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破鏡の世に……  作者: 刹那玻璃
赤壁への道は遠すぎず、又近くもないようです。
201/428

孔明さんは、孫家の収入源などの情報を調べているようです。※

 朝の着替えをしようとした琉璃りゅうりは、持ってきていた荷物がないことに気がつく。

 聡明なきょうですら、焦っていたのか持ち出していたのは、荊州けいしゅう孔明こうめいと琉璃と3人で作り上げた地図だけだったらしい。


 その為なのか、公瑾こうきん木蘭もくらんが気を利かせてくれたらしく、侍女たちが幾つかの荷物を持ってきた。

 それは、夜の間に準備された女性ものの衣一式と、木蘭の使っていたらしい装飾品の数々。

 荊州けいしゅうでは、『翡翠ひすい』を中心とする『硬玉こうぎょく』、『軟玉なんぎょく』の類いが多いのだが、木蘭の装飾品には、見たこともないものが多い。


「あぁ、これは『明珠めいしゅ』だね。貝が産み出す丸い宝玉。他には『珊瑚さんご』に『瑠璃るり』、『玻璃はり』に『瑪瑙めのう』、『しゃこ』もあるねぇ…あぁ『琉璃』は『瑠璃』と同じ石だね」


 覗き込んだ孔明は、一つ一つ示す。


「だ、旦那様……ご存知なのですか……? 」

「あぁ、徐州じょしゅうに住んでいた時に、父の仕事の手伝いで取引を見ていたんだよ。『珊瑚』は南の海の、『しゃこ』も南方の貝、『瑠璃』は青い石だね。『瑪瑙』は色々な色があるよ。『玻璃』は壊れやすい石だから注意だね。でも、よくこんなに集めたね……凄いなぁ……江東こうとうは侮れないってことか……」


 感心する夫に、


「そんなに、お金……」

「う~ん、荊州に運べば、相当儲けるよ。でも、私が言いたいのは、これだけのものを貿易で手に入れてるって事はそれだけ、財力だけでなく船の出入り……港の整備もされているし、入港料を得たらもっと……。そうか……孫家そんけは、それで独立を保てるのか……凄いな」


 感心したように、ぶつぶつと呟く。


「はぁ……そうか……西の貿易の道だけが道じゃない。海にも道があるんだ……」

「旦那様……? 」

「あぁ、御免ね。ちょっと考えちゃって……利用出来るといいなぁと……。うん、後で聞いてみよう。あ、きょうとうこう? お母さんに似合う飾りを選んで? お母さんの衣は淡い色にするからね」


 孔明は装飾品の箱を運び、そして衣をじっくり確認すると、


「これ。うん、琉璃に似合う。琉璃、着替えようね」

「は、はい」


 琉璃は女性用の衣に着替え、髪は孔明に結って貰う。

 過去、毎日のようにその様子を見ていた喬は、嬉しそうに母につけて貰う髪飾りを選ぶ。


「お母さんは、淡い色が似合うんだよ。お父さんは良く解ってるんだって」

「あ……ねえねえ、お兄ちゃん。この飾り、お母さんにどうかなぁ? 」


 兄に付き合い、飾りを覗き込んでいた統は示す。


「あぁ、いいね。すごく綺麗。統は見つけるの上手。それに広はさっきの選んだの、可愛かったねぇ? 」


 喬は二人の弟に笑いかける。


「ほんと~!! 広もおかーしゃん、かわいいのしゅき!! 」

「だよね」

「3人とも、飾りを決めたかな? 」


 息子たちを見る孔明に、喬は統が選んだ飾りを、


「統。持って行ってあげて。統が選んだんだから、お母さんを飾るお父さんのお手伝いもね? 」

「えっ。ぼ、僕? 」

「そうだよ。お願いね」


 統は恐る恐る手に取ると、両親に近づく。


「お母さん……えとね、僕が選んだの」

「まぁ、綺麗」

「本当だね。琉璃に似合いそうだ。統は見る目があるねぇ」


 二人に誉められ、照れ笑う。


「じゃぁ、お父さんと飾ろうか……お母さんがもっと綺麗になるね」

「はい!! 」


 統は父親に手伝って貰いながら、琉璃の髪に耳に飾る。


「ほーら、お母さんの綺麗な姿の出来上がり」


 息子たちの前に、琉璃の手を引いて歩いてくる。


「どうかなぁ? 皆」

「わぁ!! お母さん綺麗」


 3人は手を叩き、喜ぶ。


「うわぁ……うわぁ……」

「おひめしゃま、おひめしゃまだぁ。おかーしゃん、おひめしゃま」


 勇ましい男装の多い母親の初めて見る姿に、統に広は目を見開く。


「だよねぇ!! お母さんはお姫さまみたいだねぇ」


 遠くから、近くから見ていた孔明は、うんうんと満足げに頷く。


「やっぱり似合う!! 琉璃はやっぱり国一番!! 」

「そ、そんなことは……」


 ぱぁぁっと頬を赤らめる。


「やっぱり、琉璃は男装よりも、こういった色の、柔らかなフワッとした衣が似合うよ。ほんのりと化粧すると、あでやかになるし……」


 楽しそうに、愛おしそうに目を細める孔明に、気恥ずかしくなり琉璃は視線をそらせる……と、どういう訳か目を遠くした義兄の子瑜しゆ子敬しけい、公瑾が立っていた。


「お、お兄様!! 」

「……一体何時まで新婚気分なの……? りょうと琉璃は」


 呆れ返ったと言わんばかりの呟きに、孔明は真顔で、


「自分が満足するまでですよ。決まってるでしょう!! 兄上!! それに見て下さい!! 私の琉璃の愛らしさを!! 琉璃程可愛くて、愛らしくて、努力家で、完璧な嫁はいませんよ!! この姿を見せるの、時々躊躇うんですよね……特に季常きじょうに見せるのは」

「あぁ、あれ? あれってさぁ…お子さまだよねぇ……」


 子瑜が呟く。


「何時までもお子さま、じゃあるまいし、気を引きたいなら別の方法をとれば良かったのにね」

「……? 旦那様、お兄様? 季常どのが何か? もしかして、旦那様を!? 」


 顔色を変え、夫と義兄を見る。

 琉璃にとって、季常は関平かんぺいと共に『鬼門』である。

 苛める人、苦手な人という認識らしい。


 その姿に、子敬は、


「琉璃どのは、そのまま可愛いままで充分だよ。うん、可愛い嫁って良いねぇ。孔明どの」

「えぇ、自慢の嫁ですよ」

「まぁ、その話は後にして、開戦派としての話をしておきたいんだけど。子瑜と3人で、話せる? 」


 子敬の言葉に、喬が手を挙げる。


「僕も行きます。僕も母とここに来るまで……ここでも話していたんです!! 参加させて下さい」

「子供の遊びじゃないよ? 」


 子瑜の言葉に、キッと喬は実父を見上げる。


「母も父も、僕も物見遊山に来たつもりはありません!! 一応、ち……母と統の静養もありますが、説客ぜいきゃくとしての責任は果たします!! 」

「それならいい。じゃぁ、喬も来るといい」

「ありがとうございます。来たからには、それなりの成果をご覧にいれます」

「それは楽しみだ。喬」


 ニッコリと笑う実父をキッと睨み付ける喬。


「喬。実のお父さんに喧嘩を売らないんだよ。本当に、兄上に喧嘩を売れるのは、早々いないよ。あの世を見るよ……」


 孔明は、忠告する。


「まぁ、琉璃は、統と広と遊んでなさい。お願いね? 」

「はい、いってらっしゃいませ」

「行ってきます」


 長男の手を引いて、先を歩く3人を追いかけ孔明は部屋を出ていったのだった。

翡翠ひすいには硬玉、軟玉があり、加工しやすい軟玉で様々な工芸品を作っていたようです。

翡翠と、インド翡翠とも呼ばれるアベンチュリンは違う石です。


珊瑚さんごは、この連載時は勉強不足のため、普通に桃色珊瑚、白珊瑚があると思っておりましたが、桃色珊瑚と白珊瑚は深海に生きる珊瑚で、当時は滅多にお目にかかれなかったようです。

現在、中国が乱獲しているのはこの二つの珊瑚です。

で、当時は西から渡ってくる紅色珊瑚が有名で、取引がされていました。

現在の地中海原産の珊瑚です。


明珠めいしゅは真珠の別称です。


瑠璃るり琉璃りゅうりはラピスラズリのことです。


玻璃はりは天然のガラスや、古いガラスのことも指しますが、水晶の別称として記載されることもあります。


瑪瑙めのうは縞めのうが多く、ブルーレースと言う薄い水色の縞模様の石もその一種です。


しゃこはシャコガイのしゃこで、磨くととても美しいので珍重されました。


よろしくお願いいたします。

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