明は思ったものの、孔明が、


「男でも女の子でも、叔常どのに似てると良いと絶対に思う!!士元の瓜二つなんて最悪だ!!」


言い切る。


「絶対士元には似て欲しくない!!」

「まぁ……あの士元兄さんに似ると厄介だけど……叔常どのに似ると、美少年……女の子でも美少年……それも考えないと……」


均の呟きに、孔明は、


「士元よりまし!!……所で、均。士元がやってたあの策略どうなったの?」

「んー……士元兄さんの希望より、ずれたみたいで……季常が、徹底的にさく関平かんぺいどのに武将としての心得を叩き込むとか……言ってるみたいで……。姉上がやったやり方を踏襲して、逃亡する関平どのを追いかけて、頭突きに投げ飛ばしと、『お前なんて愚弟だ!!それのどこが女性だ!!お前は男!!そのつもりでいるからやれ!!』とか、ブチキレてたりしてるよ。何か吹っ切ったね。結構真面目に速く仕事を済ませるようになったみたい」

「へぇ……吹っ切ったのか……まぁ、今までにやって欲しかったけれどね……遅すぎる」


冷たい声で呟くと、続いて、義兄月英の書簡を読む。


「……ねぇ、琉璃!!琉璃に妹か弟が生まれるんだって!!義父上と義母上……凄く、琉璃に見て欲しいだって!!琉璃のように可愛い女の子が欲しいだって!!」


夫の弾むような声に、恥ずかしさの余りに掛け布の中に潜り込んでいた琉璃は顔をだす。


「えっ!?」

「ほらほら!!」


示された箇所を読んだ琉璃は、涙を浮かべる。


「良かった……お父様とお母様、お兄様方もお元気なのですね……良かった……」

「当たり前だ!!仕事に趣味に、情報収集!!それと琉璃と孔明たち皆を含む家族を守るのが、お兄様の役目だ!!」


今まで部屋の隅で大人しく控えていた女官が顔をあげる。


「げ、月英!!」

「えぇ!!本物!!」


孔明と均が叫ぶと、明るい茶色の髪の美貌の持ち主が、にっと笑う。


「心配してたぜ!!孔明、均に琉璃!!」


呆然とする兄弟の横をすり抜け、琉璃は女性……兄だという……人物に抱きつく。


「お兄様……お兄様!!……ふぅぅあぁぁん……!!」


糸が切れたように泣きじゃくる琉璃を抱き締め、月英は、涙を浮かべくしゃっと妹の長い髪を撫でる。


「琉璃……偉かったな……よく頑張った。さすがは兄様の妹。自慢の妹だ!!親父どのも母上も、碧樹へきじゅも琉璃を心配してた。良かった……お前に本当に会いたくて会いたくて、こうやって抱き締められるとは……思わなかったよ」


どう見ても美貌の女官にしか見えない月英を愕然と見つめるのは、子明と統と広。


「子瑜兄上……兄上!!あの人、あの人は……」


こそこそと囁いた子明に、平然と、


「琉璃の兄、黄月英こうげつえいだよ。私より3才下だから、子明どのとそう年は変わらないね。知らない?荊州の豪商の黄家」

「知ってます…え?琉璃どの、黄家のお嬢様!?」

「そうといえばそう。本当は養女だけど、ご両親に月英は実の妹のように可愛がっているんだよ」


子瑜の言葉に、月英はちらっと視線を動かす。

その仕草は、子明が信じられない程、動きは優麗で微笑みは色気を放つ傾城傾国……。


「子瑜兄さん……家の琉璃、苛めようと画策してたんでしょう!!本気で仕返ししますよ!!」

「そ、それは止めて!!御免なさい!!本気で御免なさい!!反省してたの!!本当にここに来させるんじゃなかったって!!だから!!」


必死に訴える。


「本当だよ!!本当に……だから!!作った道具の実験台は止めて!!私は体力ないし、本当に無理!!本気で御免なさい!!」

「もう一度したら、均と二人で、子瑜兄さんを滅多うち!!」

「うわーん。怖いよ!!子明どの!!助けて!!」


子瑜に引っ張られ、前に押し出された子明は、


「あ、あぁ、ご挨拶がまだで申し訳ありません。私は呂子明りょしめい……諸葛家の珠樹の夫で、この江東の者です。年は31。よろしくお願いいたします。兄上とお呼びしても宜しいでしょうか?」


深々と頭を下げる子明に、月英は一瞬目を見開き、微笑む。


「このような姿で申し訳ありません。私は黄家の次期当主、黄月英……。妹の琉璃と弟の孔明が大変お世話になりました。感謝致します」

「えっと……普段から、そのような姿を?」


子明の問いかけに、真顔で、


「楽なんですよ。元々女性として育ちましたので。孔明たちの姉二人に均に琉璃の礼儀作法全般は私が」


言い切った一言に、一人だけ違和感のある名前に気づき……。


「あ、姉上たちと琉璃どの……ですよね?」

「いいえ、均もです。今じゃもう無理ですけど、均は17位まで女装していたので。私は完璧主義!!女性は可愛く、優雅で礼儀正しく、微笑むのが一番!!琉璃はすぐに出来たんですけどね……出来なかったのは、自分から甘えるのと、孔明をタラシ落とせ!!でしたが、無理でしたね……残念」

「タラシ落とせ……って……」

「孔明は頑固で、幾ら熱を出しても動き回り、でかい図体でうろつき回り鬱陶しいので、琉璃に『旦那さま、一緒にお昼寝しましょう?』と、言わせたけれど、琉璃の方が先に寝つくので……まだまだだと……どうだ?琉璃。孔明に勝てるようになったか!?」

「えっと……」

「……無理か……ちっ!!孔明にもっと迫れ!!大丈夫だ!!琉璃ならやれるぞ!!」


どんな声援だと思いつつ、これが諸葛家なのか……ついでに自分もこの中に含まれるのか……と遠い目になった子明だったのだった。

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