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破鏡の世に……  作者: 刹那玻璃
赤壁への道は遠すぎず、又近くもないようです。
213/428

孔明さんと江東の二大参謀の邂逅です。※

 嬉々として、孔明こうめいは戦いの前にせんを集める説明をする。


「……と言う訳です。皆さん解りますか? 」

「おいこら、お前……うちの軍を本気で馬鹿にしてないか!? 」


 仲謀ちゅうぼうの文句に、真顔で、


「えぇ、そうですねぇ。家の6才と5才の息子ですら、思い付く単純な作戦ですよ? なのに、住んでいる人が思い付かないなんて、変でしょう? もっと考えませんか? ついでに気象、星見、気候……色々あるでしょう? それも見てない。父親が武将だから、息子も武将に? そんな訳ないでしょう。普通見ませんか? そして適材適所、武将も個性があるんです。その個性を見抜いて置いていく。貴方の兄上や父上の時代とは違うんですよ!! 配置替えをする。戦闘のやり方を変えるとか、周公瑾しゅうこうきん大都督だいととく一人に責任を押し付ける? どこの時代の話です? ……もっと考えましょう。知識は貯めるものではなく利用する……応用するものですよ」


 その言葉に、参謀さんぼうの卵たちはグッとつまる。


「それに頭の固い柔軟性のない人に、戦を語って欲しくありませんね。戦場に出ない参謀など、下の下!! それなら、兄……いえ、諸葛子瑜しょかつしゆどののように、『私は文官でっす。何にも知りませんので、裏方頑張ります!! 』と嘘ついて下さい。その方がましですよ」

「嘘!? 」


 周囲がくるっと振り向く中で、子瑜は、


「何でばらすの……折角隠してたのに!! 」


 ブーブーと弟に文句を言う。


「まぁ、子瑜どのは、『孫子そんし』も『六韜りくとう』も修めてますが、特に籠城する敵をこてんぱんにする、『墨子ぼくし』の戦術に長けてます。そこらの参謀顔負けですよ」

「止めてくれる? りょう。私は、文官のロバでいいからさぁ……」

「何がロバです。なら、これは猿でしょ。父親と兄の物真似しか出来ない、猿!! 私と同じ年なら、いつまでも親の威光、兄の遺したものに甘えるな!! なーにが、事故だ!! 問題起こしても、父や兄の代から尽くしてくれている部下が揉み消してくれる、大丈夫と、ふんぞり返ってる暇があるなら、父と兄以上の主になってみせると言う気概を部下に見せろ!! この馬鹿猿!! 」


 孔明は罵る。

 よっぽど鬱憤が溜まっていたらしい。

 その怒りの矛先は周囲の文官、武官にも向けられる。


「それに部下も部下だ!! は? 怖いので戦うのやめましょう? 甘ったれるな!! そんなんで、今まで先代、先先代が基盤を作ったこの地域を、住民を、住まいを、捨て去る気だったのか!? 片腹痛い!! 自分達は無事!? そりゃそうだ。でも、今まで培った代々の土地は奪われ、どこか辺境に移されるか許昌きょしょうで、降伏した江東の人間と侮られ過ごす……そういう辱しめを受ける。それが嬉しいって言うのか!? 」

「ぐっ……」


 唸る。


「それに、説客に来た人間に恥をかかせた主を諫めることすらせず、よくのうのうとここにいられるものだ。今まで通り、もしくは降伏する、それでいいなら、今すぐここから出ていってくれません? 話すだけ無駄です!! それに、重要な戦いの話をしますので、間諜かんちょうに成り済まされても困ります」

「あの! 」


 文官でも下位の席に座っていた青年が、手をあげる。


「星見……それに気象、曖昧なもので、戦えるんですか? 」

「? 曖昧? 完璧に整えられた、お膳立てされた戦いなどありませんよ。そういう戦いができる筈がないんです。穴は出るし、人間同士の戦いですよ。その都度その都度、参謀は指示を出さなければならないんです。それに、天候、星見利用して戦って何がおかしいんですか? 何でも使いましょう!! 使えるなら、猿も」


 青年はちらっと主を見る。


「えーと、猿はちょっと……」

「私の尊敬する兄をロバ呼ばわりするので、猿で充分です。で、猿は戦うつもりなら、それなりに金を出しましょうね? 」

「猿言うな!! 白髪頭!! 」


 がうーっと噛みつく仲謀を、いなす。


「猿真似しかできない猿に言われても、痛くも痒くもありません。それよりも貴方は……」


 孔明が見ると、青年が頭を下げる。


「私は陸伯言りくはくげんと申します」

「あぁ!! 江東こうとう陸家りくけの!! ……兄に伺っていますよ。とても有能な方だと。確か、私より3才年下とか……」


 じっくりと青年を見た孔明は、


「貴方は優れた参謀になるでしょうね。真っ直ぐに正直に生きる。しかし、気を付けましょう。貴方の素直さは、他の人には鬱陶しいと思われるでしょう。ハッキリと直言するより、例えを用いて納得させる……そういう知恵を身に付けましょう。大丈夫です。そういう方法は子瑜どのが得意です」

「子瑜どのに……」

「えぇ、子瑜どのは、物心付くか付かない頃の私を背負って、『孫子』に『春秋しゅんじゅう』、『荀子じゅんし』に『六韜』を教えてくれましたので……叩き込みますよ? めちゃくちゃ凄いですよ? 4才の私を家から大人の足で二日の距離の廃城に閉じ込められて、出てこいですからね。水も食料もなく置き去り。泣きながら必死で出ていきましたよ」


 周囲はシーンとなる。

 その中で、子瑜は真顔で答える。


「だって、4才ですよ? それまで叩き込んだ知識を、どれだけ使えるか見たいじゃないですか!! もう、本当に叩き込んだ知識は使えない、使わないと、駄目ですからねぇ。その分亮は賢くて、応用もできて、自慢の弟ですよ!! 」

「ふ、普通……4才の子供に……」


 仲謀は顔をひきつらせる。


「そこまでやるか!? 」

「やりますよ。徐州じょしゅう中原ちゅうげんに近く危険だったんですよ。私は、12の時に遊学に出ましたからね。何があっても対処できる術を身に付けさせたんです。それ位の気概を持たないと、生きていけませんでしたよ。それが何か!? 」


 子瑜が立ち上がり、弟に近づく。


「12才で徐州の大虐殺から逃れ、各地を転々とし、荊州けいしゅうにたどり着いた16才には、半分白髪だったそうです。それだけ苦労したんですよ。で、去年、一日で全てが白髪に。それ位の苦労をしてきたんです。殿? 先程、家の弟に『白髪頭!! 』とか言いましたよねぇ? 」


 うっすらと口元に笑みをはいた子瑜は、


「苦労知らずの人間に、人の身体的特徴を嘲られる程、腹の立つことはないんですよ。白髪頭とか、ロバとかね? それにね? 殿は、諸葛家に謝罪一つないんですよ? そんな殿に、家の弟は策略を提案した。さて、殿は何を返すべきでしょうか? 」

「……す、すみませんでした……もう、しません。そして、ロバとか白髪頭とか、言いません!! 」


 仲謀は頭を下げる。


「よろしいでしょう……亮も良いね? 」

「まぁ、もう二度と近づかないで下さい。私はそちらと違って、そういう性癖はありません」

「俺もないわ!! 」


 がうーっと食って掛かる仲謀を鬱陶しそうに扇で止め、


「顔近づけないで下さい。気持ち悪いんで」

「こ、こいつ腹立つ!! 」

「同じですよ。こっちも。それでも説客ぜいきゃくに来てあげたんですから感謝して下さいよ」

「くぅぅ……!! こ、こいつ、あぁ言えばこういう!! 一つ一つに嫌味を乗せやがって!! 」

「嫌味で結構。じゃぁ、今回は大都督どのもいらっしゃいませんし、帰ります。きょう。帰ろうね? 」


 傍にいる息子を見下ろす。

と、喬は首を傾げ、


「……お父さん。伯言どのと子明しめいどのとお話ししたいです。何か解りそうです」

「……へぇ、そうなの? じゃぁ、お話ししようか。伯言どのと子明どの。お手数ですが、お話をお伺い出来ますか? 」

「俺で解ることなら」

「はい、大丈夫です」


 二人は一応主に頭を下げ、孔明親子と子瑜の後を追い、退出する。


「……子瑜兄貴が、こえぇ……」


 呟いた仲謀に、子敬しけいは冷たく、


「あれが子瑜のですよ、素」


と言ってのけたのだった。

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