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破鏡の世に……  作者: 刹那玻璃
長阪坡の戦いになる事を食い止める術はありません。
175/428

孟徳さんが出るといつも疲労感と脱力感を伴います。※

「だ、旦那様!! 」


 きんに手綱を取られ、愛馬、月花げっかに身を伏せた孔明こうめいの姿に、琉璃りゅうりは悲鳴をあげる。


「だ、旦那様……旦那様!! 」


 馬を寄せると、孔明が動き顔をあげる。

 意識を取り戻したらしい。

 首を動かし、愛妻を見ると笑みを浮かべる。


「琉璃もだ、いじょうぶ? ……平気……? ……私、は……これ位なら……少し、休んだ位で、すぐ動けるよ……」

「馬鹿言わない!! 兄様!! 何であの時にせんを抜いたの!! だらだらと流血してるでしょ!! 」


 均は怒鳴るが、孔明は、


「あ、んな……卑怯な事を、するから……毒が塗られてると思って……あぁ、頭がくらくらする……」

「貧血だよ、貧血!! 黙って月花に掴まってて!! 」

「ど、こに行くんだ……均……」


 馬の足を早めさせた均に、孔明は訊ねる。


「傷の手当てが先!! 敵兵を前にして手当て出来ないでしょ!! 先に進んで橋越えるよ」

「だ、めだ……琉璃を置き去りに出来ない……」

「琉璃も行くんだよ? 」

「それでも、人々を置いて先に行けない……!! 」


 月花の動きを止めようとするが、均はそれを阻む。


「駄目だってば!! 何考えてるの!! 兄様!? 」

「行けない……駄目だっ」

「おい、何やってるんだ!? 」


 駆け寄ってくるのは、益徳えきとく士元しげんである。


「孔明!? これは……」

夏侯妙才かこうみょうさい将軍と一騎討ちをして、立ち去ろうとした時に、連弩れんどで背後を……」


 均が説明する。


「で、兄は毒がついてたら困ると即座に抜いて……今、貧血で朦朧もうろうと……だから、駄目だってば!! 兄様!! 」

「だ、めだ……卑怯な事を、する軍に、人々が、おそ、われたら……」


 身を起こそうとする孔明に、


「寝てろ!! 」


 こんっと、益徳が首筋に手刀しゅとうを入れると、今度こそ意識を飛ばす。


「均。琉璃と共に、こいつ連れていけ。出血が多いと命に関わる」

「はい、益徳どの。それに士元兄さん。済みませんが、後はよろしくお願いします」


 均は頭を下げると、士元が思い出したように、


叔常しゅくじょうが、無事に橋まで行き着いてたら、こっちに来てくれと言っておいてくれ」

「解りました!! じゃぁ」


 琉璃と共に、孔明を支えながら均は去っていく。


「まぁ……戦場は何でもありなんだが……終えて、戻っていく武将を射るってのは誰が教えたんだ? 幾らあの曹孟徳そうもうとくでも、やっていいことと悪いことがあるだろう!? 」

「まぁ、戦場だからなぁ……兄貴」


 溜め息をつき、しんがりをする為に出向く。

 そこには脇腹を押さえ馬に乗る妙才と、士元と顔馴染みの仲達ちゅうたつ

 そして、元譲げんじょうが厳しい顔つきで自軍の兵をねめつけていた。


「よぉ!! 元譲どのいたのか? 」


 気安く声をかける益徳。


「こっちの子竜しりゅうが一騎討ちをした後、背を向けた所を連弩で射てくれたんだって!? 毒でも塗ってたのか? 」

「……申し訳ない。背を向けた者に射るなど、武人の恥。そちらに引き渡し、相応の罰を……」

「いらねぇいらねぇ。それに、それって責任転嫁、だろ? 自分たち……元譲どのとそこの妙才どのがぶん殴るなり、許昌きょしょうに帰ってそれ相応の罰を与えりゃぁ良いだろうが。こっちに引き渡されても、こっちが迷惑だ。引き渡してくれるなら、猪とか食い物くれよ。あぁ、そこの妙才どのは猪でもいらねぇ」


 孔明と同じことを言われ、顔を赤黒く染める妙才。

 その表情に、


「あ、お前、こ……子竜にも言われたのか? あはは……お前、猪みたいに突進するもんな」

「う、うるさい!! お前に言われたくない!! 」

「そうか? お前、猪だから子竜に殴られただけで済んだんだぞ? ひげなんて、両腕ねじり折られたんだぞ? アイツ、見た目は優男だが怪力だから」


 益徳の声に、妙才は、


「髭ってのは関雲長かんうんちょうの事か? お前の義兄弟の」

「元、義兄弟。今、無関係」


と話している横で、


「久しぶりだな、仲達どの。もしかして子竜への攻撃、あんたが指示したのか? 」


 士元が仲達に話しかける。


「ち、違う!! そんなことは指示しない!! 」

「なら、生け捕り? 」

「えっ……」


 咄嗟とっさに表情を作ることを忘れた仲達に、うっすらと凄みを増した微笑みを返す。


「ほぉぉ……勝手に人の獲物を横取りとは、いいご身分だな!! さすがは『司馬家しばけ八達はったつ』。こっちの『馬家ばけ五常ごじょう』とそう変わらねぇ馬鹿だ」

「おいこら!! 俺の事を馬鹿だと!? 」


 ビシッと士元の頭を殴る、男にしては小柄でせんの細い……。


「おぉ、馬鹿だ馬鹿」

「お前こそ馬鹿だろうが!! 」

「お前の弟も馬鹿、で、あれが『司馬家の八達』の次男の仲達どの」


 士元が示す男をじっと見たが、すぐに、


「お前と同じ根性悪そうな目をしてる。気に食わない奴だ」

「俺と同じ根性悪? あぁ、そうだな。と言う訳で、お前嫁に行け」

「ボケがぁ!! お前と同じ根性悪そうなのと再婚したくはない!! 何で再婚してまで、同じような性格悪、根性悪、目付き悪、頭悪と一緒にいなきゃならないんだ!! 結婚するなら琉璃がいい」

「馬鹿か!! お前女だろうが!! 」


 呆れ返った口調の士元に、叔常は真顔で、


「孔明どのと結婚したら琉璃は泣くから、俺が琉璃と結婚する!! 」

「……馬鹿だ……『馬』家の馬は『馬鹿』の馬か……。なら、『司馬』家は……」

「お前と同じだから『馬鹿』だな」


 ふんっと夫を睨み付けると、にっこり笑い、


「一騎討ちをした武将の背を射るような、馬鹿な部下をお持ちの皆さん。俺は馬家の五常の第三子馬叔常と申します。弟の敬兄を射て下さったそうで……どうして俺の弟を射て下さらなかったのか、残念です。面倒なく抹殺出来たのに……」

「おい、叔常……駄々漏れだぞ? 本気で言ってるのか? 」


 突っ込む士元に、叔常は、


「当然!! 孔明どのが大怪我するなら、季常か幼常……あぁ、両方でも、良かったのに……残念」

「お前も性格悪だよなぁ……」

「お前に言われたくない……それよりも、俺と一騎討ちしますか!? で、又背を向けたら射るって、面白いでしょうね!! こっちの殿が、大々的に噂ばらまきますよ? 楽しいでしょうね……そちらの主君の株が大暴落。ついでに、涼州りょうしゅうの辺りが色々と……」


 くくっと楽しげに笑った叔常。

と、


「それは困ったわねぇ……それよりも、あんなに約束させたでしょ!! どうして、趙子竜ちょうしりゅうを射たのよ!! それに、背後からってどういう事よ!! 」


 人混みを掻き分け、馬に乗って現れたのは、華やかと言うよりも派手な深紅の衣を纏っている男。


「元譲は兎も角!! 妙才ちゃん!! 仲達ちゃん!! 貴方たち何をやったの!! んーもう馬鹿!! もう知らないわよ!! 」


 仕草は男だが、口調はオネェ……に、よく知った益徳が引く。


「な、何だ!? 曹孟徳がおかしくなった!! 」

「何よぉ、失礼ね!! 益徳ちゃん。あたしはまともよ、ま・と・も! 今は怒り狂ってるだけよ!! 許せないわ!! 妙才ちゃん!! 仲達ちゃん!! 二人は帰ってお仕置き!! 元譲は残りの兵をまとめて引き返しましょう。どうせ、子竜ちゃんたちもいないし、玄徳もトンズラこいてるんだから、追いかけても無理よ。それよりも伝えておくわよぉ!! 元直げんちょくちゃんと赤ん坊はあたしが貰っちゃったわ。ついでに、元譲の家の婿に放り込んでおいたから安心して頂戴ねぇ? 」

「な、なぁぁ!? 」


 今まで、聞いていられないと無心になった振りをしていた元譲が、従兄を見る。


「ど、どういう事だ!? 」

玉樹ぎょくじゅちゃんの婿よ。あの子毎日爆発に破壊に粉砕でしょ? いい加減、元譲の手に余るんじゃないかと思って。瓊樹けいじゅちゃんは喜んでたわよ? 」

「だ、大事なことを、瓊樹に決めさせるなとあれ程言ったではないか!! 孟徳!! 」


 食って掛かる元譲を、笑いながらいなす。


「いーじゃない。あの破壊魔、玉樹ちゃんの婿よ? いい物件だと思うわ」

「いい物件も何も、私は!! 」

「じゃぁ、そのまま破壊活動を邁進まいしんさせて、屋敷崩壊の連続記録塗り替えさせるの? 」


 その言葉に元譲は遠い目をする。


「はい!! 二つに一つ!! 元譲が瓊樹ちゃんと玉樹ちゃんの過激な暴走を一人で食い止め続けるか、あの温厚で大人しい好青年の元直ちゃんを巻き添え……はっきり言って生け贄にして、半分重荷を減らせるか、よ!! それでなくても、元譲は妙才ちゃんに子廉しれんちゃん、子孝しこうちゃん他多数の子守りでお疲れ様なんだから、ここで一気に玉樹ちゃんを押し付けなさいよ」

「お前も子守してるがな」


 元譲は呟くと、益徳たちに頭を下げる。


「申し訳ないが、元直どのを頂いた。そちらに戻すことは出来ないと言うより、もう一人で二人の世話は無理だ……半分重荷を押し付けるが、その代わり大事にするからと、元直どのの友人たちに伝えておいてくれ!! 頼んだ!! 」

「ってことで……じゃぁ、又ね? 玄徳に伝えておいて? 恨みを晴らすのならもっと別の方法にしなさいってね……糜夫人びふじんちゃんも雲長うんちょうちゃんの奥さんも、侍女の二人の遺体を引き取ったわよ。それに、二人の娘にめかけも一人置き去りにして、いつまで恨みを持ち続けるの……いい加減にしなさいって。殺した方も殺した方だけれど、守れなかった自分が、本当は一番悪いのよ。いつまでもねちねちと馬鹿らしい。いい加減にしないとひねつぶす……って言っておいてね? 」


 ヒラヒラと手を振り、後ろを向くと、


「ほら、何とろとろやってるの!! 帰りなさい!! 元譲の所の玉樹ちゃんの婚礼よ!! 楽しみよねぇ」


と言いながら、立ち去る。




 残された益徳と士元、叔常は、何とも言えない脱力感と疲労感を覚えつつ、先を急ぐのだった。

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