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破鏡の世に……  作者: 刹那玻璃
長阪坡の戦いになる事を食い止める術はありません。
162/428

元直さんは囚われの身の上となってしまいました。※

 少しだけウトウトと寝入っていた元直げんちょくは目を覚ますと、纏めていた荷物を手に立ち上がる。

 覚えている限りでは昨日移動した道を戻っていくと、この廃墟の村の向こうに馬車がある筈である。


香月こうげつ……今日も頼むよ」


 愛馬を撫でると早急に馬に乗り、目的の馬車がある場所に向かっていく……。


 小半時もすると馬車が見え、速度を早め近づくと寸分たがわぬ馬車を見つける。


 近づくと幕をめくりあげ、馬車を覗き込む。

 馬車の奥に赤ん坊がかごの中におり、馬上からは手が届かない。

 仕方なく馬を降り、馬車に入ると奥まで向かい、かごの中の阿斗あとを抱いて香月に乗ろうとすると……。


 ざざざっ!!


 すさまじい数のぼうげき連弩れんどの先が元直に迫っていた。


「よーっしゃ。劉玄徳りゅうげんとく軍の人間見っけた」


 にやっと笑うのは、童顔の武将。

 咄嗟とっさに剣を掴もうとするが、


「やめておくがいい。赤子に危害を加える気はないが、手が滑って……と言うことも有り得る」


 片目を布で覆った、男がゆっくりと近づいてくる。


「私は曹孟徳そうもうとく軍の武将、夏侯元譲かこうげんじょうと言う。そちらは?」

「……わ、私は……劉玄徳軍の参謀……徐元直じょげんちょくと申します。この子は……ゆ、友人の息子……です」

「友人の? 」


 元譲に覆い被さるようにのし掛かる男が、


「友人の子供? あんた、仮にも軍の参謀だろ? それにバカな俺でも知ってるぜ? 普通、層の少ないお前の所の貴重な参謀が助けに来る赤ん坊ってのは、相当な身分の子供だろ? 」

「友人の子供です!! それ以外ありません!! 」

「おい、こら、正直に話せよな!! 俺は短気だ、ぶん殴るぞ!! 」


 ムッとした顔に、フッと笑うと、


「劉玄徳軍の益徳えきとく将軍ですら、私には一度も手をあげませんでした。この軍は捕虜に暴力を振るうのですね? そうでしたか……孔明こうめいが言っていましたね。曹孟徳軍は元譲将軍以外は、名乗り見せずに一騎討ちをすると」

「……ぐっ!? 」


 口ごもる男に、繰り返す。


「この子は、友人の息子です。混乱で置き去りにされた子供を迎えに来ただけです。それで? 」

「……この子は、友人の子供と言っていたが、そなたの友人と言うと諸葛孔明しょかつこうめい龐士元ほうしげん馬季常ばきじょう幼常ようじょうだろう? だが、龐士元は結婚しているが妻女は襄陽じょうよう。馬季常は未婚者。幼常は結婚はしているが実家……3人は子供なし。子供がいるのは諸葛孔明。しかし、子供は5才の息子に生まれたばかりの女の子」

「で、ですから……この子は……」


 そこまで情報が流れているのかと焦る。


「十中八九、劉玄徳の息子だろうな。又、子供を捨てて逃げ出したか、あの男は!! 」


 眉をつり上げ罵る元譲に、横の男は、


「え、えぇぇ!? こ、こいつ、劉玄徳の息子か!? 」

「おい、こら、何をしている!! 」


 男が手を伸ばそうとするのを、元譲は止める。


「何をって、劉玄徳の息子だろう!? 殺すんだよ。女ならどっかに嫁って出来るが、男は駄目だ。可哀想だが殺すしかねぇ」

「やめろ!! 妙才みょうさい。劉玄徳の息子を捕らえたんだ、一応と言うか、も……殿に相談してからだ。……申し訳ないが徐元直どのとおっしゃられたな? 貴方の身柄は我々がお預かりする。逃げ出したりしないと言われるなら、綱も打たないし、その赤子は抱いたままで結構だ。どうされる? 」


 淡々と……話す元譲は問いかける。


 元直は、穏やかだが孟徳軍1の名将の一瞬立ち上った殺気に、力を抜き、告げる。


「逃亡は致しません……お約束します。まだ死にたくありません」

「それはよかった……では、数人の警備をつけ、後ろを追う孟徳……殿の元に、向かって戴く」

「解りました……」


 呟いた元直は、後悔するのではなく、何故かホッとした顔をした。


 その表情に、元譲は一瞬問いかけようとするが、すぐに、


「では、先を進め! 」

「はっ! 」




 劉備軍の後を追う部隊に逆送するように馬に乗せられ歩く元直は、目を閉じ俯いたのだった。

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