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破鏡の世に……  作者: 刹那玻璃
心配症なお兄ちゃんたちが、孔明さんたちにはいます。
222/428

孔明さんの義理のお姉さんもかなりのつわものです。※

 きょうが熱を出した。


 喬は元々それ程丈夫な方ではなく、昨日弟たちと遊んだ後、汗をかいたまま寝入ってしまい風邪を引いたらしい。

 久々でも、孔明こうめい琉璃りゅうりには何時ものこと、しかしとうこうには初めてのことで……。


「やだぁ……やぁだぁ!! 」


 駄々をこねる喬。


しょうに一人でねんねしない~!! お母さんと一緒!! 」


 琉璃の衣の袖を掴み、ぐいぐい引っ張る。


「お母さんとねんねする!! お父さん、向こういくの!! 」

「喬? そう言って、お薬飲みたくないんでしょう? ダメダメ。ちゃんと飲みなさい。じゃないと熱が下がらないよ? 」


 めっと孔明がたしなめると、


「やぁだぁ~!! 苦いもん。僕嫌い!! うわーん」


 ぎゃんぎゃんと泣きじゃくる喬の姿に、実の両親である子瑜しゆ玲衣れいも驚き、目を丸くする。


「お薬、やだもん。嫌いだもん。飲みたくないよぉ……お母さ~ん」


 琉璃にしがみつき訴える。


「お母さん、お薬、苦いの飲むの嫌だよね? お母さんも好きじゃないもんね? 」

「そ、そうねぇ……お母さんも……」

「ほらぁ!! お母さんも言ったもん」


 喬は孔明を見上げる。


「お母さんも好きじゃないって。だから……」

「駄目。お口あーんしなさい」


 孔明は促すが、嫌々と首を振る。


「琉璃は駄目だから……兄上!! 喬の頭を押さえて下さい!! 」


 弟の突然の言葉に、子瑜は、


「えっ!? 私!? 」

「もう、喬は頑固なんです!! 飲めばすぐに熱が下がるのに、ぐずぐずするから長引くんです!! 即飲ませて眠らせます!! 手伝って下さい」

「え、えぇ……!? 」

「やだぁ!! 父上、お父さんの味方するの嫌い!! 」


 ぎゃぁぁん……


と激しく泣き出す。


 養子には出したが、可愛い息子の嫌い発言に衝撃を受ける子瑜。

 しかし、強者つわものはいた。

 子瑜の横からスッと出た玲衣は、喬の耳元に囁く。


「喬ちゃん。お熱が出てしんどくて、苦い薬も嫌なのも解るけれど、飲めば一瞬よ? 今頑張って飲んだら、統ちゃんと広ちゃんに『お兄ちゃん凄い!! 』って思われるわよ。でもこれ以上嫌がれば『お兄ちゃん弱虫!! 』って言われますよ。カッコ悪いお兄ちゃんって呼ばれたいの? 」


 その言葉に、ピタッと抵抗をやめる。

 そして、ちらっと弟たちを見て、涙目で、


「お、お父さん……僕……お薬、飲む……」

「偉い!! 喬」


 孔明は、薬湯を飲ませて、その後干し果実を食べさせる。

 苦味が舌をヒリヒリさせるのか、ひっくひっくとしゃくりあげていたものの、泣き疲れたせいもあり少しして眠ってしまう。


「……まぁ、2日3日は、休ませないと……」


 孔明は、喬の顔をぬぐい、まだ熱い額を撫でる。


「で……所で姉上。喬は何時もかなりぐずるんですが、今日はすぐに飲んでくれて助かりました。どんなことを言ったんですか? 」


 すると、孔明と琉璃、子瑜に聞こえる位の声で囁く。


「『統ちゃんと広ちゃんの前で、お兄ちゃん凄い!! 』って思われたくないの? それとも、『カッコ悪いお兄ちゃん』って呼ばれたいのって言ったのよ」

「……!? 」


 3人は硬直する。


「あ、あの……姉上。もしかして……」

「家のかくちゃんは、変な理屈こねて、我儘言い回るから制裁!! だけれど、喬ちゃんはその点素直でお利口さんだから、分かりやすいのよねぇ。それに、りょうさんや琉璃さんが真っ直ぐに育てているから、余計に……」


 コロコロと笑う玲衣。


「でも、今位よ? 『お薬、やだぁ』は。喬ちゃんは、余り我儘言わない子だし、思う存分聞いてあげると良いわ」

「は、はい。そうですね……ん? どうしたの? 統と広? 」


 様子を窺っていた二人は、父親に近づくと、


「お薬……お兄ちゃんがあんなに嫌がる位苦いの? お父さん。僕が、この間まで飲んでいたお薬よりも、もっともっと? 」

「こー、にがいにがいのやだぁ……」


 ちなみに統が飲んでいたのは、主に疲労を回復させる効果のある薬湯で、喬が今飲んだものとは違う。

 しかし、そこまで詳しく説明すべきか……そうして薬を嫌がられたら、今度、二人が風邪を引いた時に困ると、顔をひきつらせた孔明の横にいた子瑜が、


「統に広。お薬はね? 体に良いものだけれど、お薬の元になる薬草は色々な味があって、混ざると苦くなったり、酸っぱくなったり、辛くなったりするんだよ」


 その言葉に、特に広は泣きそうな顔になる。

 ハラハラする孔明を尻目に、生真面目な口調で子瑜は続ける。


「でもね? その代わり、薬が効いたらすぐに良くなる。今、喬が我慢して飲んだのは、体を早く治すから統と広に心配しないで、大丈夫って言いたかったんじゃないのかな? 苦かったけど頑張って飲んだんだから、早く良くなるよ。元気になったら、また喬と遊ぶと良いよ」

「本当? 伯父さん。お兄ちゃん、元気になる? 僕と広が昨日お兄ちゃんに無理させたから……もう遊んでくれなくなったりしないかなぁ? 」


 二人、特に統は、兄の熱を自分達が振り回したせいだと思っているらしい。

 その言葉にも、子瑜は首を振り話す。


「喬は、小さい頃から……伯父さんのお家にいる頃から、季節の変わり目とか、急に寒くなったりとかすると熱を出してたよ。でも、その頃よりも元気だし、う~ん多分ね、荊州けいしゅうと、空気が違う江東こうとうの風のせいだよ。二人のせいじゃない。だから、心配しないで」

「はい!! 伯父さん。僕、お兄ちゃん大好きだから、早く元気になってねってお願いしに行ってきます。お兄ちゃんが良く空を見てるから、空にお願いします」

「こーも!! きょうにーたんだいしゅきらもん!! おしょらにおねがいしゅゆ!! 」


 二人は手を繋ぎ、庭に出ていった。


「統と広は……いい子達だねぇ」


 その背中を見つめ見送っていた子瑜は呟く。


「喬はいい子に育ったし、良い弟たちに恵まれたね。良かったよ。亮や琉璃のお陰だ」

「兄上と姉上が、慈しんでいたからこそです。素直で頑張り屋で……少し意地っ張りですが、可愛い息子です」


 孔明は、息子の頬を撫でると振り返り、兄を見る。


「でも、兄上? 昔、喬に変なこと教えてましたね? 今でも恪や他の子達に教えてたりしてないでしょうね? 駄目ですよ!? 」

「何のこと? 」


 解っているが、知らぬ振りをする兄に、


「しらばっくれないでください!! 喬が言ってましたよ!! 『おとーしゃんは亮ってゆーの。おかーしゃんはいにゃいの』とか『きょうはかくしごにゃのよ』とか、もう……琉璃の父上の承彦しょうげんさまには嘆かれるし、士元しげんはあちこちに嘘の噂を流していくし……琉璃はしばらく、物陰でしくしく泣くし……何回も繰り返して、お父さんは私、お母さんは琉璃って覚えさせたんですよ!! 」

「だって、面白かったんだもん!! 」

「何が『だもん!! 』ですか!! 35になる兄上が言っても可愛くありませんよ!! それに、そんなことを覚えさせたから余計に、恪とも仲が悪くなったんじゃないんですか!? 」


 甥に嫌われていても、やはり心配する孔明であるが、兄夫婦は揃って、


「昔からだよ? 恪が喬を苛めてたのは」

「あの子、遊び仲間の子供たちに『弟と違って、『孫子そんし』も覚えてないのか』って言われて、癇癪起こして石投げてたのよ。で、比較される喬ちゃんに意地悪をしてたのよ。喬ちゃんは体が余り丈夫じゃなかったし、恪ちゃんが追いかけ回して、河に突き落としたりされて良く泣いてたわねぇ……で、風邪引いて寝込んで……元気になったら又……。もう、恪ちゃんを同じように河に突き落とそうと、何度も思ったわぁ」

「いやいや、玲衣。君、恪を突き落としたでしょ? と言うより、投げ込んだ……」


 子瑜の言葉に、孔明と琉璃は義理の姉を見る。


「違います!! 投げ込んだんじゃなくて、船で河の中程に行って、綱を腰にくくりつけて、放り込んだんです!! 泳げ!! って、ちなみに冬です」

「えっ!! それ聞いてないよ!? 玲衣。私が聞いたのは、冬は冬でも櫂のない小舟に乗せて、沖に蹴り飛ばして、泳いで帰れって……」

「それもやりましたわねぇ……懐かしいですわ……恪ちゃん、最近は私の前では悪だくみしなくなっちゃって……つまらないこと」


 余りにも残念そうに言ってのける玲衣に、


「あ、あの……姉上? 冗談、ですよね? 」

「あら、江東は河の街でしょう? 泳げないと大変なのよ? だから泳ぎの練習と、いたずらの罰の一石二鳥!! 」


 あっけらかんと言ってのけた姉を……孔明は、


『やっぱり、兄の嫁になれる人だ……』


と、思わずにはいられなかったのだった。




 そして、喬は孔明の見立て通り、3日で元気になり弟たちと遊べるようになったのだった。

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